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 ボロボロの外壁、湿ってぬかるんだ汚泥。

 

 ゴミの臭いが漂う汚らしいスラム街が少女のいた場所だった。

 

 騙し、奪い、運が悪ければ殺される。

 

 しかし、その死体すら弔われることはなく、野良犬などの餌になる、そんなロクでもない場所。

 

 現世の地獄、掃き溜めの様な場所。

 

 そんな場所を抜け出せたのは、少女にとっては幸運だったのだろうか?

 

 否だろう。

 

 何せ、人攫いにさらわれただけなのだから――。

 

 獣を入れるような檻に放り込まれ、こちらを見下ろすのは、自分たちは恵まれた立場にいるのだと、愉悦の眼差しと品定めの眼差しを向ける穢らわしい大人達。

 

 そして、買い手がなく、捨て売る物のように安い競りにかけられた。

 

 眩しい光を当てられ、自分に対して値段を付ける大人たち。

 

 神は何故、自分を地獄に落とし、彼らを野放しにするのか。

 

 あぁ……神なんていないのだ。

 

 だから、救いなんてない。

 

 それを悟った少女の心は緩やかに死へと向かっていた。

 

 凍りつき、無感情となり、ただ生きている存在。

 

 そんな人形へと成りさがろうとしていて――。

 

「買い手がいないなら、私が貰おう」

 

「…………」

 

 少女が顔を上げると穏やかな表情の紳士がこちらを見ていた。

 

 自らしゃがみ、こちらに視線をあわせ、優しい眼差しで――。

 

 あぁ、この人になら――。

 

 死にかけていた心がわずかに上を向いた。

 

 まだ生きてみようと――。

 

 ◆

 

「――嫌な夢」

 

 パチッと暗闇の中、目を覚ましたのはスフィアス家の使用人であるサラサだ。

 

 短い髪と勝気な目つき、華奢な体つきの少女だ。

 

 サラサ。

 

 苗字はない。

 

 この名前もこの屋敷に来てから付けられた名前だ。

 

 ――スラムの夢を見るとか。

 

 サラサにとっては忌わしい過去だった。

 

 だが、自分が奴隷としてこのスフィアス家に買われたのは幸運だった。

 

 ――でも、先代様は私を奴隷としては見なかった!

 

 幸運だったのは、サラサを引き取ったレッドムーン先代当主の人柄だった。

 

 彼はサラサを使用人として仕事を与え、教育し、給金まで与えてくれた。

 

 人として扱ってくれた。

 

 それはサラサの人生の中で一度もなかったことで、とても嬉しくて、彼のためなら何でもするらとまでの忠誠心を育てていた。

 

 そんな彼が残した息子である現当主であるジオルド・スフィアスの成長を見守ることがサラサにとって使命とまで思っていた。

 

 のだが--。

 

「ジオルド様、これらはどういう事ですか?」

 

 部屋の掃除をしていたサラサはベットの下で発見した薄い本の数々を机に並べていた。

 

「…………」

 

 気まずそうに黙り込むジオルド。

 

 そこにあった本は他人にはとても見せられないもので--。

 

 所謂、エロ本だった。

 

 しかも、SM本。

 

 黙り込むジオルドに対して、サラサが言葉を発した。

 

「いずれも女性に責められる本ばかりですね。とてもスフィアス家当主の方の趣味とは思えません」


「う…」


「…はあ。前当主様のご子息とは思えません。嘆かわしいです」


 サラサは困った様に額を抑えて呟いた。


 姉のように過ごしてきたサラサを困らしたのもジオルドが気まずい要因でもあった。

 

「サラサ? その……これは……その……」


 なんとか言い訳しようとしたジオルドに対し、サラサはすっと冷たい眼差しを向けると--。

 

「何も言わなくて結構です。こんな特殊な性癖を外で発散されては、家名に傷がついてしまいます。なので、これより徹底的に教育しますので、お覚悟をして下さいね?」


 サラサにうむも言わせぬ口調で詰め寄られたジオルドは黙って頷くしかないのだった。


 ◆

 

「はぁ……」

 

 自室に戻ると、ベットにダイブしてサラサは足をばたつかせた。

 

 勢いであんなことを言ってしまったが、サラサはノープランだった。

 

「まさか、ジオルド様があんな歪んだ性癖をお持ちだったなんて……」

 

 --前当主様の墓前に合わす顔がないです!

