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後編  よろめきながら立ち上がると、同じくらいの高さに、ドミニクとエリーズの顔があった。  つまりバレエブーツを履かされていなければ、ふたりはクリスティーナより10センチ以上背が高いということ。  その長身を利用して、エリーズが天井の梁に革のベルトをかける。ぶら下がるベルトの反対側の金具を、クリスティーナの首輪につなぐ。  首輪を梁からベルトで吊られ、もう座り込めなくなった。  そんなクリスティーナの前に、ドミニクが立つ。アームバインダーに囚われた腕に身体をくっつけるように、背後からエリーズが身を寄せる。 「んぅう(なにを)……」  するつもりなのか。  正面に立つドミニクの瞳に灯る妖しい光に、おののく気持ちが生まれたときである。 「ん(あ)ッ……!?」  背後から不意に、聖女のベールが剥ぎ取られた。 「ほう、隠しておくにはもったいないほど、美しい髪ではないか」  感心して告げたドミニクの言葉を、クリスティーナは自分を馬鹿にするためのものと捉えた。  それで、ドミニクに対する反発心が生まれた直後――。 「ンう……ッ!?」  耳たぶから首すじにかけて、ゾワリとした感覚が駆け抜けた。 「感度はいいようだな」  耳元でエリーズにささやかれ、彼女が耳たぶに息を吹きかけたのだと気づいた。 「こんな感度のいい肉体、教会の禁欲生活では持て余していたのではないか?」 「ん、んむう(な、なにを)……?」  侮辱するような言葉に、思わず声をあげかけたところでもう一度。 「んう……ッ!?」  声をあげて、エリーズの唇が耳たぶに触れていることに気づいた。 「ぅむぅんん(やめなさい)……ッ!」  しかし言葉にならない拒絶は、当然のように受け入れられなかった。  厳重に拘束されているうえ、首輪を天井から吊られた状況では、抵抗もできなかった。 「くくく……いやらしい肉体だ」  耳元でささやきながら、エリーズがクリスティーナの肩に手を置く。 「こうされるだけで、ゾクゾクするだろう?」  そしてそう言いながら、絶妙な力加減で肩から二の腕にかけて撫でさする。 「ん、んむぅむむ(やめなさい)ッ」  エリーズの手つきのおぞましさに思わず声をあげた刹那、ドミニクの手が胸に触れた。 「……ッ!?」  ぶ厚い修道服と下着のシュミーズごしに乳首の上に人差し指を置かれ、口枷の奥で悲鳴をあげる。 「ふふふ……乳首も感度がよさそうだな?」  乳首を軽く押しながら、ドミニクが目を細めた。 「ほんとうに、聖女なんかにしておくのは惜しい、全身性感帯の肉体だ」  耳元でささやきながら、エリーズが手を肩からわき腹へと移動させた。  聖女にしておくのは惜しいと言うのは、どういう意味なのか。クリスティーナ自身は、聖女の呼称に誇りを持ち、そう呼ばれることが自分にとってこの上ない果報と思っているのに。  なぜエリーズは、そう言ったのか。  さらにドミニクは、どうして乳首の位置を的確に当てたのか。  それは、ふたりが性奴隷調教師だからである。  服の上からでも正確に乳首を見つけられたのは、そこがオンナの性の急所だから。調教対象を快楽漬けにして性奴隷に堕とすのが生業の調教師にとって、それは造作もないことだ。  とはいえ、見つけた性の急所を責め快楽漬けにしても、オンナを性奴隷に堕とすことは容易ではない。とくに、誇り高く気高い精神を持つ聖女ならなおさら。  そのため性奴隷調教師は、調教対象の肉体のみならず精神も責める。  あの手この手を使って、清浄な女の肉と心を、性奴隷のものに変えていく。  エリーズの言葉も、その一環なのだ。  だが、クリスティーナはそのことを知らない。聖女たる彼女が、性奴隷調教師の手練手管に対する知識など持っているわけがない。  そして、ドミニクとエリーズもそうと教えない。プロフェッショナルな調教師は、けっして己の手の内を明かしたりしない。  知らず明かされないまま、クリスティーナは調教を施されていく。