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プロローグはこちら https://www.pixiv.net/fanbox/creator/355065/post/418529

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破滅願望   原作:M月  イラスト:朝凪  制作:fatalpulse

12話 お姉さま

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 王城内のとある一室で、低く苦しげな呻き声が響き渡っていた。

「ぐ、あぁあ…………うぐぅぅうう…………」

 部屋の中では、中年の小太りした男性が、全裸で床の上に膝立ちさせられている。

 更にその両腕は後ろ手に拘束され、顔には目隠しを付けられていた。

 中々に哀れな格好と言えたが、当の本人に抵抗する様子はまるでなく、全身の力を弛緩させ、ぼうっと天井を見上げている。

 そして、男を両横から挟み込むようにして体を密着させる二人のメイドがいた。

 小柄な一人は悪戯心を抑えきれないかのように小悪魔的な微笑を覗かせており、そしてもう一方は豊満な胸を押し付けながらおっとりとした雰囲気の温和な微笑みを浮かべている。

 哀れな格好をした男は、そんな二人のメイドから淫らな奉仕を受けているようだった。

 首筋と耳をねっとりと舐られ、全身を這うように細指でくすぐられて、更にはアナルを中指でぐりぐりと刺激されている男性は、ピクピクと小刻みに震えながら、ただただ呻くように喘いでいた。

 

 見方を変えればそれは奉仕などではなく、一方的に与えられる責め苦だったのかもしれない。

 その証拠とでも言うべきか、趣の異なる二人の笑みには、ほんの少し……人によっては気づかないであろうほど僅かに、しかし確実に――嘲笑の色が、混じっていた。

 片方のメイドがチラリと視線を向けた先では、痛々しいくらいに反り返った性器がひくひくと震えながら自身の存在を主張していた。

 ――無残な貞操帯を装着された状態で、だったが。

 

 それはある種の生殺しだろう。二人の女性から全身を愛撫されるのはさぞ気持ちが良いのだろうが、しかしその実、肝心の部分には指一本触れてもらえていないのだ。

 悪戯っ子のような笑みを浮かべているメイドは、時折思い出したかのように男の乳首を指で軽く弾き、ビクンと律儀に身体で反応する様を見てクスクスと喜んでいる。

「気持ちいいですか? 大臣様」

 ふと、淡々とした声が大臣と呼ばれた男の耳朶を打った。

 声の主は男を責めている二人のどちらでもない。男から一歩先の正面。肩の位置を超えるほど高い背もたれの椅子に、ゆったりと腰掛けている女性がいた。

 椅子に腰掛ける女もやはりメイドの格好をしていたが、二人のメイドとは違い男への淫らな責めには参加しておらず、ただ眺めていただけである。

 そこは、男が普段働く執務室であった。だが部屋の主であるはずの大臣は床に膝立ちさせられ、大臣用の立派な椅子は、本来の持ち主ではないメイドが占拠している。

 

「そりゃあ……気持ちいいに決まってるよね、大臣様?」

 左側にいるメイドが、明るい口調で言う。

「だって普段はあんなに凛々しい大臣様が、こ~んな情けない格好させられて、好き放題されてるのに、何も言わずに黙ってるくらいだもん」

 メイドはからかうように笑いながら、べろぉん……と首筋を舐める。情けない声を漏らす男を尻目に、右側にいるもう一人のメイドが、応えるように笑った。

「そうですねぇ……。昔、あれだけ抵抗していた大臣様が、今ではこんなにおとなしくなって……うふふ。よっぽど気持ちいいんですねぇ……?」

 つつぅ……肩甲骨から怪しげに降りてきた舌に、じゅるんと乳首が包まれたかと思えば、カリっと彼女の歯が甘く引っ掻いていく。

「うぐぅおぉおッ……ああああッ……!」

 堪えきれないといった様子で男が叫ぶ。

 


 瞬間、ヒュンッ……と風を切る音とほぼ同時に、何かが弾けたかのような鋭い音が室内に響き渡った。直後に、ぎゃっと短く男が呻き、一際強く身体を跳ねさせた。

 椅子に座っていた女が、常人には視認できないほどに早く鞭を男の腹に振るったのだ。それも、手首の返しだけで。

 

 相当な激痛に苦しんでいるであろう男はしかし、半目になりながら恍惚とした気持ちでいっぱいだった。

 拘束具で隔離されたペニスの先端からは、トロトロと液体が流れている。

 

「あはは、すっごい反応。これで痛がってるんじゃなくて、悦んでじゃってるんだから救えないよね~」

「そうですねぇ……。とっても気持ち悪いですけど、お姉さまに叩いてもらえたんですから仕方ないかもしれませんね。ああ、羨ましすぎて嫉妬しちゃいます」

 うっとりと熱を帯びた視線を男に向けながら、その憂さを晴らすかのように、甘噛みしながらギリギリと歯ぎしりをするかのような動きで乳首が責められる。空いた手は、男の睾丸をグニグニと強めに握っていた。

「ふふふ」

 肯定するように笑うもう一人のメイドも、一際激しくアナルをほじくりながら、もうひとりの女性と合わせるように乳首を口に含み、少し強めに噛みだした。

 

「はおっ、おっ、はああああッ……! セ、セラ様、も、申し訳ありませんッ……き、気持ちいいですぅ……ッ!!」

 ビクビクと身体を痙攣させながら、男が口を開いた。

 謝罪は、椅子に座るメイド――セラからの質問に答えなかったことであり、続く言葉は返答だ。

 

「そうですか、良かったです。ええ、大臣様に喜んで頂けているようで、本当に」

 淡々とセラが答えた直後、再び風を切る音と鞭打ちの音が鳴り響く。

 

「おごぉぉぉぉッッ!! あ、あい、ありがとうございますぅッ……!」

 

 理由も定かでない二度目の鞭にお礼を言う男。

 それは異様な光景と言えた。言うまでもないことであるが、大臣とは、王城内でも最上位から数えた方が近いくらいに地位の高い役職である。そんな大臣が、実の娘ほどに若い三人の小娘、それも地位など存在しない侍女を相手から鞭を打たれて謝罪し、更にまた鞭で叩かれれば、今度はお礼を言っている。

