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 正式名称は第38女子刑務所、世間に広く知られた名は――いや、それは伏しておこう。ともあれここは、試験的に導入された刑務所運営の民間委託制度に基づく、本邦初の民営刑務所である。  開かれた明るい女子刑務所をモットーにしたこの刑務所の実態を、命名権を買った大手日用品メーカーの経営者や広報担当者が知れば、どんな顔をするだろうか。  その会社の看板商品の名が冠された女子刑務所の奥深くでなにが行なわれているか知られれば、大いなるイメージダウンにもなりかねない。  とはいえ、この女子刑務所の実態が、一般に知れわたることはないだろう。  その事実を知る者は、職員のなかでもごく一部。厳格な守秘義務が課せられているうえ、口止め料を兼ねた高額の報酬を受け取る彼ら彼女らは、けっして秘密を漏らしたりしない。  私のような事実を知る部外者から、秘密が漏れる恐れもない。 「だって……」  自力ではけっして脱げない拘束衣を着せられ、狭い独房に閉じ込められた女囚を見ながら、私はつぶやいた。 「ここは私たちにとって、とっても便利な施設ですもの」  地下深くの独房に収容された彼女に、今は名はない。通常の女囚に割り振られる囚人番号も、与えられていない。2枚のぶ厚い革で防刃繊維をサンドイッチした複合素材の拘束衣の胸に、コードが刻印されているだけ。  その特殊コードを私と担当看守が持つ専用端末で読み込むと、彼女の個人情報がすべて表示される。 「うふふ……」  その端末を彼女に向けてかざしながら、私はほくそ笑む。  滑稽にも見える全頭マスクの奥で、彼女はどんな表情をしているだろう。  罠に嵌め、奸計に絡め取ったかつて同級生を、睨みつけているだろうか。  そうあってほしいと、私は思う。  そのほうが、担当看守――その正体は、地下組織からスカウトされた女奴隷調教師だ――による躾の果てに、淫らに堕ちたときのみじめさが際立つから。 「うふふ……そのときが愉しみだわ」  もう一度唇の端を吊り上げて嗤い、私は独房の彼女に背を向けた。

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