わずかずつ、だが確実に、肉体と精神を性奴隷のものに変えられていく。  自分自身では、そうと気づかないまま。  ドミニクに軽く押されていた乳首が、いつしか硬くしこり、服の上に形を浮き立たせ始める。  耳元に息を吹きかけながら、エリーズが身体各所をまさぐり続ける。  その行為が、ゾクゾクとおぞましい感覚を生む。  実のところ、それは性の快感だ。  肉体をまったく開発されていないうえ、性的なこといっさいを遠ざけて生きてきたせいで、そうと認識されない快楽の予兆だ。  それが変わり始めたのは、ドミニクの手つきが変化したとき。  それまで軽く押していただけだったドミニクの人差し指が、服の上に浮き立つほど硬くしこった乳首を、上下にはたき始める。  はじめその玩弄も、おぞましいだけだった。  だが行為を続けられるうち、おぞましさのなかに、かつて覚えたことのない感覚が生まれ始めた。 「んふ、んふ、んふ……」  同時に、次第に呼吸が荒くなり始めた。 (こ、これは……?)  とまどい、自問したタイミングで、エリーズがささやく。 「感じ始めたようだな?」  呼応するように、ドミニクも告げる。 「これほど感度のいい肉体だ。感じないわけがない」  感じるとは、性的な快感を得ているという意味だ。性的なものいっさいを遠ざけて生きてきた聖女でも、それくらいのことはわかる。 (で、でも……)  自分が快感を得ているとは思えない。己の肉体から、快感が生まれているなんて信じられない。  その気持ちが滲み出ていたのだろうか。 「もしかして、自分が感じるわけがないと思っているのか? だが、肉体は正直に反応しているぞ?」  わき腹に指を這わせながらエリーズがささやくと、追い詰めるようにドミニクも口を開いた。 「頬が赤いぞ。身体が熱くないか? 吐息が荒いぞ。肉が昂ぶり、体温が上がってないか?」  そのとおりだ。身体が熱い。肉が火照っている。 「それは、オンナの肉体が感じ始めた証だ」  自分でも内心そうではないかと疑っていたことを、はっきりと指摘された。  言葉に出して指摘されたことで、感じ始めているのだと自覚させられた。  そんなクリスティーナの肉体を、ふたりの性奴隷調教師が責める。  エリーズは肩からわき腹にかけて、ドミニクは乳首に集中して。一見単調と思える緩い刺激を、聖女の肉体に与え続ける。  実のところ、それもふたりの手練手管だった。  クリスティーナのような性体験に乏しい女にとって、強く激しい刺激はかえって逆効果。性の熟練者には弱すぎるほど緩い刺激をじっくりと与え、ゆっくりと性感を開発しなければならない。  自分が性の快感を得ているのだと、本人にはっきりと自覚させながら。  その手順を踏みながら、ふたりは聖女の肉体を弄り続ける。  エリーズは肩からわき腹へと、触れるか触れないかの強さで撫でながら、耳たぶに息を吹きかける。  ドミニクは両の乳首を人差し指で、軽くかつリズミカルにはたき続ける。 「んふ、んふ、んふ……」  鼻に抜ける吐息が、ますます早く激しくなってきた。 「んふ、んふ、んふ……」  頬が、身体が熱い。オンナの肉の奥が火照る。 (これが、これが……)  性的な快感、肉が昂ぶるということ。  そうと認識させられながら、動けないクリスティーナは少しずつ、だが確実に追い上げられていく。  その間もふたりの性奴隷調教師は、緩く単調な性的刺激を与え続ける。  長時間にわたり、飽きることなく、疲れも見せず、清らかな聖女の肉体に快楽を覚え込ませるために。 「んふ、んふ、ンん……」  クリスティーナの吐息に、甘みが混じり始めた。 「ンん、んぅ、んっ……」  甘みに加え、艶も帯び始めた。  そこが頃合いと見計らったのだろう。エリーズとドミニクは視線で合図し合い、ほんの少しだけ責めかたを変えた。  エリーズがわき腹を撫でていた手をお腹のあたりに回し、アームバインダーに閉じ込められた腕にぴったりと身を寄せる。  ドミニクが軽くはたいていた乳首を、親指と人差し指でつまんでこね始める。  