 事情を全く知らぬ第三者が見たら、一瞬の混乱の後に、こう思うことだろう。ああ、大臣様は少々特殊な趣味をお持ちなのだ、と。

 実際、男の顔は歓びに満ちており、嫌々従っている風にはとても見えない。

 そしてそれは事実そのものなのであるが、少しだけ補足をするならば――男は、こんな事で快感を覚える変態などではなかった。

 

 そう、たった半年ほど前までは。彼は少しばかり女好きな程度の、至極真っ当な性癖を持つ人間だった。

 ただ単純に――彼はこの半年で、セラというメイドに、骨の髄まで調教されきってしまっただけなのである。

「うふふ、セラ様に叩いて頂けて嬉しいですねぇ? 大臣様は変態ですものね」

「そうだね、なんか今のでもうイキそうになっちゃってるし。あ、いいんだよ? 今イっちゃったら、お姉様にご褒美もらえないけど、そんなことは気にせずに溜めに溜めた精液、吐き出しちゃおっか?」

 そんな男に嫉妬と侮蔑が混じった微笑みを向けながら、二人のメイドがより激しく、淫らに男を責め立てていく。

「うぐぅッ……! ふ、うぅぅ……」

 極限まで昂ぶった身体は、性器への直接的な刺激がないにも関わらず、あっという間に高みへと上らされていくが、直前の言葉とは裏腹に、頂点に達する前にメイド達はすっと手を離してしまう。

 男はこうしてずっと、およそ3時間ほどは性的な奉仕を受け続けていた。

「以前に比べると、本当にとても大人しくなられましたね……ええ、私達としても、やりやすくて助かります」

 男はメイドに何かをいう事もなく、ただ呻いていた。

「でも、仕方ないよね。こんな気持ちいいんだもんね」

 メイドが、男の耳たぶをしゃぶるように舐めながら囁いた。

「うふふ……今ではとてもいい子になられて、嬉しいです」

「はぐああぁッ…………」

 メイドの指が、脇腹を羽のような軽やかさで男の身体を撫で回すと、たまらず男が快感に喘ぐ。

 

「ああ、そういえば言い忘れていましたが、バルガス様の件では、私のお願いを聞いてくださって、ありがとうございます」

 不意にセラがそう言った瞬間、男の様子が変わる。

「あぐッ……う、うぅぅッ……くぅぅ!」

「……あれからあまり時間をおかずにこのようなお願いをするのは申し訳ないのですが、どうも第三騎士団を運営するための資金が不足しているようなのです。ですので以前増やしていただいた予算とは別に──」

「ぐ、うう、お、お願いしますッ……もう、限界ですぅ……ッ!」

 ここまでひたすら耐えていた男が、セラの言葉を遮りながら叫んだ。

 この後に何を言われるのか、決まりきっていたからだ。セラは男に、極上の快楽を与えてくれる。だが、タダではないのだ。決まって何かを要求される。

 男は、これまで何人ものメイドをつまみ食いした経験がある。この女と出会ったときも、そのつもりで私室へと呼んだ。だがいつの間にか立場は逆転し、その凄まじい手管に気付けば逆らえなくなっていた。

 麻薬のような快楽に身も心も骨抜きにされたころ、セラはだんだんと本性を現すようになった。

 男を小馬鹿にするような発言を時折はさむのだ。侮辱しながら、責めてくる。更にそのうち、対価を要求するようになった。

 それは数々の女がこれまで男にしてみせたような、女を利用した甘え方ではなかった。

 自分を見下す態度を隠そうともせずに、淡々と、何かを要求してくる。利用しようとしているのだと、馬鹿でもわかる態度だっただろう。

 だがそのとき既に、男はセラに全く逆らえなくなっていた。

 毎晩、休みの日などは朝から夜まで、ひたすらに淫らな奉仕をされ続けた身体は、もうセラ抜きでは満足できない。手元に置いていた女たちが、全てどうでも良くなるほどの快感を、セラは与えてくれる。

 それも、単純な肉体的快楽だけではない。心すらも、女に支配されるという屈辱的な行為を喜んで甘受してしまうくらいに溺れてしまっていたのだ。

 そしてある日突然、男は貞操帯を付けられた。と同時にセラが直接奉仕してくれることはなくなり、かわりに他のメイドたちが男の身体を弄ぶように慰めるだけになった。

 男は何度も媚びるようにセラにイカせてほしいと訴えたが、それが叶えられることはなかった。

 

 他のメイドたちの愛撫によって毎晩興奮だけさせられて、イカせてもらえない日々。

 そんな地獄のような毎日に、何度気が触れてしまいそうになったことか。だが貞操帯を付けられてから二週間ほど経過したある日、そんな苦痛からは解放された。

 第三騎士団の予算を増額してほしいというセラのお願いを、半ば聞き流しながら半狂乱で承諾し、どうかイカせてほしいと頼み込んだ男は、そのときようやく、セラの手淫によって二週間ぶりの射精を許されたのだ。

 

 以前までしてくれていた濃厚な奉仕とは比べ物にならないほど淡白な手淫だったにもかかわらず、男は極限の興奮とともに、この世のものとは思えないほどの射精感を味わった。

 十数秒ほどは続いたのではないかと思うくらいに長い精液の放出の後、男はもう目の前の女から逃げられないのだということを悟った。

 それからというもの、男は毎晩、複数のメイドたちの手によって全身愛撫を施されるようになった。

 だが、その場では絶対にイカせてもらえない。数日、長いときには数週間ほど経った後にやってくるセラのお願いを承諾してようやく、イカせてもらえるのだった。

 それを何度か繰り返される内に、男は自分の意志では抜け出せない麻薬のような陶酔と、そして同じくらいの恐怖を覚えるようになった。なにせセラの目的は明白だ。男を骨抜きにして、なんでも言うことを聞く傀儡に仕立て上げること。

 そしてその目論見は、もはやほぼ達成されたと言ってもいい。

 

 男は既に、どんどん規模が大きくなっていくセラのお願いを断ることができないし、言うことを聞くことに至情の歓びを得るようになってしまっているからだ。

 だが、と心の奥底で待ったがかかる。

 