 

 前当主が亡くなり、1人残された息子のジオルドを育てることこそが使命、恩返しとすら思っていたサラサだ。

 

 その思いが伝わったのか、ジオルドは立派な貴族の少年となっていた。

 

 このまま社交界に出て、素敵な令嬢と婚約して、スフィアス家を盛り立てていくはず--。

 

 --などと思っていたのに!

 

 --あんな性癖が歪んでいるなんて想定外です!

 

 う~、と唸るサラサはどうすればジオルドの性癖が治るか頭をひねる。

 

 だが、残念ながら、ライラは頭が良くなかった。

 

 初めから出来るメイドでもなく、忠誠心と勤勉さと努力で出来るメイドになったタイプだ。

 

(う~ん、ジオルド様はあの本にあった内容をしたことがあるのかしら?)

 

 --少なくとも屋敷にそんな女が来たことは無いし、出かける場合は護衛として常に着いていた。

 

 その手の如何わしい店に行ったこともサラサの記憶にない。

 

 --となるとあれですね!

 

「妄想。思春期の少年が女性に抱く憧れなのですね!」

 

 女未経験の男子が抱く思春期の妄想。

 

 でも、初体験とは大変なのだ。

 

 サラサは経験はないが、先輩メイドで経験した話を聞いたことがある。

 

 処女を貰った男子が童貞だったりすると、破瓜時の出血であたふたしたり、怯えたりして甘い雰囲気が壊れることがあると。

 

 --つまり、ジオルド様にあの本の様なことをさせて妄想と現実の差を教えればよいのでは?

 

「これしかないわね」

 

 んなことないはず!

 

 だが、サラサの中ではこれが最高のプランだと決まってしまう。

 

 幸い、ジオルドの隠していた本の内容は衝撃的すぎて頭に焼きついている。

 

 なので……。

 

 --思いついたらすぐ行動ですね!

 

 むん、と小さく拳を握ると、サラサはその準備を始めるべく、準備をするのだった。

 

 ◆

 

 夜の闇を満月が明るく照らしていた。

 

「起きてください。ジオルド様」

 

「…………サラサ?」

 

 ジオルドが目を開けると、何故か目を開けるとサラサがいた。

 

「ふふ、ご主人様、起きてください。教育のお時間ですよ?」

 

「教育って夜だよね?」


「あら、普段の教育ではありませんよ? こちらのお時間です」

 

 サラサが手に持っていた本でペチペチとジオルドの頬を叩いた。

 

 その本を見た瞬間、ジオルドの眠気は飛んでしまう。

 

「なっ!」

 

 そこにあったのは昼間に見つかったSM本だったからだ。

 

「貴族であり、平民を従えるジオルド様が隷属させられ、屈辱ん与えられ、喜ぶなどあってはあらないこと。このような倒錯した行為を心地よいと感じるなど、幻想だと教えてあげましょう」

 

「え? え?」

 

「今から私がジオルド様に現実というもの教えて差し上げます」

 

 寝転ぶジオルドを見下ろしながら、真面目な表情でサラサが囁くのだった。

 

 ◆

 

「どうですか? 雇われの身であるメイド風情に見下ろされている気分は? さぞ悔しいのではないですか? 今すぐ私にも床に這いつくばれと命じても宜しいのですよ?」

 

「そ、そんなこと……ない」

 

 寝巻きで床に正座したジオルドを椅子に座ったサラサが見下ろしていた。

 

 本来なら逆の構図。

 

 何様だと折檻されるはずなのに、ジオルドはソワソワと落ち着かない様子ではあるがそれを受け入れていた。

 

 --この程度ではダメですか。ジオルド様ってお優しいというか気が弱いところがあるから、怒ったこともないですし。

 

 --激昂して罰せられても構わないつもりで傲慢に振舞ってみたのに予想外ですね。

 

 サラサは本の内容や書かれていた調教方法を思い出していた。

 

 --もっと屈辱的な行為をすれば、ジオルド様だって嫌がったり、怒るはずです。

 

 こんなことを誰にしているのだ! 貴族様だぞ!となれば、サラサの目的は達成させられる。

 

 ジオルドが貴族として上に立つ者だと自覚すれば、間違っても見下されて恥辱を受けるとこを気持ち良いなどと思わなくなるだろう。

 

 --なら、さらに屈辱的な行為をしてみましょうか?