それは、聖女の高まりが本格的になっていると判断したから。  クリスティーナがオンナの性の急所たる乳首の快感に集中できるよう、エリーズは撫で回すのをやめた。刺激に慣れすぎてしまわないよう、ドミニクは愛撫の方法を変えた。  それが功を奏し、囚われのクリスティーナは乳首に生まれる感覚を、はっきりと快感だと捉えるようになった。  快感を快感と認識し、それを受け止めさせられた。 「んっ、ぅん、んぅん……」  漏らす吐息が、いっそう艶を帯びる。  エリーズとドミニクはもちろん、鉄格子の向こうのイザベラにも、さらにその後ろで背を向けている警護の女兵士にも。聖女が性的に高まっていると伝わるほどに。  そしてもちろん、クリスティーナ自身にもわかっている。 「んぅん、んっ、んふ……」  わかっているからこそ、吐息に混じる艶を抑えようとする。  その抵抗を、ふたりの性奴隷調教師は止めさせようとしなかった。  吐息だけ無理に抑えていても、性感は高まり続けるとわかっていたから。  よりいっそう高まれば、抑えていられなくなると知っていたから。  そして抑えようとしても抑えられなくなったとき、オンナは自らの昂ぶりをより強く自覚するから。  エリーズとドミニクは、ただ淡々とクリスティーナを責める。 「んふ、んふ……ッ」  艶めく吐息が漏れそうになり、慌てて飲み込んだ。 「んッ、ん、ふ……」  平静を装おうとしても、昂ぶりを隠せなくなった。 「んッ、んぅ、ぅん……」  やがて、抑えられなくなった。 (ああ、わたくしは……)  艶めく吐息を、長くは抑えていられなかった。 (わたくしは、ほんとうに……)  感度のよい、いやらしい肉体の持ち主なのだろうか。  聖女にしておくのは惜しい女なのだろうか。 (では、いったい……)  自分にふさわしい身分とは――、 「ン……ッ!?」  そこで、ビリビリと痺れるような感覚が乳首に生まれ、乳房全体に広がった。 (こ、これは……?)  乳首の快感だ。これまでより一段大きい快感に襲われたせいで、それに慣れていない肉体が、痺れと受け取ってしまったのだ。 (ですが、なぜ……)  快感が大きくなったのだろう。  それは、ドミニクが指に力を込めたからである。  フニフニと乳首をこねていた指で、乳首を強めにつまんだのだ。  そのことにすぐ気づけないほど、クリスティーナは昂ぶっていた。  昂ぶりを見抜いたからこそ、ドミニクはそうした。 「んッ、んッ、ンッ……」  厳重に拘束された身が、大きな快感に襲われる。 「んッ(いや)、んッ(いや)、んっ(いや)……」  でも、抗えない。 「んッ(いや)、んッ(いや)、んっ(いや)……」  だが、逃れられない。  大きくなった快感に、身も心も抵抗できず翻弄される。 「んん(ああ)、んん(ああ)、んう(もう)……」  抑えていられない。  エリーズに後ろから抱きすくめられ、ドミニクの指で、イザベラに見られながら、警護の女兵士に聞かれて――。  そこで、ハッとした。  彼女たちは全員、帝国の人間だ。聖女として護るべき町の民ではない。  クリスティーナが聖女として、凛々しく振る舞う必要のない者たちだ。 (だ、だから……)  多少乱れた姿を見せたとしても、なんの問題もない。  実のところ、クリスティーナがそう考えたのは、快感と艶めく吐息を抑えられなくなった自分への言いわけだった。  言いわけして、性的に昂ぶり高まる自分を赦したのだった。  これから晒されることになる痴態が、多少乱れるなどという生易しいものではないとも知らず。  言いわけして赦したことで、タガが外れたように快楽の道を一直線に駆け上がり始める。 「んん(ああ)、んん(ああ)、んうんん(どうして)……」  これほど昂ぶるのか。高められてしまうのか。  エリーズとドミニクの正体が、オンナの肉と心を淫らに躾けることに長けた性奴隷調教師だと知らないまま。  クリスティーナの肉と心を淫らに躾けるため、イザベラがふたりを連れてきたのだと気づけないまま。  清らかだった聖女の肉体が、性奴隷調教師の手で淫ら色に染められていく。 