 こんな一時の快楽で、今まで積み上げた全てを捨て去るわけにはいかないと、一抹の理性が訴えかける。

 その結果男は、あろうことかセラの言葉を遮るなどという男自身にとっては暴挙と言える行動に走っていた。

「セラ様ッ……! どうかこのまま、イカせてくださいぃ……」

「…………」

 そんな男を、セラは無言で見下ろしながら、片足を伸ばした。男の性器を覆う貞操帯が踏みつけられる。直接触れられた訳ではないので快楽は無いに等しい。だというのに、たったそれだけの行為で男の脳は極度の興奮と期待によって快楽で埋め尽くされていた。

「あぐうッ……!!」

 このメイドに出会うまでは、女ごときにこんな情けない態度を取ることはなかったというのに。

「私が何かを話している時は、邪魔をしないようにと何度か躾けたはずですが」

 グリグリと貞操帯をねじるように踏まれる。表面上は男を立てるような言葉遣いをしていたセラだったが、ついに明確に非礼にあたる言葉を発した。だが当然のように男は何も反論ができず、どころか謝罪の言葉すら口にした。

「も、申し訳ありません……! で、でも、もう、これ以上は無理なんですッ……! セラ様の言いつけを守るために、無茶を通しすぎたせいで、周りにも怪しまれています! これ以上は、わ、私の立場も危うくなるんです……ッ。

 ヒ、そ、そうだ、せめて期間を設けさせてください。一年……、い、いや、半年ほど時間をおいた後なら、また融通を利かせますからッ……!」

 セラに逆らえないマゾとしての自分と、大臣としての誇りと地位を捨てたくないという思いが、男の中でせめぎ合った結果だろうか。男は自分の立場を弁えつつも、穏便に事を済ませようと無様な懇願をした。

「…………」

 すくりと、セラが無言で立ち上がる。

 ──しまった。

 突如として雰囲気の変わったセラを見た男は、すぐに後悔の念に襲われた。しかし今の言葉に嘘はない。これ以上は本当に、危険なのだ。

 逡巡する男を冷酷な瞳で見下しながら、セラが突如男の顔を足蹴にした。

 

「ふぐぅッ……!?」

「駄目ですね」

 ソックスがグリグリと、男の顔を踏みにじる。自分を舐めきった行為であるが、だからこそ男は興奮でいっぱいになっていた。

「あらあら、なんて羨ましい……。ほら大臣様。感謝の気持ちを込めて、ゆっくり深呼吸しましょうねぇ?」

「す、すぅぅぅぅ………! はぁぁぁぁぁッッ!」

 もはや尊厳など放棄して、隣のメイドに言われるがままにセラの足の匂いを嗅ぎ陶酔する男。

 そんな男に、セラが冷たく追い打ちをかける。

「貴方の事情なんて、私の知ったことではありません。……とはいえ、これは強制ではなくお願いですから、どうしても無理だというのであれば私達の関係はこれっきりということでも構いませんが」

「ッ!?」

 踏まれながら、男は必死に顏をフルフルと横に振った。その目には涙が滲んでいる。

「おや、それは今後もこうして私達に奉仕をさせて頂けるということですか?」

 ぐりい、と顔を足蹴にしながら奉仕などと表現するセラ。

「むぐ……ッ」

 男はコクコクと顔を振る。

「それでは、お願いも、聞いて頂けます?」

 ぐりぐりい。

「ふぐうッ……!!」

 たまらず頷いてしまう。どうしても、抗うことができなかった。

「ふふふ……いい子ですね」

 スッと、セラの足が離れていった。

 

「ぶはぁっ……! ハァッ、ハッ……!!」

 苦しそうに喘ぐ男のペニスは、はち切れんばかりに膨張し、ビクビクと小刻みに揺れていた。

 絶望と、興奮がないまぜになったような精神状態で、男はセラを見上げる。

「――では、貞操帯を外して差し上げて」

「はいッ、お姉さま!」

「はぁい。ご褒美貰えるってさ。良かったね~?」

 カシャン。 


 どれだけ男自身が願っても決して外すことのできない貞操帯は、セラの命令によって呆気なく外れ、そのまま床に落ちた。

 再び椅子に座るセラ。男は息を荒げながら、普段よりも少しゆったりとしたセラの動作から、一時たりとも視線を逸らすことができずにいた。

 そんな男の様子に、僅かにクスリと微笑んだセラが、流れるように片脚を上げた。触れるか触れないかギリギリの距離を狙ったかのように、ソックスを纏ったセラの足裏がスリッと男のペニスをからかうように刺激してそのまま通り過ぎた。

 

「あうぅぅうんッ!!」

 筆先でくすぐられたかのような微弱な刺激に、男は少し大げさなくらいに喘ぎ、身をのけぞらせる。

 

「あはは、あう~ん、だって」

 メイドが男をからかう。だが、当人にとっては大げさでもなんでもない。焦らしに焦らされ、極度の興奮状態に陥っている男の身体は、たったそれだけで一気に絶頂寸前まで昇りあげてしまったのだ。更に――

 

「イッたら、今日のご奉仕はここまでにします。堪えてくださいね」

 男にとっては絶望的な宣告が耳に届いた。射精感を堪らえようと、歯を食いしばって力む。

「ひッ、う、うグッ、うぐぐぐぐぐッ……!」

「…………」

 セラの冷淡な瞳に覗き込まれる。明らかに見下されたその視線。興奮で涙目になりながらも、男がなんとか堪えきったと思った次の瞬間。

 突如、二人のメイドが男に密着するように抱きつくと、それぞれが耳を咥え、れろれろと舐めしゃぶりながら、乳首と尻穴をいやらしく愛撫しだした。

「うはぁああああッ!? えあ、や、やめ……ッ!」

「このままイッて頂けると、私達とっても助かります。お姉さまに可愛がっていただく時間が余りそうなので」

「んふふふ、抵抗しても無駄だよ? アンタみたいなマゾ野郎に我慢なんてできないんだから。ほぉら、イっちゃえイっちゃえ♪」

 性器だけは刺激しないようセラに命令されているからなのか、二人のメイドは男のペニスは一切触れずに、それ以外の性感帯を一斉に刺激する。

 いくらペニスへの刺激がなくとも、男はこれまで散々この二人の愛撫にイク寸前まで昂ぶらされて、焦らされ続けてきたのだ。我慢なんてできるはずがなかった。そして唯一二人を止めることができるであろうセラも、何も言わずにただ男の様子を眺め続けている。

