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「このたびは拘束サービス社をご利用いただき、ありがとうございます。お申し込みいただきましたのは『箱の中の待ち合わせ・厳重拘束快楽責めパック』でお間違いないでしょうか?」  担当のお姉さんに問われ、私はしっかりとうなずいた。  とはいえ、拘束サービス社に依頼したのは私ではない。恋人《パートナー》兼、女主人《ドミナ》の白枝《しろえ》が、申し込んだのだ。  まぁ白枝と私は趣味嗜好性癖が合致しているし、拘束サービス社は信頼できる会社だから、私としても異存はないのだが。  白枝のことを思い出してニヨニヨしていると、お姉さんが私に声をかけた。 「それではまず、こちらにお着替えいただきます」  それは、私の中学時代の制服だった。 「白枝さまより、『黒美《くろみ》はセーラー服が似合うのよねー』とのことで、ご指定いただきました」  お姉さんはそう言ったが、白枝の本心はわかっている。  それを着せると、私が恥ずかしがるからだ。根っからドSの白枝は、私が恥ずかしがる姿が大好きなのだ。  そんな白枝と相性ぴったりの私は、中学時代の制服を着せられて恥ずかしくなると、なぜか感じやすくなってしまう。  そのことも知っているから、白枝はセーラー服を選んだのだ。  ともあれ、それはお姉さんには関係のないこと。  渡されたセーラー服に着替えてくると、革拘束具と無数の革ベルトが用意されていた。  まずは、アームバインダー。 「両手を背中側で、まっすぐ揃えてくださいませ」  言われてその通りにすると、腕に二等辺三角形の革袋を被された。  それから、その革袋備えつけの2本のベルトを締められる。  左腋から引き出したベルトを、胸の上を斜めに。それから右肩を通って再び背中。革袋上端のバックルに仮留めしてから、もう1本のベルト。今度は右腋から左肩へと、最初のベルトと胸の上で交差させるように。  指先も含め、二の腕の真ん中あたりから下は、革の袋の中。胸でX字を描くようにかけられたベルトで、革袋はけっしてずり落ちない。  この段階で、私は手の自由を奪われている。  とはいえ、アームバインダーの拘束は、ここからが本番だ。 「肩を後ろにすぼめるような感じで、左右の肘をくっつけてみてください」  お姉さんに言われて従ったところで、腕を閉じ込める二等辺三角形の頂点から底辺にかけての編み上げ紐の締めあげが始まった。  キュッ、キュッ、と編み上げの革紐を締められるたび、わずかに許されていた腕の自由が奪われていく。  手首、前腕部、肘、編み上げの締めつけがせり上がってくるほどに、動きが制限されていく。  そして最後に肩のベルトを増し締めされると、私の上半身全体が、固められたように動けなくされていた。  一般的には、これで充分『厳重拘束』と言えるだろう。  だが、白枝や私、さらには拘束サービス社にとっては、まだまだ標準的な拘束。  胸の下とお腹でアームバインダーの腕ごと革ベルトで拘束されて、腕は震わせる程度にも動かせなくなった。  それからお姉さんが取り出したのは、革製のマスク形開口式口枷。いわゆる、フェイスクラッチマスクというやつだ。  ただし、通常のフェイスクラッチマスクとは、金属製の筒が違う。  歯にあたる部分には、事前に型取りして私専用に作られていたマウスピース。それが取りつけられた筒そのものも、ふつうのものよりずいぶん長い。 「口をお開けくださいませ」  言われて口を開けると、筒が口中深くにまで侵入してきた。 「マウスピースをしっかり噛んでくださいね」  その言葉にも従うと、口枷のハーネスを締められる。  まずは、筒を吐き出せなくするように、後頭部。それから、鼻の左右を通って両目のあいだでひとつになる逆Y字形の縦ベルト。 「なにか不具合はありませんか?」 「あぅ(はい)」  問われて答えようとしたが、声は言葉にならなかった。  それから脚の拘束――と思っていたら、制服のスカートをめくり上げられた。 「うっ(ひっ)……!?」  突然の狼藉に、悲鳴をあげかけて思い出す。  白枝が依頼したのは『箱の中の待ち合わせ・厳重拘束快楽責めパック』なのだ。これから行なわれるのは、快楽責めのための処置。  そのことを思い出しながら、体操服のクォーターパンツとショーツをずり下ろされる。 「失礼いたします」  直後、媚肉にローターを埋め込まれた。 「ぁうっ……」  口枷を嵌められた口でくぐもってうめいたところで、陰核《クリトリス》にもうひとつのローターを押し当てられた。  