「んッ、んう、ンんッ……」  艶めく吐息を漏らしながら、肉を昂ぶらされる。 「んん、ぅん、ぅぅん……」  くぐもってうめきながら、性感を高められる。 「ぅん、んぅ、ンむう……」  そのうめき声は、呪文封じの口枷がなければ喘ぎ声になっていただろうと思えるほど、媚びを含んでいた。  そのことに、昂ぶり高まるクリスティーナは気づけない。  口枷のせいで喋れない口で、うめいているとしか思っていない。 「ほんとうにいやらしいな。こんな女が、聖女とは思えない」  ドミニクがつぶやいたのは、クリスティーナが充分に高まっていると判断したから。 「こんなみじめに拘束された状態でもし絶頂でもしたら、もはや聖女ではなく淫女だな」  エリーズがささやいたのは、そのときが近いと判断したゆえ。  クリスティーナは聖女とは思えないほどいやらしいと。もし絶頂したら聖女ではなく淫女なのだと。  清らかだったクリスティーナの精神に擦り込みながら――。  そこで、ドミニクがこねていた乳首を指で押しつぶした。 「ン、む……ッ!?」  それまでより強い刺激に、乳首の快感が背すじを駆け上がる。  そこで、なにかが来た。  ほんとうはたどり着いたと表現すべきだが、そのときのクリスティーナはそう感じた。  ガクン、と膝から力が抜けた。  首輪を革ベルトで吊られる寸前、後ろから抱きすくめるエリーズに支えられた。  ビクン、支えられた身体が震える。 「ん(あ)、う(ひ)ッ!?」  襲いくる快感に飲み込まれ、一瞬意識が飛びかけた。 (な、なんですかッ、コレは……?」  それは、小さな絶頂。いわゆる、軽くイクという状態。  性体験の豊富な女なら、一度は味わったことのある悦び。  だが、クリスティーナには経験がなかった。性的な行為も、もちろん絶頂も。  だから、当然知らなかった。性的な行為の果てに女がどうなるのかも、絶頂した女がどうなるのかも。  そして――。 「……ッ!?」  陶然とする悦びのなか、クリスティーナは自分が恐るべき状態に陥っていることに気づいた。  下穿きを濡らし、修道衣のスカート部分に染み込みながら、太ももからブーツを伝って床に流れ落ちる温かい液体。 (わ、わたくし……失禁している!?)  そうと気づいたときには、迸る水流は止められなくなっていた。 「ん(あ)、ん(あ)、ん(あ)……」  呆然とうめきながら、足下に水溜りを作る。 「んぅう(いやぁ)、んむぅうぅ(見ないで)……」  しかし、この場の全員が、クリスティーナの醜態から視線を外さない。  揶揄したり囃し立てたりしないだけまだ――いや、ましではない。  誰も言葉を発しないから、液体が硬い床を叩く音がよく聞こえる。自分が失禁していることを、否応なく思い知らされる。  そして、膀胱内に溜まっていた液体がなくなった頃、ドミニクが首輪を天井から吊っていたベルトを外した。  そして、エリーズが抱きすくめていた手を離した直後。 「んぅンんん(あぁあああ)……)  放心して身体に力を入れられないクリスティーナが、自らが作った水溜まりの中にへたり込んだ。 「ぅ、ん……」  低くうめいて、クリスティーナは目覚めた。  あれから――失禁し、自らの小水の上にへたり込んでから、ドミニクが呪文を詠唱した。 (あれは……)  導眠魔法だった。  ふだんのクリスティーナなら無詠唱で防御可能だが、魔力封印の刻印つき呪文封じの口枷を嵌められた状態では防ぎようもなく、あっけなく眠らされてしまった。  とはいえドミニクの導眠魔法は、彼女の治癒魔法と同じく基礎的なもの。クリスティーナが使うような軍隊すべてを眠らせるような最上位全体魔法でもなければ、一度かければ永遠に眠らせることも可能な超強力単体魔法でもない。  対象ひとりを眠りに導くだけの魔法では、ふつうに眠ったのと同じように、時間経過とともに目が覚める。  それが、今だった。  場所は変わらず、地下の牢獄。窓がなく、鉄格子の向こうに四六時中明かりが灯る地下牢では、現在の時間もわからない。  