「あぁぁぁッ……! お、お願いしますッ! こ、これ以上はぁぁあああッッ」

 再びイカされそうになった男が慌てて懇願するも、二人の小悪魔達は楽しそうに嗤い、止めるどころか愛撫を強めた。そしてトドメと言わんばかりに、男の両耳に息を吹きかけながら、囁く。

 

「はい残念、もう我慢できないね。イっちゃう? ほらほらほら」

「あぁん、気持ちいいですかぁ……? いいんですよぉ。我慢せずにさあ……イっちゃいましょう……?」

 絶頂寸前まで昂ぶらされた男に、もはや為す術はなかった。だがここにきて、ようやくセラが救いの糸を垂らした。

 スっと両足を男のペニスを挟み込むようにして近づき、触れる直前でピタリと止まる。

「さて大臣様。先程のお願いの件なのですが……」

 男が決して断れないであろうタイミングで、セラがそう切り出した。男にとってもまたよからぬ頼みごとをされるであろうことは明白だったが、そんなことは最早、どうでもよかった。

「ぎッ、聞く!! なんでも、あとでッ、なんだって聞ぎますからッ!!」

 セラの言葉を再び遮って、そう叫んだ。悠長にセラの言葉を待っていたら、このままイってしまうと思ったからだ。

「あらら……」

「まあまあ……」

 セラの手駒である二人のメイドに、当然抜かりはない。容赦なく追い詰めるフリをしていたが、実際はセラの言葉に承諾する前にイカせるつもりなんてサラサラなかったのだ。だがそんなことを見抜けるはずもないくらいに、男は追い詰められていた。

 そして同時に、全てを諦め、受け入れていた。たとえどれだけのことを要求されても、このままセラの足でイカせてもらえるならもう、どうなってもいいと。

「セラ様ぁッ!! あなたに全て従いますっ! 私の全てを、差し上げますぅッ……なんでも言うとおりにしますから、……だからお願いします、私の汚らしいチンポを、踏んでくださいぃぃぃッ!!」

「はい、よく出来ました」

 セラは満足そうに、自らの足裏で挟むようにして男のペニスをぎゅむうと踏みつける。

「はあぁああああああッッ!!」

 心から待ちに待ったようやくの刺激に悶え喜ぶ男。

「実は、大臣様がそう言って下さるのをずっとお待ちしていたんです。魔術も薬も用いずにここまで調教するのは正直面倒でしたが……今は悪くない気分です。ご褒美をあげましょう」

 

 セラの足裏が、男の亀頭をぐりんぐりんと回す。

「あヒッ……! あ、あおぁぁッ……!」

 

 睾丸を足の指先にマッサージされ、グリグリと螺旋を描くように竿の根本から左右に回されて、コシュコシュと竿を上下に扱かれる。足だというのに、流れるように淀みなく男を巧みに嫐るセラ。まるで両手で丹念に奉仕されているかのような快楽だった。

 その間、二人のメイドの愛撫も止んでいない。

 

「ああ゛ああッッ……ひい、ッ……へあああぁッ……」

 男は、まさに天国にも昇るような極楽の中にいた。

「あははぁ、すっごい間抜けな顔しちゃってるけど、大臣様、ほんとにわかってる? アナタ、今射精するためだけに全~部セラ様に捧げることになっちゃったんだよ? あ、もしかして口約束だからあとでどうにでもなるとか、思ってる?」

「まさかですよ。大臣様はどうしようもないマゾ男くんですけどぉ、そこまで馬鹿じゃないはずです。単純に、イキたくて仕方なかっただけですよ。ねッ?」

「ああ、うん……そこまで馬鹿じゃないっていうけど、それはそれですごい馬鹿だよね」

「あら、うふふ、それは確かに」

「…………」

「う、うぉおおッ……はぐッっうぅうッ……!!」

 両側から侮蔑され、微笑するセラの視線に射抜かれ、被虐心に全身を支配される。

 ソックスの布地がねっとりとペニスを包み込み、クニクニと動く指先にカリが引っかかれる。

 セラの足裏に挟まれたペニスはどこにも逃げることができずに、ビクンビクンと何度も跳ね踊る。

 そして、限界に到達する。

「あ~ん、今度こそイッちゃいそうだね、お馬鹿な大臣様。ほら、イク、イク、イッちゃう、ほぉらイケッ♡……バ~カッ……!」

「うふふ……さあ自分の立場を自覚しなさい……。このまま情けな~くイカされるのが嬉しくてたまらないんですよね……? いいですよ、ほら♪イけ、イけ、このマゾ豚っ、イケッ……!」

 煽るようなメイドの嘲りと同時に、セラが再び目にも留まらぬ鞭を振るった。

 バシィィインッッ!

「うぐぁぁああああッッ……!!」

 びゅるッッ、びゅるるるうううううううッッッ!!

 

 セラの鞭が止めとなり、男は絶頂した。

 ペニスから勢いよく精液が吹き出していく。

 

 どびゅう、びゅう、どぶどぶどぶッ!

 

「あっははは! イっちゃった! きたない精子、馬鹿みたいに吹き出してるぅ!」

「う、臭いも酷いですね……最低です……」

 

 罵倒しながらも、二人のメイドは男への愛撫を止めずに動いていた。

 無言であるセラも、見下した表情でニコリと笑いながら、足裏によるシゴキを止めようとしない。

 

 どぴゅッ、どぴゅッ、どぴゅッ……。

 

 異常なほどに長い射精をしている間、三人がかりで全身を愛撫され続けている男は、通常ではありえないほどのその射精感に、半ば失神しているようだった。

「ぁ……ぅ……」

 びゅ、びく、びくッ……。

「…………」

 定期的に痙攣し続けるペニスが、ようやく精液を出し尽くしたらしい。

 男が気を失っていることと、性器の痙攣がある程度収まったことを確認したセラが、男から足を離して立ち上がった。

「……さて」

 男に対する興味を失った――というよりも元からただの雑務程度の認識だったのだろう、セラはなんの感慨もなさそうに二人のメイドに告げた。

「二人共ご苦労様でした。後始末と、今後の大臣様の飼育をお願い致します。もう私がいなくても問題ないと思いますから。多少なら、あなた達自身に貢がせても目をつぶります」