それらをテープで固定されて、ショーツとクォーターパンツを直され、左脚の裾からローターのコントローラー部分が垂れ下がる状態にされてから、いよいよ脚の拘束。  太もも、膝の下、足首をひとつにまとめてベルトで縛られ、体育館の三角座りのような体勢で座らされる。  それから、白い指定靴の足も甲のあたりで縛られた。  脚を折りたたまれ、ふくらはぎと太ももをくっつけた状態にされ、けっして伸ばせないようベルトで締めあげられた。  さらに、新しいベルトを背中のベルトに通されて、肩ごしに太もものベルトに絡めて留められる。  それで、私は身体を折りたたまれた体勢から、ピクリとも動けなくなった。  まるで、荷物として梱包されたような状態。  そんな私を詰める箱――実際は箱詰めプレイ専用のスーツケース――の蓋が開かれた。  お姉さんを含めスタッフ3人がかりで、縛りあげられた身を箱の中に、身体の右側を下に横たえられる。  するとそこは、身体を折りたたまれた状態でギリギリの、極小の空間だった。 「それでは、閉じ込めさせていただきます」  お姉さんは相変わらず丁寧な口調だが、私にはもう、彼女の行為を拒むことはできない。  厳重に縛《いまし》められ、ピクリとも動けない身では、高さ20センチもない箱の縁すら乗り越えられない。口枷を嵌められて喋れない口では、拒絶の言葉を発することもできない。  とはいえ、これは白枝が決めたプレイ内容だ。それを私が拒むことはない。  お姉さんの言葉にコクンとうなずくと、ふたつのローターのスイッチが入れられた。 「んうッ……」  感じるところを刺激する振動にうめいたところで、蓋が閉じられる。  そして、身体の右側に蓋が触れ、軽く押しつけられたところで――。  カチリ。  頭の上あたりで金具が噛み合う音がして、私は箱の中に閉じ込められた。  閉じ込められた箱の中は、真っ暗ではなかった。  箱の上部、視線の斜め上あたりに通気用のスリットがあり、そこから光が差し込んでいるのだ。  そのスリットから、お姉さんが私に語りかける。 「これより、白枝さまとの待ち合わせ場所にお運びするわけですが……ひとつだけ、お気をつけいただきたい点がございます」  それは、大きい声を出してはいけないという点。  強化樹脂製の箱は、もともと完全防音ではない。そのうえ通気用のスリットがあるから、中の声が外に漏れやすいのだ。 「この点、留意していただけますか?」 「あう(はい)」  お姉さんの言葉に答えると、彼女があらためて告げた。 「周りが静かであれば、今のお返事の声が聞こえます。くれぐれもご注意を」  さらに念押しされて、箱がゴロゴロと動き始めた。  拘束サービス社が契約しているマンションの一室を出て、通路へ。  一時的に止まったのは、エレベーターの到着待ち。一瞬ゴロゴロと動いたのは、エレベーターに乗ったとき。  そのあいだも、お股に固定されたローターは動き続けている。私の媚肉の中と陰核を、振動で刺激続けている。  基本的に無音のエレベーターの中、箱の中にこもるモーター音が、やけに大きく聞こえる。その淫具がもたらす振動を、ついつい意識してしまう。 「ん、ふぅ……」  箱の中で吐息を漏らしたとき、エレベーターが止まった。  1階に着いたのか。  いや、違う。  途中で止まったのだ。  扉が開く。拘束サービス社のお姉さんたちが、位置を変えてスペースを開ける気配。  それから、どこの誰ともわからない人が乗り込んできた。 『周りが静かであれば、今のお返事の声が聞こえます。くれぐれもご注意を』  ついさっきのお姉さんの言葉を思い出し、息をひそめる。  とはいえ、ローターのモーター音は消しようがない。  それに気づかれないかとドキドキするうち、お股に生まれる快感が大きくなってきた。 (ど、どうして、こんなときに……?)  それは『こんなとき』だからである。  根っからのドS、生粋のサディストと相性ぴったりの私は、元来のドM、生まれついてのマゾヒストなのだ。  厳重に拘束され、陰部にローターを仕込まれ、箱の中に閉じ込められ、私が悦ばないわけがない。  拘束サービス社に頼んでこんなことをしている変態娘だとバレてしまいかねない状況で、私の悦びが大きくならないわけがない。  ヴヴヴヴヴ……。  被虐で感じやすくなった私の肉を、無慈悲な機械が刺激する。 「ん、ん、ン……」  必死で声を抑えようとする私を、あざ笑うかのように。 「ン、ぅ、ン……」 (ムリ、これ以上は……)  声を抑えていられなくなる。  