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【黒髪親子の物語】


私が5歳のころ、近所でも美人で有名だった母が突然キレイな長い黒髪をバッサリ切り、ビックリするほどのベリーショートにしたことから私の髪にまつわる物語は始まった。


何故かわからないが、その頃から母はいつも苛立ったような様子で、その苛立ちの矛先は私の長い髪に向けられているようだった。


ことあるごとに『髪が長いとプールに邪魔だわ』とか『髪が長いせいで朝の支度が大変だわ』と、何かにつけて私の長い髪を邪険に扱うようになり、とうとう『髪は短い方が良いから』と言い、私の手をつかみ床屋に連れて来られてしまった。


床屋の鏡の前に座らされ、私は『やだ!髪を切りたくない!!』と泣いて叫んだが、母は私を鏡越しに私を睨みつけ、仕方なく私は大人しくおでこ丸出しのアゴくらいの短いおかっぱ頭にされてしまった。


その翌日、友達みんなにすごく馬鹿にされた記憶は今でもハッキリ覚えていた。


その後も、私が髪を伸ばしたがると母は苛立ちことあるごとに床屋に連れていかれ、小学生になるころには耳が丸出しの恥ずかしいおかっぱ頭にされてしまっていた。


小学5年生になるころには周りの友達もオシャレをしだし、私も髪を少し伸ばし始めていたころだった。


休みの日に友達3人でお買い物に行こうということになり、朝からおめかしをして鏡を見ていたらそこに母が現れ『子供が色気づくのはまだ早いわ』と呟き、また私はいつもの床屋に連れて来られてしまった。


『しばらく色気づかないように、この子の髪をスポーツ刈りにしてちょうだい』そう言うと母は暗い顔をしてずっと窓の外を眺めていた。


鏡越しに見える母の憂鬱そうな顏を見ると、何も言い返すことが出来ず静かに涙を流しながらスポーツ刈りにされる自分の姿をじっと見つめていた。


オシャレとは無縁になった頭を見て、それから私はバスケットを始めてオシャレとは無縁な生き方を選ぶようになっていった。


そんな私の姿を何となく母も喜んでくれているようで、私のバスケットへ向ける想いは次第に大きくなっていった。


しかし、中学生にもなると思春期の乙女には流石にスポーツ刈りは耐えがたく普通のショートカットでバスケットをやっていたが、中学3年生になるころにはまた髪を伸ばし始め、オシャレなボブヘヤーにまで髪は伸びて来ていた。


そんな私をまた母は憂鬱そうな目で見始めていることに気が付き、私はなるべく帽子を被って髪を帽子の中に収めてボーイッシュなカッコで出掛けるようにしていた。


中学校の卒業間近のことだった。


もともと顔立ちがハッキリとしていた私が髪を伸ばし始め、学校では髪を結ばず垂らしていたので、クラスでも人気の男子から告白されその男子と交際をすることになった。


そして、しばらく交際を続けていた私は母の視線も気にしなくなり、休みの日はしっかりオシャレをしてデートに出掛けるようになっていた。


そんなある日、母が突然『さぁ、卒業式も近いからそろそろ髪をサッパリさせましょう』と言い出したのだ。


私は『嫌よ!絶対に髪は切りたくない!』と反抗したが、母は怒りとも悲しみともつかないような目をして、じっと私の目を静かに見つめ返すだけだった。


そんな母の目に耐え切れず、私はいつもの床屋にひとりで向かい『バッサリとショートカットにしてください』と絞り出すように呟くような声で店主に伝えた。


耳が丸出しの男の子のような頭になった私を見て母はどことなく安堵の表情を浮かべたのを今でも覚えている。


彼氏とは短くなった頭をあまり見られたくなく、中学を卒業したら疎遠になってしまいそれっきりになってしまった。


高校生になっても母の目が気になり、髪を伸ばすこともなく短いショートカットで過ごしていたが、高校を卒業して大学進学を機に家を出て一人暮らしをするようになった私は次第に髪を伸ばし始めた。


私はついに母の目からも卒業することが出来たのだ。


その反動か、二十歳になるころには私の髪は腰まで届くほどになり、まわりの友達からも羨ましがられるほどの艶々の黒髪になっていた。


私の艶やかな黒髪に惹かれてか、見知らぬ男に跡をつけられたりストーカーのようなことを繰り返されることが頻繁に起き、それは一人や二人ではなく数人はいるようだった。


SNSでも『黒髪がキレイですね』とか『その艶やかな髪に埋もれたい』などと、見ず知らずの男からの気持ちの悪い書き込みも次第に増えて来ていた。


そんな中ある事件が起こってしまった。


バイト帰りの夜遅い時間に家に帰ろうと薄暗い夜道を歩いていると、突然後ろから男に髪をひとふさ掴まれ大きなハサミで私の長い髪を首の辺りでジャッキっと切ってしまったのだ。


とっさのことで悲鳴を上げることも出来ないまま呆然としている私を横目に、男はニヤニヤしながら走り去っていった。


その場にへたり込んだ私はただただ静かに泣くことしかできなかった。


その男が私の髪を何に使うのかも想像がつかなかったが、ただただ気持ちが悪かったので残った髪もアゴくらいの短いボブにバッサリ切って、もうしばらくは髪を伸ばすことを止めてしまった。


そんな私もいつしか結婚をして、笑顔の可愛い娘をひとり授かっていた。


35歳になった私は育児にも追われ、髪にもさほど気を使わなくなり、髪は伸ばしていたというよりは何となく美容院にも行く時間が無く、ただ背中まで伸びていた。


そんな私を見て娘もいつしか髪をキレイに伸ばしていた。


ちょうど娘が5歳になる年の夏の昼下がりだった。


娘の幼稚園の迎えまでまだ時間があるから、家でゆっくり過ごしている時だった。


ドアのチャイムが鳴り宅配便の服を着た男性が立っていたので、ドアを開け荷物を受け取ろうとした時だった。


男はニヤニヤしながら玄関に押し入ってきて私はハッとした。


このニヤニヤした顔の男は、以前私を襲って髪持ち去った男だったのだ。


男は突然ハンカチのような布を私の口に押し当ててきて、男は私の耳元で何かを囁き私はそのまま意識を失くしてしまった。


私は意識のないうちに、男に髪をハサミでザックリ切られ、そして私は犯され男の白い体液が私の体と床に散乱した髪に飛び散っていた。


三時間くらいたって意識が戻ってきたときには、私は玄関で裸のまま倒れていて、私の周りには私の切られた髪が辺り一面に散乱していた。


意識が無くなる寸前に男が囁いた言葉が脳裏をよぎる『娘もキレイな髪をしているなぁ』と。。。


男にされたことよりも、男の残した言葉の方が心に引っ掛かり、シャワーを浴びて服を整え急いで美容院へ向かった。


美容院で髪をベリーショートにした私は急いで娘を迎えに行き、その足で近所の床屋に娘を連れて行った。


不安気な娘を横目に『娘の髪をバッサリと男の子のように短く切ってください』そう店主に告げると、娘は大泣きをして嫌がったが床屋の店主は容赦なく娘の髪を短く切ってくれた。


サッパリした娘の頭を見ながら、30年前の母のことを想い出した。


母はただ苛立っていたのではなく娘に対する不安と動揺、そして幼い娘に状況を説明することが出来ない苛立ちによるものだったのだと気づかされた。


母の我が子を想う気持ちが30年という長い年月を経て伝わってきて、私は目頭から涙が溢れ出し、髪を短く切られ不機嫌そうに泣く娘を強くギュッと抱きしめた。


エンド

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