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●残業前の時間


「さて、開発部用のリサイクル資材の候補リストも出来たし、……じゃあ今日は、ちょっと遅くなるけど、主任さんが作ってくれた企画の方を進めてから帰るかな……」

「あの、主任さん」



「…………」

「寝てる……」

「主任さんは寝てるアイコンがあるのに、何故、僕には無いのか……」

「……スゥー……」

「って、インスタントに作らなくていいよ!! 寝てることになるだろ!」

「……あ、主任さん、またポインタを下に落としてる」


●何となく思い出して


「……ポインタを拾ってるときの風景です。わざわざ見てるわけじゃないぞ」

「でも主任さん、寝てる時もちゃんとガードしてるよね……」

「…………」

「……スゥー……」

「――って無理に使わなくていいよ! 突発性睡眠ナンタラかよ僕……!」

「……ともあれ、うん。主任さんは真面目な人だよね。僕がちょっと、そこに甘えてるというか、駄目なんだと思う」

「…………」

「主任さん? あの、すみません」


●何となく自分を正す


「……え!? あ、御免、寝てたね」

「お疲れでーす。主任さんの方、今日の業務は終わってますし、僕の方も、頂いた企画の方、明日に回して今日はアガろうと思うんですけど」

「あ、そうだね。じゃあ、途中まで同じ道だし、帰ろうか」


●そして確認


「――総務狙った企画ってのはアイデア面白いかもね。予算は向こうが確実にとってくるだろうし、実績出たら他の企業向けにも出来るし」

「プレゼン厳しそうですけどねー」

「まあそこは後輩君がどうにかするということで」

「アッハイ、頑張ります」

「そうそう。そんな感じで……」

「……で、ちょっと話変えるけど、最近、夢見はどう?」

「前にも気にしてましたねソレ。夢見って言うと……」

「以前、私に言ったような夢、見てたりする?」

「アー……」

「すみません。続いてます。こっちで制御効いてないっていうか……」

「ああ、いやまあ、君の夢のことだから、咎めないというか、咎めても仕方ないんで」

「ただまあ、嫌だったり、……する?」

「……主任さんに申し訳無い、っていうのはあります」

「僕がもっと、主任さん以外にも女性の友人いたりすると、違う人が夢に出てくるのかな、って思うんですが、でも、僕が今、一番頼ってるのは主任さんなんで、何となく納得もしてしまうというか……」

「そ、そうなんだ……」

「ま、まあ、私の方では咎めないから、後輩君の方で問題無ければそれでいいからね?」

「あ、でも」

「? 何かマズイことあった?」

「夢の中でビックリして飛び起きるんで、ビミョーに健康悪い気がするのと、寝不足になってるのかな……。就業中寝てたら、それが原因です」

「……なかなか面倒な二次被害が出てるもんだねー……」


●帰って思って


「よし帰宅、帰宅――」

「ハー……。主任さんに正直にいろいろ話して良かった……、かな? 主任さんの方も、こっちのこと理解してくれてるみたいだし、安心というか……」

「でも、言葉にしてみて解ったけど、僕、主任さんに無茶苦茶いろいろ頼ってるよな……。仕事とか、メンタルの部分とか」

「…………」

「でもホントに、主任さんが夢に出てくるのは何となく解るけど、じゃあ、何のためなんだろう……。夢に意味を求めちゃ駄目だと思うんだけどね」


●いつの間にか


《――何かアンタ、後輩君に告白みたいなこと言われてなかった? ワーイ、アイツトコイツガクッツイチャーウ》

「いやいやいや、上司と部下の会話! そういう内容! というか小学生か!」

《でもアンタ、頼られるの無茶苦茶弱いというか、好きだよね》

「…………」

「……否定はしないなあ。だから今の仕事やってるんだし」

「……って、何でアンタがここにいるの?」

《いや、もう既に夢の中だよ? アンタ、帰ってきてベッドに寝転がってそのまま寝てる》

「そうなんだ。床寝じゃなくて良かった……」

《いやいやいや、そういう問題じゃないだろ》


「――って、"来た"? これ、そうだよね?」

《私がいるっていうことは、そういうことだよ? 後輩君の夢と繋がってて、今、■■大解放の中にいる》

「えっと、じゃあ、後輩君は?」

《ああ、焦ってるね? いい傾向。――手を引いてたアンタとはぐれてしまってるからね》

「ソレって、駄目じゃないの! 早く手を引いて前を向かせないと」

《だーかーら、いつもこういうスタートなんだよ。それで強引に前を向かせるの。でも今回は、ちょっと遅れてるから頑張って》

「え? 頑張ってって?」

《アンタに任せてみるわ。――場所はすぐ繋げるから心配しないで》


●夢の中


「……?」

「……あれ? お姉ちゃんは?」

「ええと、あの、お姉ちゃん?」

「…………」

「うわ、や、やだ、お姉ちゃん! ええと、どこに居るの!?」

「そっち?」

「それとも――」

「――こっち向いたら駄目!!」


●間に合って


「良かった……。あのね君? こっちを見ないって、そう、約束したよね?」

「あ、うん。御免なさい。……でも、お姉ちゃんが何処にいるのか解らなくて」

「うん。遅れて御免ね。でも、憶えておいて。――お姉ちゃんは必ず来るから、君も、今みたいに後ろ振り向かない、って。あと、絶対にオバちゃんって言わないって」

「後半真顔だったよね今? ――でも、あの、もしも後ろ振り向いたら?」

「うん、そうなったら、もう、お姉ちゃんと会えないかもしれないからね?」

「……それは、嫌」


●ちょっと一息

「…………」

「……御免、今、ちょっとズキュンって来た」

《アンタ思い切り不謹慎だけど、まあ、うん、そういう性分だよね私達……》


●そして約束する

「もう、こっちを見ないって、忘れたら駄目だよ?」

「うん。約束する」

「約束かあ……。随分重いなあ、って思うけど、でも、夢の中だもんね」

「じゃあ、私も約束するね。――君が悪い夢を見ないように、そうなれるまで、傍にいてあげるから」

「うん。……約束ね」

「眠い? 眠っていいよ? さっき、怖かっただろうし、眠るまでこうしててあげる」


●安堵の時間


「…………」

「……う・わー……」

「……久しぶりに飛び起きないと思ったら、何て夢見てるんだ僕。でもあれ、何だろう? 子供の頃かな? 憶えが無いな……。というかあれは何というか……」

「凄く怖い不安から、主任さんに守って貰った気がする」

「夢診断みたいなことを言うなら、……僕は、悪夢を見ないようにするために、主任さんを頼ってる、ってことになるのかな……?」

「…………」

「あ、あまり深く考えないようにしよう。主任さんに申し訳無いというか……」


●会議の時間

《…………》

《……何か、ビミョーに正解に近い処に辿り着いてる?》

「え? 何が?」

《いや、うちの大家》

「? どういうこと?」

《いやまあ、何だ? アンタちゃんと出来るみたいで安心したけどさあ》

《”約束”って、アンタ。何勝手にしてんのよ?》

「いや、後輩君が自分から約束したじゃない? じゃあ、こっちだって、ほら、返さないと」

《その”約束”、アンタが居ないとき、誰がすると思ってんのかな?》

「つーかアンタ、私の一部でしょうが! ハイ、私が居ないときはちゃんと仕事する! いいね!?」

《クッソ! もう、夢の方、ガンガン繋げてやっからね!? 憶えとけ!》


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