床が濡れていないのは、眠らされているあいだに清掃されたのか。それとも、別の房に移動させられたのか。びしょ濡れになったはずの修道衣も、下着も、身体も――。  そこで、ハッとした。  呪文封じの口枷も、アームバインダーも、バレエブーツも、首輪もそのままだから気づかなかったが、すべての衣服を剥ぎ取られている。  いや正確には、代わりの衣服は与えられていた。  もっとも、各種拘束具と同じ素材の革製コルセットと、それに設えられたガーターに吊られたストッキングを衣服と呼べるのならば。 (ど、どうして……?)  こんなことになっているのか。  それはもちろん、眠らされているあいだに、着替えさせられたからである。 (で、ですが……なぜ?)  囚人服ではなく、このような扇情的な格好をさせられているのか。 (この装束では、まるで……)  性奴隷のものではないか。  そう感じたところで、昨夜のエリーズとドミニクの言葉を思い出した。 (わたくしは、彼女たちが言うように……)  いやらしい肉体の持ち主なのだろうか。  聖女にしておくのは惜しい女なのだろうか。  聖女ではなく、淫女と呼ぶべき存在なのだろうか。 (では、いったい……)  自分にふさわしい身分とは――、  そこまで考えて、怖気が走った。  軍人が軍服を着るように、修道女が修道衣を着るように、衣服はそれを着る人の人となりを示すものだ。 (だとすれば、性奴隷のような装束を着つけられたわたくしは……)  そこで、エリーズとドミニクが現われた。  そして、瞳を妖しく輝かせて告げた。 「目覚めたようだな」 「それでは、本日の調教を開始する……淫女クリスティーナに対する、性奴隷調教を」  クリスティーナがエリーズとドミニクの調教を受けるようになってから、どれほどの日にちが経過しただろう。  陽の光は届かず、四六時中照明が灯された地下牢獄では、時間の経過がわからない。  はじめ導眠魔法で強制的に取らされる睡眠の回数で日にちを数えていたが、あることをきっかけに、数えても無駄と考えるようになった。  そのきっかけとは、意識があるときは常に呪文封じの口枷を嵌められていると気づいたこと。  それによる顎の怠さや痛み、拘束の苦痛は逐一治癒魔法で癒されるから、当初は意識しなかった。  しかし、呪文封じの口枷で口を封印されることに馴らされ、アームバインダーで1本の棒のように拘束された腕が、はじめからその形だったように感じ始めた頃、ふと思った。  食事や水も与えられず、いまだ生きていられるのはおかしい。  意識を失っているあいだ、すなわち導眠魔法で眠らされている状態で、なんらかの方法で栄養と水分の補給が行なわれているのに違いない。  だとすれば、睡眠は1日1回ではない。眠らされての栄養補給も、1日3回とは限らない。  そうと気づいて、もう日にちを数えるのをやめた。  実のところ、それもまたふたりの性奴隷調教師の手練手管である。  イザベラは、クリスティーナの調教期間をひと月と設定した。  つまり、その期間耐えきれば、クリスティーナが堕とされることはないということ。以前のように凛とした聖女として処刑され、人々の心に希望の光を残すことができる。  だが日にちの経過がわからなければ、調教がいつ終わるのか知れない。いつまで耐えればいいのかわからない。  人の忍耐力は有限だ。常人をはるかに凌ぐ精神力を持つ聖女とはいえ、いつかは限界がくる。  とはいえ、いつまでと期限がわかっていれば、限界を先伸ばすことも可能。あと10日、あと3日忍耐すればと考えることで、本来の限界を超えても耐えられる。  だが終わりが見えない状況では、それもできない。  そんな救いのない状態で、クリスティーナは調教を受ける。  エリーズとドミニクは、聖女の乳首しか責めなかった。補助的に耳たぶや首すじなどに緩い刺激を与えても、下半身には手を出さなかった。  それは、そうすることが雇い主たるイザベラのオーダーだから。  とはいえ、性奴隷調教所に送られてきた娘を処女のまま調教することは、調教師の常。  