収納庫 (Pixiv Fanbox)
Published:
2023-10-06 09:00:00
Imported:
2024-02
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「ん、ふ……」
耐えがたい窮屈さに、鼻から吐息を漏らす。
「ぅ、んむ……」
絶えず股間を襲い続ける猛烈な違和感に、喋れない口で苦悶する。
右に首を回すと、ぶ厚い板状の木枷に囚われた私の右手首。わずかばかり左に首を振ると、壁に設えられた姿見の鏡。
そこには、小さな箱の天板から、両手と頭を出した私が映っている。
いや、私の身体を閉じ込める木製の物体は、ただの箱ではない。底面に移動用のキャスターが、前面には両開きの扉が設えられた家具だ。
立っていたら腰より低い程度の小型家具――収納庫に、私は手と頭を出して閉じ込められているのだ。
そんな状態で鏡に映る私は、革の口枷を嵌められている。その革装具の内側には突起があり、それが口中にねじ込まれている。
口枷の表面に飛び出したチューブは、口腔を満たす突起を貫通しているのだろう。それから漏れた涎が、板枷の天板に小さな水溜まりを作っていた。
そして、革製の装具で拘束されているのは、顔だけではない。
天板と同じ木製の扉の奥で、私の身体はM字開脚の姿勢に拘束されている。
さらに、はしたなく開かされて縛られた脚のつけ根、膣と肛門には、異物が挿入固定されている感触。それも、かなり巨大なものが。
その猛烈な違和感で、はじめは気づかなかった。
だが今は、女の肉壺と大きいほうの排泄器官のみならず、膣の直上にあるおしっこを排泄するための小さな穴にも、細い異物が挿入固定されていることもわかっていた。
加えて、根元を上下で締めつけられた胸の頂、乳首にも、なにかされている気がする。
もっとも、私の首と手首を捕らえる収納庫の天板に阻まれて、そのようすを直接見ることはできない。閉じられた扉のせいで、鏡で身体の状態を確認するのも不可能だ。
「んむぅん(いったい)……」
私は、身体になにをされたのだろう。
「んぅんん(どうして)……」
こんなことになったのだろう。
私に、ひとつめの問いの答えは知るべくもない。
だが、ふたつめはわかっていた。
『人間家具アルバイト、個人邸勤務・高給優遇・福利厚生完備』
その募集に、応募してしまったからだ。
そして、びっしり書かれた細かい文字をよく読みもせず、契約書にサインしてしまった。
サインした契約書を確認したときの、女主人《ドミナ》の嗤いを、私ははっきりと憶えている。
妖しく意味深なものだったというだけでなく、それが私が自由な状態で見た最後のものだから。
(あの嗤いは、きっと……)
私を口車に乗せ、契約書を読む気にさせず、まんまとサインさせたこと――すなわち、罠に嵌めたこと――を喜んでいたのだ。
アルバイト募集に書かれていた『人間家具』というのは、私を家具、すなわち収納庫に閉じ込めるという意味だったのだろう。
人の趣味嗜好・性癖・性指向はさまざまで、なかには私のような人間には理解不可能なものもある。同性を家具に閉じ込めることで、性的に昂ぶる人がいても不思議ではない。
ともあれ、女主人の企みに気づかず、ただ怪訝に思っただけの私の真後ろに、気配を消して傍らに控えていたメイドが、いつのまにか立っていた。
『失礼いたします』
その声に思わず振り返ろうとした刹那、首にチクリと痛みを感じた。
『あんを(なにを)……?」
その直後から、呂律が回らなくなった。
なんらかの薬を打たれたのか。
だとしたら、なんの薬を打ったのか。
問うこともできないまま、私はじき意識を失った。
そして、この状況である。
拘束されて収納庫に閉じ込められた状態で目覚め、異常事態に気づいてパニックに陥った。
喋れない口で叫び、動けない身体に力を込めるが、なにごとも起こらなかった。
姿見の鏡と身体感覚で自分が置かれた状況を探れるようになったのは、力つきて動けなくなり、苦しくなった呼吸が整った頃。
なんとなくでもわが身の状態を把握できたのは、そこでようやく、わずかばかりの平穏と冷静さを取り戻してからである。
だが冷静になったところで、今が危機的な状況だということは変わりない。
むしろ、自分の状態を一定程度把握できたがために、不安と恐怖は増している。
いつまで、こんな状況に置かれ続けるのか。膣と肛門と尿道に、なにを挿入されているのか。どれほどいきんでも、それらを押し出せないのはなぜなのか。その結果、私の大切なところは、壊れてしまわないのか。
それら不安と恐怖がどんどん大きくなってきたところで、私に薬を打ったメイドが現われた。
女主人に加担し、私を罠に嵌めた女だ。憎しみを込めて睨んでいると、私の視線など意に介していないかのように、メイドが穏やかに口を開いた。
