Home Artists Posts Import Register

Content

「ねぇセンパイ、あたしの彼女になってよ」  私の社員証を左手で弄りながら、捕形《とりかた》ミキが妖しく嗤った。  ミキは、私のひとつ下の後輩である。  いや、後輩『だった』と言うべきか。  地元の中学高校ではそうだったけれど、大学を卒業して入った会社には、高卒のミキのほうが先に入社していたのだから。  とはいえ社内での立場という点では、大卒の総合職として採用された私のほうが、高卒事務職の彼女より上なのだろう。  にもかかわらず、ソファーに腰かけて尊大な態度で脚を組むミキの前で、私は床の上で正座させられている。  それは、中学高校からの、ふたりの関係性によるものだ。  中学時代、ミキは私に告白してきた。  女どうしの関係にとまどいつつも、私は彼女の告白を受け入れた。  そんなミキが変わっていったのは、ふたりの交際が始まって半年ほどが経った頃だった。  いや、もともと彼女が隠し持っていた本性を現わしたというのが正確なのかもしれない。  強烈な独占欲と加虐性《サディズム》。  それらを発露させたミキは、私を支配した。  私が高校に進学し、彼女が中学に残った1年間は支配は緩んだが、ミキが私と同じ高校に入ってからは元の関係に戻った。  戻るどころか、ミキの支配とサディスティックなプレイは、さらにエスカレートした。  そのことに言い知れぬ恐怖感を覚えた私は、彼女と距離を取るため都会の最難関大学に進んだ。  ミキが私のあとを追い、同じ大学を目指したかどうかは知らない。そこで彼女との連絡は途絶え、のちに進学せず都会で就職したと風の便りで聞いた。  私はミキのことは忘れ、4年間の大学生活を楽しみ――肉体関係を伴う恋愛こそなかったが――この春、就職した。  その職場で、まさかミキに再会するなんて。 「ねぇセンパイ、あらためてあたしの彼女になってよ」  そうすることがあたりまえのような態度でそう言って、ミキが傍のバッグを引き寄せる。 「この貞操帯を着けて、あたしの彼女になってよ」  バッグから取り出した鋼鉄の下穿きを、私に嵌めようとする。  断ったほうがいいと、拒むべきだとはわかっていた。 (で、でも……)  カラダ奥に疼きを覚え始めた私は、嗜虐的な笑みを浮かべたミキの顔を、魅入られたように見つめることしかできなかった。

Files

Comments

No comments found for this post.