熟練の調教師たるふたりにとって、女を快楽で堕とすには、乳首責めだけで充分なのだ。  そして責め続けられるうち、クリスティーナは自分の乳首が変化していることに気づいた。  常にぷっくりと膨れ――いや、膨れているなどという、生易しいものではない。あきらかに、肥大している。太さも長さも、囚われる前の倍くらいになっていると思えるほどに。  さらに、変わっているのは乳首だけではなかった。  肥大した乳首の土台たる乳房も、以前より大きくなった気がする。お尻にも、太ももにも、むっちりと肉がついてきた。  お腹に着けられたコルセットを少しずつ締め込まれ、ウエストを絞られてきたことと相まって――。 「ずいぶんと、見た目もいやらしい肉体になってきたな」  現われたエリーズが、妖しく輝く目を細めた。 「おまえのいやらしい肉体を、もっと淫らに飾ってやろう」  一緒に姿を見せたドミニクも、唇の端を吊り上げた。 「んぅう(なにを)……」  しようというのか。 「んむぅうぅ(これ以上)……」  どんな酷い仕打ちを受けるのか。  もはやそれを拒むという選択肢を持てなくなったクリスティーナを立たせ、いつものように首輪を天井から吊ってその場から動けなくし、エリーズが宣告した。 「これよりおまえに、性奴隷の証たる乳首ピアスを嵌める」  そう言ってエリーズが見せつけたのは、ギラリと鈍い光を放つ針《ニードル》。  暗殺者《アサシン》が仕事に際して使うようなそれを右手に持ち、エリーズがクリスティーナの前に立つ。  そして肥大して屹立した右乳首の側面に、針が触れた直後。 「ぅ(ひッ)……!?」  研ぎ澄まされたそれが、あっけなく乳首を貫いた。  針の先端が鋭すぎるせいか、はじめ痛みを感じなかった。 「ん(あ)ッ、んん(ああ)ッ……」  すぐに柔らかい肉を貫通、先端が乳首の反対側に顔を見せたところで、痛みがやってきた。 「ンむぅんんッ!」  思わず目を閉じ、くぐもって叫んだときには、すでに針は抜かれていた。 「ン、ぅ、ンん……」  ジンジンとした痛みと同時に、乳首を貫通した穴になにかが差し込まれる感覚。  ドミニクが治癒魔法を発動させ、痛みが消えたところで、左の乳首にも針を刺される。 「ぅ(ひッ)……!?」  襲いきた鋭い痛みに短く悲鳴をあげながら、右乳首のときと同じ感覚を味あわされる。  そしてドミニクの治癒魔法で痛みを癒やされ、ゆっくりと目を開けたクリスティーナの視界に、恐るべき光景が飛び込んできた。 「……ッ!?」  大きくなった乳房の先端、肥大化させられた乳首に取りつけられた、新たな装具。  シャックル金具のようなそれを見て、思わず息を呑む。 『性奴隷の証たる乳首ピアスを嵌める』  施術の前の、エリーズの言葉。  まさに、そのとおりだ。  耳たぶなどに着けるような装飾品のピアスならば、ひと目でそうとは思わなかっただろう。  だが嵌められた装具は、鎖をつないだり、なにかを吊るしたりするときに使用する道具の形。その形が、これは装飾品などではなく、性奴隷のピアスにほかならないのだと思わせる。 (こ、こんなものを嵌められていては……)  自分のことを知らない者なら、性奴隷としか思わないだろう。  いや、知っている者でも、聖女は性奴隷に堕とされたと判断するに違いない。  性奴隷のような装束を着つけられたうえ、性奴隷のピアスまで嵌められた状態で再び引き回されたら、聖女の表情を保っていたところで、町の民はきっとこう考える。  聖女は淫女に堕ち、性奴隷にされた。  堕ちても堕ちなくてももう、自分は人々の希望の光になることはできない。  そうと思い知らされ、絶望したクリスティーナの乳首ピアスに、エリーズが触れた。 「くくく……」  妖しく嗤い、金属の装具を指で弾いた。  とたんに、性の快感が生まれる。 「ん……ッ!?」  生まれた快感が、乳房全体にジーンと広がる。 「ンぅう(これは)……?」  いつもと違う。快感が大きい。  いや、ただ大きいだけじゃない。  まるで、乳首内部の快楽神経を、直接刺激されているような――。  