 

 サラサはわざと足を組み、爪先を揺らした。

 

 ギリギリ、ジオルドの顔に触れるか触れないかの距離。

 

 先のとがった黒いブーツがユラユラと魚を誘う餌のようにジオルドの眼前で揺れる。

 

 思わず顔を近づけてしまったジオルドに対して、サラサは狙ったように爪先を反らす--。

 

 コンっ。

 

「あら! 失礼しました! ジオルド様ったら、そんなお顔を近づけては危ないですよ!」

 

 態とらしく大きな声で注意するサラサ。

 

 顔を近づけたジオルドが悪いのであって、こちらは悪くないと言わんばかりに。

 

 顔をつま先で顔を軽くとは言え、蹴った。

 

 敬愛する主の顔を土足で!

 

 --私、凄く悪いことしてる。

 

 --前当主のご子息になんてことをしたんだろう。

 

 --でも、これもジオルド様のためだから!

 

 今すぐにでも謝りたい衝動を抑えながらもサラサは心を鬼にしてジオルドを見下ろした。

 

 --さぁ、顔を蹴られたのですよ? こんなのありえないですよ? いくら温厚で気弱なジオルド様でも怒るはず……。

 

「す、すまない。サラサの足が綺麗だったからつい--」

 

 サラサの思惑とは真逆にジオルドの口からは謝罪の言葉が出てきてしまった。

 

「っ!!」

 

 しかも、綺麗だなんて褒められる不意打ちのセリフ付きだ。

 

 心臓がドキリ、と大きく跳ねて、サラサは椅子から転げ落ちるかと焦る。

 

 --あぁ! そんなセリフをこんなところで言ってはいけません!

 

 伴侶となる相手に言ってあげて下さい!

 

 --しかし、これでもダメだなんて。

 

 --もっと屈辱的なことをしなければならないなんて。

 

 ここに来る前にここまでしてもダメならと準備はしていたが、やりたくなかった。

 

 何しろ実行することを想像したサラサ自身が羞恥心で真っ白になってしまうほどなのだ。

 

 なので、心の準備が必要だった。

 

 幸い、足を組んだままジオルドを見下ろすサラサの顔は逆光と暗い部屋のおかげではっきりとわかることはなかった。

 

 --これはジオルド様のため、これはジオルド様のため、これはジオルド様のため!

 

 3回心の中で唱えて意志を固めたサラサはキッ、と表情を引き締めた。

 

「ジオルド様はまだまだ責められ足りないようなので、さらに教育を続行してあげます。私に感謝して下さい!」

 

 ◆

 

「こ、こうですか?」

 

「そ、そうですね、いい格好ですよ? まさか、ジオルド様が私に土下座するなんて……。どんな気分ですか?」

 

「…………」

 

 答えないジオルドにさらに追い討ちをかける。

 

「もう1度聞きますね? メイド風情に土下座させられてどんな気分ですか? こんなもので欲情するような殿方はさすがの私でも軽蔑してしまいそうです」

 

「そ、それは……」


 言いよどむジオルドを見て、サラサはさらに言葉責めを続ける。

 

 --ジオルド様、困惑してますね! こんなの変だと思ってますよね! チャンスです!

 

 ジオルドが屈辱を感じているはずだと、手が震えているのを見たサラサは確信する。

 

 チャンスだと!

 

 ここで詰り続ければ、怒りを露にするはずだと!

 

 そうすれば、この次にしないといけない準備はいらなくなる!

 

 風が来ていると確信したサラサはここぞとばかりにジオルドを詰る。

 

「こんなのあり得ないですよね? ジオルド様はスフィアス家を継ぐ、尊いお方。それなのにメイド風情に土下座だなんて。あら? 手が震えていますが?」

 

「ち、違う……こ、これは……」


「悔しいのでしょ? 屈辱なのでしょ! ほら、正直に言ってください? 今すぐ辞めろ、と命令すればいいんですよ? それとも--」

 

 仕上げとばかりにライラは本で見たように土下座するジオルドの頭にそっと足を乗せた。

 

 踏むと言うにはあまりも優しい荷重。

 

 撫でると言った方がよいほど控えめなものだが、サラサとしては物凄く悪いことをしているようだった。

 

 --あぁ! ジオルド様の頭を土足で踏むなんて、私、殺されてしまうかも!

 

 --幼少から大事にお世話してきたジオルド様を室内用とは言え、ブーツで踏んでいるのだ。

 

 --今すぐ打首にされるほどの非礼を働いてしまっている。

 

 などと思うサラサだったが、ジオルドの言葉に固まってしまう。

 

「サラサに踏まれて嬉しいですぅ!」

 

 --え?

 

 再び想定外の言葉を食らって呆けてしまった。

 

 --うそ?

 

 --嬉しいですっ、て?