「はいっ! 任せてください、お姉さま!」

「あの、それで、その……」

 男を責めていたときの態度が嘘だったかのように、二人のメイドが顔を赤らめて照れだした。

 自分より年下のセラに対してのお姉さまという呼称もだが、とても上司への敬愛程度ではない表情でセラを見つめている。

「ええ、頃合いを見てまた可愛がって差し上げます。ただし、役目はしっかりとこなしてくださいね」

「は、はいぃッ……!」

 可愛がる、という言葉に反応して湿った吐息を漏らすメイド二人を尻目に、セラは早々に部屋を退出した。


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破滅願望   原作:M月  イラスト:朝凪  制作:fatalpulse

13話 命令 (挿絵なし)

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 一人の男がセラに身も心も財産も、その全てを捧げることを誓った頃。

 王城からやや離れた区域に佇む屋敷の中で、老人が口惜しげに顔を歪めながら思案に耽っていた。

 

「……おのれ……」

 呟き漏れたのは、どちらかと言えばあまり穏やかではない言葉だった。弱々しげに部屋を明暗させる蝋燭の明かりが、皺だらけの顔を不気味に照らしている。難しげなその表情もあわせれば、老人の機嫌の程は歴然といえよう。

 

 その理由は、リアにあった。

 

 老人の名は、ゲルウェン。王城魔術師筆頭と謳われる程の、国内でも有数の魔術師である。

 ある意味ではリアの人生を変えた一人と言ってもいい。そしてまさに、核心はそこにあった。――そう、老人は深く後悔していた。失敗した、と。

 

 バルガスをけしかけて、アズライト家の娘を襲わせたことが、全ての間違いだった。

 ……当然、ゲルウェンにも目的があり、結果がどう転ぼうとも、最終的には己の益として利用する自信があった。老人にはそう自負するだけの経験と人脈、そして能力がある。

 バルガスがアズライトの娘に返り討ちにあう、もしくは計画通りに進んだのちにアズライト夫妻が事件に気付き、一騒動を巻き起こす――最も可能性が高いと踏んでいたのは、このあたりだろうか。

 

 だが実際は、計画通りにアズライトの娘が襲われたものの、あの夫妻はそのことに毛ほども気付くことなく、事件は闇へと葬られた。なぜならば当の襲われた娘がそれを受け入れ、問題としなかったのだ。

 そしてそれ自体は、全くの予想外というわけでもなかった。

 バルガスに渡したのは、相当に強力な媚薬である。恐らくは色を知らぬであろう小娘が、初めて味わう極上の快楽に病みつきになるという可能性も、想定はしていた。

 

 そしてそれならそれで、バルガスさえ適当に排除してしまえば、あとに残るのは性的快楽に耽溺してしまったうら若き少女のみとなる。そしてその娘は、同時にアズライト家のアキレス腱でもあるのだ。より強く快楽の虜にして引き込むもよし、あるいはそれを利用して貴族にあるまじき醜態を晒させ、一家まるごと排除するでもよし。

 

 要するに、初めのもっともリスキーな部分だけ別の人間に押し付けて、自分は安全な場所から頃合いを見計らった上で、美味しいところだけを掻っ攫っていく――計画通りに進みさえすれば、それだけで終わるはずの話だったのだ。

 そう。リアが、ゲルウェンの想像を遥かに超える爪を隠してさえいなければ。

 

 これにはさすがのゲルウェンも狼狽えた。あの出来事からバルガスの利用する私室や執務室には、ゲルウェンですら迂闊に手を出せない程に立派な魔術結界が張られるようになった。更に言えば、ゲルウェン以外の王城魔術師は結界の存在に全く気付かないほどの見事な隠蔽魔術付きである。

 正面から力づくで押し通ればバルガスを始末しリアを捕らえることは可能だろうが、そこまでのリスクを負うのはゲルウェンのやり方ではなかった。

 

 ――その結果がこのザマよ……。

 老人が内心で舌打ちをして、忌々しげに顔を歪める。

 ゲルウェンがバルガスに手を出せずに手をこまねいている間、バルガスはまさに好き放題に振る舞った。あの男にとってもリアの実力は予想外であったに違いないが、それを理解したことで、今やゲルウェンの立場すら脅かしかねない明確かつ強大な敵へと成り代わってしまった。

 無論、王城内の力関係はゲルウェンのほうが上である。しかし放置することはできない。

 

 元を正せば自業自得とも言えるのだが、どちらかといえば、自らの手で敵を作り出した迂闊さよりも、リアという駒を取り逃してしまったやり方の方を悔いている。

 とはいえ、いつまでも過ぎたことを悔やんでいても仕方がない。もはや敵としての対決は避けられないが、それさえなんとかしてしまえば、まだ手駒に加える余地は残っているはずだ。

 老人の予想が正しければ、というよりも状況的に考えて、リアがバルガスに従っている理由は――

 

「こんばんは、筆頭様」

 そのとき、背後から突然に、声をかけられた。

 

「むうッ――!?」

 ゲルウェンは高齢の老人には不似合いな俊敏さで振り返り、即座に術式を準備状態まで練り上げた。さすがと称えられるべき動きだろう。しかしその内心に余裕などはなく、むしろ混乱の極みにあった。

 ここはゲルウェンの屋敷であり、魔術の工房でもある。屋敷の全体には、先ほど挙げたリアのそれよりも更に高度で完成された結界が張り巡らされており、主のゲルウェンに気付かれずにこの場所までやってくることなど、絶対に不可能だ。

 だと言うのに、たった今目の前で、その不可能を成し遂げた侵入者が、挑戦的な笑顔をゲルウェンに向けていた。

 

「貴様はッ……!」

 ゲルウェンが息を呑む。その侵入者はまさに思案の渦中にいた、リア・アズライト本人であった。

 

「夜分遅くに失礼致しますわ――なんて」

 茶化すようにクスリと笑ったリアが、無遠慮にツカツカと距離を縮めてくる。

 

「動くでないわッ……! お主、いったいなんの用で――いや、そもそも、どうやってここまで……!」

 リアの歩みは止まらない。

「貴方の命を頂きに。普通に玄関から歩いて、ここまで」

 狼狽しているゲルウェンの問いに、端的すぎる答えを告げるリア。夜間に無断侵入してきているのだから、穏やかな用ではないとは予想していたが、よもや暗殺とは。

 しかしそれならば声をかけるなど論外だ。殺すのであれば不意打ちで、気付かせる間もなく命を刈り取るべきである。そんなことは、素人でもわかることだ。

 