そこで、ハッとした。  嵌められた性奴隷のピアスは、オンナの性の急所たる乳首を貫通している。  そのため、指で弾かれたときの振動で、肉の内側から乳首の快楽神経を刺激されたのだ。  ふつうなら傷の痛みで、快感どころではなかっただろう。しかしそれは、ドミニクの治癒魔法で癒された。  そのため、まったく痛みなく、純粋な快感が乳首内部に生まれたのだ。  連日の乳首責め調教で開発しつくされ、すっかり快楽器官に変貌していたクリスティーナの乳首に。  そうと気づいたところで、エリーズが再びピアスを弾いた。  ジーンと快感。  今度はそれが引いていかないうちに、もう一度。 「ンぅんん……」  鼻から漏らす吐息に、甘みが混じる。 「ぅうンん……」  甘い吐息が、艶を帯びる。 「んンむん……」  艶めく甘い吐息は、呪文封じの口枷がなければ、喘ぎ声になっていただろう。  いや、クリスティーナは喘いでいた。  長時間嵌められっぱなしの口枷のせいで、声は言葉にならないことが常となり、そうと意識せず喘いでしまっていた。  そしてそのことは、エリーズとドミニクにはわかっている。  熟練の性奴隷調教師たるふたりは、息遣いから、わずかな表情の変化から、女の状態が手に取るようにわかる。  実のところ、クリスティーナの性奴隷調教は、最終段階に入ろうとしていた。  快楽の味を覚えこませ、乳首ピアスを嵌めてより大きく異質な快感を教え、さらには見た目からも性奴隷の意識を植えつける。  そうなるともう、望みを失ない絶望した女は勝手に堕ちていく。  クリスティーナは、かつて聖女だった淫らオンナは、その領域に達しようとしていた。 「もうわかっただろう? おまえはもう、誰からも聖女とは見られない。けっして、聖女には戻れない」  淫ら堕ちを、冷酷な言葉で加速しながら。 「性奴隷の淫女として、生きていくしかないのだ」  ほかに選択肢がないことを、クリスティーナの精神に刷り込む。  あとは、性奴隷の乳首ピアスの振動だけで、絶頂に達することができるのだと教えるだけ。  自らの仕事が完成に近いことを感じながら、エリーズが乳首ピアスを指で弾く。 「ンぅ、ぅむぅん……」  性奴隷調教師の思惑には気づけないまま、クリスティーナがくぐもって喘ぐ。 「ぅん、んむぅん……」  喘ぎながら、一直線に高まる。  もう、なにも考えられない。  その先になにがあるのかに思い至れず、目の前にある快感に酔わされる。  性奴隷調教師が与える快楽の虜になっていく。 「ンむ、ンぅんんッ」  そして、来た。たどり着いた。 「んう、ぅむぅンんッ!」  快感に飲み込まれ、快楽に押し流され、クリスティーナは――。 「ンう(イク)ッ、ンう(イク)ぅうううッ!」  ひときわ艶めいて喘ぎ、厳重拘束の身をガクンガクンと震わせたあと、やがてガックリと身体から力を抜いた。  かつて町に仇なす政治犯が収監されていた地下牢獄で、町を護り続けてきた聖女が、うずくまったまま縛《いまし》めの身を揺する。  身体を揺することで乳房が揺れ、その先端の乳首を穿ち貫くピアスも揺れる。  揺れたピアスが乳首の肉を内側から緩く刺激し、甘い快感を生む。  その快感を貪るように、クリスティーナは身体を揺すり続ける。  その姿は、もはや聖女のものではなかった。  淫らに堕ちた性奴隷そのもののの、あさましい姿だった。  そのさまを、イザベラともうひとりの女が眺める。  ガザベル女史。かつて町の支配層のひとりだった父の権力をかさにきて、傍若無人の振る舞いをしていた極悪女だ。  ガザベラはクリスティーナによって神と教会の裁きを受け投獄されていたが、帝国軍が町に侵攻してから釈放され、町の重鎮に返り咲いていた。 「私を捕らえたクソ聖女が、私が入れられていた監獄で、みじめに痴態を曝している……まったく胸がすく思いですわ」  高揚もあらわに頬を紅潮させ、ガザベルが告げると、応えてイザベラが口を開いた。 「この者はもう、聖女などではない。