 

 --ここまでしてもダメなんですのね。

 

 --やっぱり最後の手段に出るしかないんですのね。

 

 サラサは吹いていた風は逆風で、チャンスと思って突っ込んだら、そこには落とし穴があり、そこに落ちた気分となって肩を落とすのだった。

 

 ◆

 

 床に仰向けにさせたジオルドを見下ろしながら、サラサはヤケっぱちになっていた。

 

 腰に手を当てて見下ろしながら、とにかくジオルドが怒ればいい、自尊心に火をつければいいと思い、詰りまくる。

 

「ここまでされて嬉しいなんて喜ぶジオルド様には幻滅しました。だったら、これもきっとジオルド様には嬉しいんでしょうね」

 

「あ、ぁはぁい」

 

 だが、詰る度になぜか甘えた様な声を出すジオルドに不安が芽生えてきた。

 

 --もしかして、私のせいでジオルド様の歪んだ性癖がさらに歪んじゃってない?

 

 --もうそうじゃなくて、現実に責められるが最高とかなったら、どうしよ!

 

 などと混乱するが、後悔は先には立たない。

 

 ここまで来ては、もう最後まで突っ走るしかないのだ。

 

 --いや、いくらジオルド様でもこれはきついはずです!

 

「ジオルド様の持っていた本では、男性が女性の足で虐げられるものが多かったですから、今からジオルド様を私の足で虐げて差し上げます」

 

「ぁぃ……」

 

「だらけきった顔をして。現実の女性の足を知ればそんな妄想も吹き飛ぶと思いすけどね」

 

 そう言ってサラサはブーツを乱暴に脱ぎ捨てた。

 

 かぽっ! と音がしたブーツを脱ぐと、汗ばんだ素足が露になった。

 

 ブーツに素足の方がより臭いが酷くなるから、と靴下をあえて履かなかったのだ。

 

 そのお陰で、サラサの足はかなり汗ばみ、火照っているのかほんのりと赤くなっている。

 

 --逆光でジオルド様が私の表情が見えなくて良かったです。

 

 耳まで真っ赤なサラサだが、生来の生真面目さで教育を完遂すべくジオルドを虐げるサディストになりきる。

 

「ふふ、女性の足が殿方と違って香しい香りがする、なんて妄想していましたか? でも、現実は……」

 

 サラサは晒された足指を曲げ伸ばししながらゆっくりとジオルドの鼻先へと爪先を近づけた。

 

「……!? ごほっ! ごほっ!」

 

 かなり蒸れているだけに臭いも強烈だったのか、ジオルドが激しく噎せた。

 

「どうですか? 臭いですよね? むしろ殿方よりも女性の方が蒸れやすいし、ニオイが強烈なんですよ? それもこんなブーツを履いていれば余計に蒸れてしまいますからね?」

 

「んぶ! んぐ! ごほっ!」

 

 噎せるジオルドにサラサは今度こそは、と思う。

 

 --いくらジオルド様が倒錯した行為に幻想を抱いていても、臭いものは臭いし嫌なはず!

 

 --というか、こんな臭い誰にも嗅がれたくなかったです! 私の足って凄く臭いんですよ!

 

 昔、同室のメイドにブーツを脱いだ瞬間にやばい臭いがしない? などと言われた過去があるサラサは自分の足がとても臭いことを自覚していた。

 

「ほら、臭いですよね? こんなの嗅がされるなんて屈辱以外の何物でもないですよね? 嫌でしょう? ほら、一言やめろ、と命じて下さればいいんですよ? そうしたら、この足を退けてさしあげますから」

 

 そう言いながら、より臭いを強く嗅がせるべく、指の付け根を鼻先に被せるサラサ。

 

 ジオルドの鼻息がくすぐったくて、足の臭いを嗅がれてるのがはっきりと感じられてしまい、恥ずかしさを余計に感じてしまう。

 

 --はやく! ギブアップして下さい!

 

 などと心の中で思うサラサだったが--。

 

「……ください」

 

「えっ?」


 聞き間違いかと思うサラサ。


 --え? --今、何て? 思わず、足の動きを止めるサラサ。


 その隙を突くかのようにジオルドが叫んだ!

 

「僕はこんな屈辱がたまらなく好きです!もっと僕を貶してくれ!」


 叫ぶと共にジオルドは自分からサラサの足の臭いを思いっきり嗅いでしまっていた。


 サラサの足を推し抱く様に手を添え、顔に自ら押し当てていた。

 

 今や、ジオルドは足指を鼻に突っ込むと思うような勢いで臭いを吸っていた。


 --そ、そんな勢いで嗅がないで!

 

 今すぐ足を引っ込めたい!