「喝――ッ!!」

 それを驕りと捉えたゲルウェンは、怒声と共に術式を発動させた。わざわざ目の前で用意してみせた中位術式は、囮である。同時に、リアの両側面から1つずつ、背面から2つ。あわせて4つの上位術式が発動して、リアを囲むように全方位から攻撃魔術が襲いかかる。

 逃げ場がない上に、周りの上位術式はリアにとっては何の前触れもなく、瞬時に発動したように感じたはずだ。魔術師の工房――敵のテリトリーで戦うというのは、こういうことなのである。ゲルウェンに探知させずにここまで来たことは褒めてもいい。だが、それを理由にゲルウェンを格下と侮るのは、大きな間違いであったのだ。

 

「――……」

 禄な反応すら出来ていないリアに、全方位から術式が襲来する。手加減はしなかったので、即死するだろう。屋敷の修繕は必要になる上に、せっかくの有能な駒たり得た人材を失ってしまったことになるが、そんなことを言っている場合ではなかった。

 目の前の娘が油断したからこそ難を逃れることができたものの、下手をすれば殺されていたかもしれないのだ。

 直後に室内を襲うであろう衝撃と魔力の奔流にゲルウェンが身構えた、そのときであった。

 

 バシュゥゥウン! という小気味良い音と共に、リアを襲った魔術が全て、霧散した。

 

「……あ?」

 理解ができない目の前の出来事に、ゲルウェンが間の抜けた呟きを漏らした。

 

「それじゃ、何か言い残すことはある?」

 今の出来事ですら語る必要のない瑣末事とでもいうのだろうか。リアはまるで何事もなかったかのように、淡々と自分の用件だけを押し付ける。

 

「なッ……お、何をっ……」

 対するゲルウェンは、極度の混乱から抜け出すことができずにいた。無理もない。魔術という道を歩んで、いったい何十年か。2年や3年などという期間ではないのだ。人生の半分以上は魔術に捧げた。

 そのゲルウェンをして、何が起こったのかまるでわからなかったのだ。ゲルウェンは、自分の全てを否定されたかのような錯覚すら覚えた。

 

「何もないの? なら――」

「くッ……!!」

 咄嗟に我に返ったゲルウェンは、慌てて緊急転移魔術を発動させた。転移そのものは無詠唱で発動できるほど優しい術式ではないが、先ほどの上位術式と同じく、事前に用意しておいた工房の機能である。

 だが――そんな命綱の転移術式すらも、呆気なく霧散した。先ほど目の前で見た現象と全く同じように。笑ってしまうくらいに簡単に。

「なぁあッ……!?」

 どうやら、対象がリアだろうとゲルウェンだろうと、この場で発動した魔術は全て無効化することができるらしい。それがわかったところで、その原理すら理解できない以上、対抗する術などないのだが。

「それじゃ、さよなら」

 そしてやはり何事もなかったかのように淡々と、リアがそう告げた。このまま何もしなければ殺される。だが、ゲルウェンには既に打つ手がなかった。

「まッ……、待て!」

 歩みを止めずにいたリアが、老人から三歩ほど離れた距離で、ようやくピタリと止まった。

「なに?」

 つまらなさそうに聞き返すリア。無駄話に付き合うつもりなのではなく、最後に言い残す言葉を待っているのだろう。ここにきて、ゲルウェンはようやく自分の認識が根本的にズレていたことを知った。

 暗殺にきておきながら声をかける愚かさを驕りと切り捨てたが、その実、目の前の少女はその驕りを含めても何も差し支えないほどの実力を有していた。

 侵入されたことに全く気づかなかったのも当然といえる。単純に、実力差がありすぎただけなのだ。

 

「う、ぐ、うぅぅう…………ッ!」

 驚愕、怒り、悔しさ、口惜しさ、恐怖、絶望感、喪失感――そんな一言では言い表せない複雑な感情を、ゲルウェンが襲う。

 

「…………」

 唸るばかりでいつまで経っても何も言わないゲルウェンを見て、リアがほんの少し不機嫌そうに口をとがらせている。この様子では、いつまでも待っていてはくれないだろう。何も言わずにいれば、ゲルウェンに訪れるのは死だけだ。

 

「な、なぜ……それほどの実力がありながら、なぜ、あのような男に従っておる!」

 時間稼ぎと、この場を逃れるための突破口を探すための質問。だが同時に、素直な疑問として、聞かずにはいられなかった。

「……んー……」

 わずかに目を伏せて思案するリア。

 

「――まあ、いいわ。一人寂しく死にゆくお爺さんに、冥土の土産として教えてあげる」

 リアが、両手でスカートをピラリとめくった。少女の性器が露わになる。なぜか、下着は履いていないようだった。

 

「むッ……!?」

 ゲルウェンが短くうなった。恥ずかしげもなく晒されたリアの女性器に興奮したのでも、毛が一本も生えていない無毛の恥丘にフェティズムが刺激されたのでもない。

 控えめに盛り上がる土手のやや上、ヘソよりはやや下に位置する下腹部に――ハートマーク型の、淫紋が刻まれていた。

 それが隷属を誓った術式を兼ねていることに、ひと目で気づいたのだ。

 

「あの人……凄いの♡」

 室内が暗いせいでわかりにくいが、リアの頬には赤みがさしていた。はぁっと悩ましげな吐息まで漏らしている。晒されている性器からは、とろとろとした液体が両の太腿を伝い出していた。突如性器を晒してから、ものの数秒である。あっという間に自分の世界に入ったこととその身体の反応を見るに、リアが心身ともにバルガスの手によって調教され尽くしてるのは、誰の目から見ても明らかだった。

 

 それは結局のところ、ゲルウェンにとっては予想通りの理由であった。少女はもう、ずぶずぶに浸かってしまっていたのだ。男のことしか考えられなくなった淫乱。それ自体は珍しくもなんともないが、それが常識外の化物であったことが、ゲルウェンにとっての不幸といえる。

 しかし同時に、今見せたほどの実力があれば、事の発端――いくら両親を人質に取られたような状況でも、バルガス如きにいいようにされる訳がないことに思い至る。何より計画を立案したゲルウェンが、そこまでの絵図を描いていない。計画が成功しようと失敗しようと、どちらに転んでも構わない――その程度の策だったのだ。