「お眠りいただいているあいだに採取した血液の検査の結果、感染症含め、健康状態はきわめて良好でした。これで、安心して収納庫におなりいただけます」
「んぅ(えっ)……?」
怒りも忘れ、喋れない口で思わず声をあげてしまうほど、意外な言葉だった。
私は、収納庫に閉じ込められている。すでに私は人間家具、収納庫にされているのではないのか。
「うふふ……意外そうですね?」
そこで、メイドが初めて表情――意識を失う直前の女主人と同じ種類の嗤い――を見せた。
「もしかして、もう収納庫にされていると思われてます?」
あたりまえだ。
だが、違うのか。人間家具に、収納庫にするという言葉には、もっと深い意味があるのか。
私がとまどい、さらなる不安と恐怖に囚われたところで、メイドが言葉を続けた。
「たしかに、収納庫におなりいただくための設えは、すでに整えられています。収納するものを収納すべき場所には、収納に馴らすための措置が施されています。ですがそれは、あくまで準備のための馴致《じゅんち》行為……」
増大した不安と恐怖に苛まれる私の心の動きを、口枷に隠れていない部分の表情から読み取ったかのように、嗜虐的な笑みを浮かべて。
「あなたがほんとうの収納庫になるのは、これからです。女主人さまが女奴隷調教にお使いになる、凶悪ディルドと残酷ピアスの収納庫になるのは」
「んぅ(えっ)……」
はじめ、言葉の意味がわからなかった。
ほんのわずかの時間、考えて思い至った。
膣と肛門、尿道に挿入された異物。乳首にも覚えている違和感。
「んぅんむん(もしかして)……」
それらはすべて、メイドが言った『準備のための馴致行為』なのではあるまいか。
「そうですよ……」
言葉にはならなくても、表情から私の気づきを察したのだろう。メイドは私の前にしゃがみ込み、顔を覗き込んで目を細めた。
「あなたの股間には、ディルド収納のための装具を取りつけたうえで、馴致のための仮ディルドが挿入されています。乳首には位置を前後にずらして十字にピアスホールが開けられ、仮ピアスが嵌められています」
そして細めた目を妖しく輝かせ、収納庫の扉に手をかけた。
「うふふ……」
薄く嗤い、メイドが視線を落とす。
「まずは、尿道の仮ディルドを抜きます」
直後、尿道を異物が通過していく感覚。
「んっ、んぅんッ!?」
本来は液体しか通らない場所を固形の異物が通過する異様な感覚。
それが終わると、次は膣。
「んむぅうッ!?」
さらに、肛門。
とはいえ3穴とも、途中から異物が引き抜かれる感触は薄れた。
あきらかに穴の内に異物が残っているはずの段階でも、感覚がなくなった。
そのことを怪訝に思うが、メイドの言葉でその理由が――私にとっては受け入れがたい、理不尽きわまりない理由が――あきらかになった。
「仮ディルドを抜くとき、途中から感触がなくなったでしょう? それは股間に装着した特殊T字帯により、あなたの尿道口と膣口さらに肛門が、入り口付近に筒を挿入された状態で強制的に開口させられているからです」
メイドの言葉で、私の股間が予想以上に悲惨な状況に陥っていたことを知らされた。
「あなたの3穴は、いついかなるときもディルドを難なく挿入・収納可能な状態です。仮ディルドによる馴致は、あくまで穴の奥を巨大な異物に慣れさせるためでしかありません」
「んうん(そんな)……」
「うふふ……外してほしいですか?」
あたりまえだ。特殊T字帯なるもので絶えず開口を強制されていたら、私の大切な3つの穴は、閉じなくなってしまうかもしれない。
「でも、それは不可能です。T字帯の固定には特殊形状のネジが使われており、専用工具がなければ外せません。そしてその工具は、女主人さまが保管しておられます。あなたとの契約が満了する日にセットされた、タイマー式金庫の中で」
言われて絶望する私の顔を覗き込み、愉しそうに嗤うメイド。
「もちろん、私は契約書の中身を知りません。あなたの収納庫としての契約期間がいつまでか、私は存じあげません」
そう言って私を絶望のどん底にたたき落とすと、メイドは扉を開けたまま立ち上がった。
「ですが、心配する必要はありません。栄養や水分の補給は、口枷のチューブを経由して行ないます。排泄も、尿道と肛門のディルドを抜くことで問題なく行なえます」
そして私に背を向け、いったん立ち去った。
「契約を満了してからも、契約を延長することも可能です。また、あらためて奴隷契約をするという選択肢があります。よかったですね、一生女主人さまにお仕えすることができて」
姿見の鏡に映るわが身の惨状を見、絶望を受け入れ諦めた私に、残酷な言葉を残して。
収納するための、凶悪ディルドと残酷ピアスを取ってくるために。
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