 

 --でも、ジオルド様がこんな必死に自分の足を嗅いでいる。

 

 本来なら悪いことなのに、どこかそれがよかった。

 

 やってはいけないと思えぼ思うほど、それをしていると気持ち良い。

 

 背徳感と言う禁断の蜜がサラサを密かに侵していたのだ。

 

 1度味わえば病みつきになる猛毒の蜜。

 

 それがじんわりとサラサの脳髄を麻痺させていく。

 

 --これ、ジオルド様が求めてるから仕方ないですよね?

 

  --むしろ、躊躇するのが失礼ですよね?

 

 --あの本みたいにもっと責めた方がいいですよね?

 

 --それがお望みなんですよね?

 

 サラサの中で芽生えた思いは野火のように一気に心の中に燃え広がり--。

 

「なら、お望み通りに貶めてさしあげますね」

 

 言った瞬間、サラサは両足でジオルドの顔に体重をかけて床に押し倒した。

 

 ぐりぐりぐり。

 

 サラサの揃えられた両足がジオルドの顔面を余すことなく踏みつける。

 

「ほら、ジオルド様、どうですか? 女性の足にこうして責められる気分は? 床のような扱いをされて、さぞ惨めな気分でしょう?」

 

「あぁ……いい……ニオイだよ」


 サラサの激しい足責めに恍惚の表情を浮かべるジオルド。

 

 --こんなのが嬉しいなんて!

 

 サラサはニオイのことまで言われ、こみ上げてきた恥ずかしさを隠すかのようにさらに体重をかける。


 ぐりぐりぐりぐり!

 

 サラサの足裏が容赦なくジオルドの顔を押し潰していく。


 もう見てられないほどの酷い顔だろうに、それを与えているのが自分だと思うと、サラサは自分がどこか快感すら覚える気がした。

 

 自分がとても偉い存在にでもなったような感覚--優越感とでも言うのだろうか。

 

 背徳感とはまた違う甘さの毒がサラサをさらなる深みへと引きずり込もうとしていた。

 

「この変態! 臭い足を嗅がされて喜ぶなんて!」

 

「はい……僕は変態です……」

 

「なら、もっと責めてあげますから、もっと感じなさい! このマゾが!」


 ぐりぐりぐりぐり!

 

 もう顔中サラサの足跡だらけだろうに、それでもジオルドは幸せそうな声を上げながら悦んでいた。

 

 --あぁ、なんていけないことをしているのでしょう! ジオルド様の顔まで踏みつけ、罵声を浴びせるなんて!

 

 --でも、これ、すごく気持ちいい!

 

 --私まで変になりそう!

 

 きゅぅぅ、と下腹部に熱が集まるのを感じて、サラサはゾクゾクとしていた。

 

 --ダメ、やめたくない。もっと責めたい。

 

 --それにジオルド様だって喜んでくれているんだから、いいですよね?

 

 頭の中で正当化する理由を作り、サラサはより激しくジオルドを責める……。

 

「情けないマゾですね?ジオルド様はとんだ変態ですね。」


 ぎゅぅぅぅ!!

 

 蔑みながら、まるで床にでも立つようにサラサはジオルドの顔の上に立っていた。

 

「うぐぅぁぁぁ!」

 

「変態ならこれくらい耐えられますよね? まさか、私が重いなんてことはないですよね?」

 

 --最近お菓子を食べ気味ですけど、ちゃんと仕事でカロリーを消費してるから、FNY(フニぃ)ってるわけないですし。

 

 もしも、そんなことを言われたら羞恥で逃げ出してしまうだろう。

 

「うぐぐぐぐ」

 

 幸いにもサラサの足で踏み潰されているジオルドが言葉を発する余裕はなく、サラサの全体重を存分に味わわされることとなるのだった。

 

 

 しばらくしてから顔から足を退けたサラサはジオルドの胸に腰を降ろすと、両手で顔を挟み込み、自分の方を向かせる。

 

 爛々と嗜虐の喜びで濡れた眼差しにジオルドの心は簡単に絡め取られてしまう。

 

「ジオルド様、私が貴方様の欲望のはけ口になったあげます。次はどうしたいですか? 私に教えて下さいませ。ジオルド様の望む屈辱を存分に与えた差し上げます」

 

「あ……りがとぅございますぅ」

 

 ジオルドの性癖を矯正するために始めたはずの行為は、サラサの中で目覚めたサディズムにより、ジオルドの性癖をさらに歪めてしまう教育へと方向を大きく変えてしまうのだった。

 

 

 

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