 両親に危害が及ばない方法で、かつ目の前の危機も切り抜ける。そんなものは、この少女ほどの実力があれば、制約になりえない。どうとでも対処の仕様があったはずなのだ。

 

 だが、そうはならなかった。それが意味することは何か。憶測でしかないが、人智を超えた域に到達しているこの娘は、あえて抵抗しなかったのではないか。というよりもむしろ、それ以上に納得できる結論が思い浮かばない。

 経験したことがない性交という行為がどんなものか。恐らくはその程度の、興味本位程度の、そう、実験だったのではないか。

 普通の感性であれば考えられないが、ここまで人の枠を外れた人間の思考など、理解できるはずもない。――そんな不幸な噛み合わせの結果、肉体そのものはただの少女に過ぎなかった天才は、その体験によって人生観を変えられてしまった。

 

「とろっとろにされた私のココが、逞しすぎるおチンポで何時間も、場合によっては一晩中掻き回されるの……♡ ねえ、そんなひどいことをされた女が、どういう気持ちになるか、想像できる?」

 この娘にとって相手は誰でもよかったはずだ。それがいたって普通の性交であれば、こんなものかと呆れ、結局何事もなくそれまでのように爪を隠す結果になっていたかもしれない。

 ゲルウェンが媚薬を渡したことで、少女は雌としての自分を自覚した。あの奴隷の紋章は、おそらく自ら刻んだものだろう。なるほどつまり、先のゲルウェンの後悔は何一つ間違っていなかったことになる。

 

 ――バルガスをけしかけて、アズライト家の娘を襲わせたことが、全ての間違いだった。

 最低でも媚薬を渡さなければ。欲を言えば、リスクを恐れずに自分の手でこの娘を籠絡しようとしてさえいれば。

 

「何度も気をやって、気絶させられて、でもすぐに女の器官をいじめられて起こされて――それをずっとずっと繰り返されるのよ……。それにあの人、意地悪だから、そんなことをしながら私のことを雌豚だとか、奴隷だとか言い続けるの。ひどいと思わない?」

 リアは自らの乳房を揉み、性器をクチュクチュとイジリながら、ぺろりと舌なめずりをした。

 

「でもね、そんなことをされたら……女の子だったら誰だって、メスにされちゃうでしょう? 逆らえなくなっちゃうでしょう? だから別に、不思議なことじゃないの。あえて答えるなら――彼が男で、私が雌だから。理由なんて、それだけよ」

 逃した魚の巨大さに、歯噛みする。だが、それならば、まだ手遅れというわけではないはずだ。

 

「……ようわかった。ならば、儂に従ってみないか?」

「貴方に……?」

 うっとりとした表情で虚ろな瞳を浮かべていた少女が、バルガスへの陶酔を止め、ゲルウェンに焦点をあわせた。

 

「そうじゃ。儂ならば、あの男よりも、更に極上の快楽を与えてやることができる」

「冗談。というか貴方、勃つの?」

「別に、儂が肉体的に頑張る必要はあるまい。そういった魔術を多く知っておるし、お主が望むならば、男などいくらでも用意してやるわい。例えばそうじゃの……房中術に精通した美丈夫を複数人用意して、お主専属の奴隷としてやろう。お主は毎晩、今とは比べ物にならん快楽を味わえるというわけじゃ。薬に抵抗がなければ、媚香を部屋中に充満するほどに焚いてから奉仕させるのも良いかもしれんのう」

 少女の気分一つで、殺される。そんな緊張感からか、普段よりもやや早口となったゲルウェンが、まくし立てる。

 

「ふぅん……? 中々面白そうではあるわね」

「ああ、逞しい男が好きというのであれば、特別体つきの良い奴隷剣闘士あたりはどうじゃ? その男にしばらく禁欲させた上で興奮剤を注入し、狭い部屋で同衾するんじゃ。一晩中どころか、三日三晩は解放されないやもしれんぞ」

「あん……そっちはもっと私好みね。獣みたいに犯されるの、好きなの」

 満更でもなさそうに顔を赤らめるリア。感触は悪くないようだ。

 

「それ以外にもいくらでも、望むがままの体験をさせると約束しようではないか。どうじゃ、儂の――」

「でも」

 ゲルウェンの言葉を遮り、リアはニッコリと微笑んだ。

「ごめんなさい、貴方のことは殺せと命令されたの」

 そんな残酷な宣言の直後、ゲルウェンの心臓に激痛が走った。

 

「……ッがぁぁッ!?」

 途端、胸元を押さえながら膝をつくゲルウェン。

 額に脂汗を浮かばせながら、苦しげにリアに静止を求める。

 

「ま、待……な、なんでも……叶え……あぐッッ……! だ、助げッ……」

「提案は悪くなかったけれど……少しだけ遅かったわね。この契約紋を刻む前だったら、今の提案と引き換えに、貴方に協力くらいはしてたかもしれないのに」

「――……」

「ま――今更、どうしようもないでしょうけれど」

 薄れゆく意識の中、ゲルウェンの視界に最後に映ったのは、リアの下腹部に刻まれた淫紋だった。

 ドサリと、物が崩れ落ちる音がした。

「…………」

 死体に外傷はなく、検証しようとも毒物などの反応もでない。自らの胸を抑えるその死に様から、恐らくは突発性の心臓麻痺とでも思われるだろう。

「――ふう」

 リアにとって初めての殺人だったが、とくに何の感慨も抱いていないことに少しだけ驚く。

 何気なく、指に絡みついた愛液を無感情で眺めるリア。

「こんなことなら、さっさと殺しても良かったわね」

 ゲルウェンの最後の言葉を待ったり、初めから検討の余地すらない提案に付き合ったりと時間を浪費していたのは、リアの心の中に殺人に対する抵抗感が僅かながら存在していたからだった。

 わざわざ自分の性癖とバルガスとの関係を暴露したのも、殺さなければいけないという理由を増やしたに過ぎない。その点だけに限れば記憶を消してしまえば良いだけなので、本当に気休め程度の理由作りではあったが。