もはや、淫らに堕ちた性奴隷にすぎぬ」 「まさしく、まさしくそのとおりですわ、イザベラ閣下」  なんぴとに対しても傲慢な態度を取っていたガザベルがイザベラに追従《ついしょう》するのは、帝国軍の女将軍が彼女を解放したから。  というよりむしろ、ガザベルを含む極悪人の政治犯どもが帝国に呼応、軍を町に招き入れたのだ。  とはいえ、快楽に囚われたクリスティーナには、もはや関わりないこと。  淫らに堕ちた淫女は、憎き敵を前にしても、ただ快楽を貪るのみ。 「この淫女、いかがなさるおつもりです?」  イザベラに訊ねたガザベルの顔には、下心が透けて見えていた。  淫女に堕ちたクリスティーナが、欲しくて仕方ないのだ。欲しいものは常に、そうすることが当然のように、弱者から奪ってきたのだ。  圧倒的強者たるイザベラにすら、欲望もあらわにおねだりしようとするほどに。 (だが……)  イザベラは思う。 (こんな奴だからこそ、いいのだ)  このあと、ガザベル一派を町の暫定政府に立て、イザベラ率いる帝国軍はいったん撤退する。  聖女クリスティーナという抑えが失なわれた今、彼女たちの専横は苛烈を極めるだろう。  そうなれば、次は民の求めに応じてという形で、町に軍を入れられる。そのうえで、民に望まれて町を帝国領とすることができる。  その思惑はおくびにも出さず、イザベラはガザベルに告げた。 「それはできぬな。町に留まるかぎり、クリスティーナを聖女として祭り上げ、叛逆の旗頭にしようする者が出てくるだろう。そうさせぬためにも、この女は町から遠く離さなくてはならぬ。聖女にはほど遠い存在の、淫女の性奴隷に堕ちたのだと民に知らしめたうえでな」  首輪につながれたリードを引かれ、ひと月前と同じように、呪文封じの口枷とアームバインダー、バレエブーツで拘束され、町の大通りを歩かされる。  あのときと違うのは、聖女の修道衣を剥ぎ取られていること。代わりに、ウエストを蜂の胴のようにくびれさせる革のコルセットと、それに設えられたガーターで吊られたストッキングを履かされていること。足首に短い鎖つきの足枷を嵌められ、太ももの膝に近い部分をベルトで縛られていること。  加えて、クリスティーナは乳首に嵌められたピアスに、聖女から淫女に堕ちたことを示す木製の看板をぶら下げられている。  まさに淫らな性奴隷そのものの姿で、クリスティーナは引き回される。  恥ずかしいだろう。悔しいだろう。苦しいだろう。つらいだろう。  クリスティーナが聖女ならば。いや聖女じゃなくても、まともな乙女ならば。  だが、ひと月前なら彼女の瞳に宿っていた理知的な光は、すでに消えている。凛々しかった表情は、今はもう蕩けきっている。  クリスティーナは、もはや聖女ではない。聖女どころか、まともな乙女でもない。乳首ピアスに吊られた木製看板に明記されているとおり、彼女は淫女なのだ。  聖女だった頃の名残りのように被されたベールも、淫らさと背徳感を際立たせる効果しかない。  かつて聖女と呼ばれた淫女は、性奴隷に堕ちたのだと。性奴隷に堕ちた淫女が、町の民を救うことは二度とないのだと。  広く知らしめながら、市中引き回しは続く。  やがて町の門にたどり着くと、そこに檻つきの荷馬車が停められていた。  その檻に、淫女クリスティーナが押し込められる。檻を載せた粗末な荷馬車が走り出す。  その荷馬車のあとを見送る人もなく、クリスティーナは帝都に護送されていった。  イザベラ所有の、最下層性奴隷として。 (了)

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Comments

KAGA

この前の邪教集団に支配された王都を引き回されるかつて姫騎士だった淫奴隷という作品を思わず思い出してしまう ∠( ᐛ 」∠)_

KAGA

以前の作品を過重に置くことを考えていますか、顔責め晒し箱よりも。昔の作品は設定図しかないのが残念ですね✌︎( ᐛ )✌︎

masamibdsm

顔責め晒し箱の頃は、私の画力が足らず、中の人を描くことを諦めたのです。