 しかし、終わってみれば実に呆気なかった。ゲルウェンは抵抗もできずにそのまま死んだ。微妙にリアの心のなかにひっかかっていた抵抗感は、今や見る影もない。

 残骸として残る死体――そんなものを眺めながら、リアの身体に湧き上がったのは、あろうことか肉欲だった。罪悪感ではない。

 バルガスの命令を一つ聞いた、だからそれに対するご褒美を貰える。普段通りのやり取りだ。そんな新鮮さの欠片もない行為に対する期待は、殺人に対する忌避感を遥かに上回っているらしい。

 

 もしかすると一応は人を殺したという興奮も混じっているのかもしれない。しかしどちらにせよ、もはや目の前の死体に感じるところは何一つなく、一秒でも早く戻ってご褒美を受け取りたい。それがリアの偽らざる本心だった。

 

「う、ふふ――」

 いくらなんでも、浅ましすぎると自嘲するリア。知りうる限りではもっとも優れた魔術師。名家の一人娘。そんな高貴であるべき自分が、正真正銘の家畜と化しているという事実に、興奮すら覚えている。

 

「さて――それじゃあ、さようなら。筆頭様」

 リアはチラリと死体を一瞥して――転移魔術で、王城へと戻る。

 

 後に残されたのは、怪しげに室内を照らし続ける蝋燭のか細い明かりと、虫の鳴き声ひとつしない静寂だけであった。

 ――同時刻、王城にて。

 セラが、バルガスの私室を訪れて、命じられた任務についての報告を行っていた。

 

「――という訳で、大臣の籠絡が完了いたしました。これからは、今までのような中途半端な支援だけではなく、こちらの要求通りの働きをするものと思います」

「そうか。あの男も、過去俺に無礼な発言をした人間だからな。今はまだいいが、用が済み次第すぐに潰せ」

「存じ上げております」

 大臣用の椅子に勝るとも劣らない大きさの椅子に背を預けながら、バルガスはワイングラスを傾けた。その傍らに置かれたボトルは、本来騎士団長に与えられる俸禄程度ではとても手が出せないはずの高級酒である。

 

「そういえば、貴様だけでなく、他の女どもを使って大臣を躾けているのだったか」

「はい。基本的には私に逆らえぬよう調教を施しましたが、既に調教担当のメイドたちにも逆らえない状態です。そのため、今後は極力私自身は関与しない予定です。何かあればその限りではありませんが、おそらく問題ないでしょう」

「ふむ……」

 

 残った酒を一息に煽るバルガス。空になったグラスに、すぐさまセラがワインを注ぐ。

「男の調教に慣れた女か。少しばかり興味が沸いた。近いうちに、ここへ連れてこい」

「――……」

 

 即答するべき主の問に、しかし返答はなかった。

 今のが調教されたいなどという意味ではないことは明白だ。そういう勝ち気な女こそ、バルガスの好物といってもいい。

「なんだ、部下の身が大事か? 俺の命令が聞けないなどとは抜かすなよ」

「……いえ。問題はありませんが、あれらは私への忠誠を誓わせています。仕事を任せる上では現状の関係がもっとも都合が良いので、できれば他の女性にして頂けると助かるのですが」

「駄目だ。そいつらを連れてこい」

 ――ふう、と小さくセラが溜息を吐いた。従者のとるべき態度ではなかったが、往々にしてセラはそういう態度を隠さない。――リアに対しても、同様であるように。

「仕方がありませんね。私が命じれば彼女たちも従いはするでしょう」

 明らかに嫌々といったセラの様子に、失笑するかのようにバルガスが鼻で笑う。

「ふん、相変わらずいつまで経っても態度のでかい雌犬だな。寛大な俺だからこそ許してやっているが、度が過ぎればタダではおかんぞ」

「そのような心配をなさらずとも、私はもうバルガス様には逆らえませんので。いたいけな従者を、あまりイジメないでほしいものですね」

 淡々と、ともすれば冗談に聞こえるほどの抑揚の無さだったが、逆らえないという点に一切の誇張はない。よほどのことが無い限り、セラはバルガスの命令に従うだろう。

「ほう。では俺がリアを殺せと命じても、従うな?」

「…………」

 よほどのこと、を例えに持ちだされて、セラが一瞬だけ押し黙る。

「くくく、どうした。顔色が変わったぞ」

 

「――私は、心身ともに貴方様の奴隷です。死ねと命じられれば、死にましょう。ですが――」

 セラは僅かに目を細め、主人であるはずのバルガスを射抜くような瞳で睨み、

「リア様を傷つけることだけは、許しません。もしものときがあれば、貴方様を殺してでも止めます」

 そうハッキリと告げた。

「ふははははッ……!!」

 無礼千万といってもいいだろう。だがバルガスはそんなセラの言葉を愉快げに嗤い飛ばした。

 もちろん、バルガスにその気はなかった。リアだけでなくセラも、本気で害するつもりはない。二人がどれだけ有能な駒であるか、理解しているからだ。

 そんな女たちが二人とも、自分に逆らえずにいる。その事実は、バルガスの自尊心を大いに満たす。であればこの程度の小さな反抗くらいなら、笑って受け流そうではないかと思える程度の余裕を、今のバルガスは持ち合わせていた。それに――

 

「散々俺に媚びた雌犬が大きく吠えたものだ。だが、いいぞ。その立場を弁えぬ態度も今となっては悪くない。安心しろ、ペットが多少反抗したからといって殺しまではしない」

 実際のところ、どこまで本気で言っているか、いや本気で言っていたとしても、実際に実行できるかわかったものではないのだ。

 それが理解できていなかった頃であれば間違いなく激昂していただろう。だがバルガスは、女の本質に触れ、ただただ見下していた過去と比べても、もっと本質的なところで女というものを馬鹿にするようになった。

 

「とはいえ、だ。この俺に向かっての無礼な発言はやはり許せんな。貴様には罰を与える」

「はい。申し訳ありませんでした」

「くっくっく……。まずはしゃぶれ。貴様の生意気な態度に、少々滾った。その後は準備なしで犯しぬいてやる。もっとも、大した罰にはならんだろうがな」

「……はい」

 バルガスの言うとおり、準備などしなくともセラは既に発情してしまっていた。

 ためらうこともなく、跪いて性的な奉仕を開始するセラを見下ろしながら、バルガスは再び愉快げに嗤った。

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Beelzebub

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