そう思った刹那、エレベーターが1階に着いた。  どこの誰とも知らない住人が降りていく。続いて、私を閉じ込めた箱を押してお姉さんたちも。 「ンふぅ……」  バレずに済んだことに安堵し、小さく息を吐くが、まだまだ試練は始まったばかり。  ゴロゴロと箱を押されながら、マンションのエントランスから野外に出る。 (そういえば……)  どこに連れて行かれるのだろう。  白枝との待ち合わせ場所とは聞かされているが、具体的にそれがどこなのかはわからない。  気になるが、今さら訊ねることは、いろんな意味で不可能だ。  向かう先を教えられず、訊ねられないまま、ゴロゴロと箱を押されて何処《いずこ》かへと運ばれる。  箱を持ち上げられたのは、階段か。  止まったのは、信号待ちか。  通気用スリットから街の喧騒は聞こえてくるが、周囲の正確な状況はわからない。  そのうち、ふたつのローターがもたらす快感に、酔わされ始めた。  ヴヴヴヴヴ……。  極小の箱の中に、モーター音が響く。 「ンふ、んッ、ンッ……」  閉じ込められた箱の中で、くぐもってうめく。  口枷が特殊なフェイスクラッチマスクだった理由が、ここにきてようやくわかった。  口呼吸ができるから、ローターに昂ぶらされて呼吸が乱れても苦しくならない。マウスピースに保護されて、長時間はめられていても歯や歯茎を傷める心配をしなくていい。筒が長く口中深くに侵入しているから、口中に溜まった涎が垂れにくい。  そうと気づきながら、箱の中で少しずつ昂ぶっていく。  ヴヴヴヴヴ……。 「んッ、ンッ、んあッ……」  ヴヴヴヴヴ……。 「ンふッ、んぅ、ンぁん……」  厳重拘束と逃れようのない閉じ込め、ローターの刺激に酔わされ、蕩け始めたところで、箱が止まった。  気づくと、お姉さんたちの気配が消えていた。 (どういう、こと……?)  快感に蕩けた頭で考える。  拘束サービス社のお姉さんたちは、ほんとうにこの場にいないのか。  待ち合わせ場所に白枝が来るのを待って、彼女に直接私の箱を引き渡すのではないのか。  もしかしたら今、私は待ち合わせ場所に放置されているのか。 (いえ、拘束サービス社の業務のなかに、拘束露出プレイの見守りサービスがあるくらいだもの……)  一見すると放置されているようで、実のところは見守られているに違いない。 (でも……)  いったん心に生まれた不安が、論理的に考えても晴れるわけがなく、私はどんどん悪い予感に囚われていく。  そのなかでも、ローターは止まらない。  ヴヴヴヴヴ……。  振動に酔わされる。 「ンぅ、んッ、ンふ……」  箱の中で快楽に蕩ける。  そのときである。  不意に、箱がゴロゴロと動き出した。 (ついに、白枝が来てくれたんだ!)  嬉しい、嬉しい。  しばし喜びに包まれ、悦びに襲われ。  だが本格的に蕩ける前に、新たな、そしてこれまでより大きい不安が生まれた。 (もし……)  私を閉じ込める箱を回収し、押して運んでいるのが、白枝じゃなかったら。  白枝以外の知らない誰かが私の箱を持ち去るのを、拘束サービス社のお姉さんたちが見落としていたら。  そもそも、白枝と拘束サービス社の契約は、あの場所に私の箱を置くところまでだったのかもしれない。  さらに、箱ごと私を連れ去ろうとしているのが、悪人だったら。  恐るべき事態を次々と想像してしまう。 (もし、ほんとうにそうなら……)  エレベーターに住人が乗り込んできたときのように、赤の他人に変態娘だとバレるだけでは済まない。  待ち合わせ場所に放置されていたときとは比べものにならないほど、事態は切迫している。  そのあいだも、ローターは振動し続ける。  不安と恐怖で酔い蕩けることはできないが、淫らな機械は、私の肉に快楽の味を確実に刻み続ける。  それが私の中に溜まりに溜まり、暴発して噴き出しそうになった頃、ようやく箱が止まった。 「着いたよ、黒美」  スリットから聞こえてきた声は、白枝のものだった。  よかった。私の箱を回収してくれたのが白枝で、ほんとうによかった。  心の底から安堵したところで、不安と恐怖で押さえ込まれていたローターの快感が、一気に押し寄せた。 「んぁ、あゥうッ!」  圧倒的な快感に飲み込まれたところで、身体の右側を下に、箱がゆっくり横倒しにされた。 「あぅ、あぅあんッ!」  蕩けて喘ぐなか、カチッとロックが解除され、箱の蓋が開けられた。  そして、愛しい女性《ひと》、白枝の笑顔を見た瞬間――。 「ンぅあぁアぁあッ!」  快感に飲み込まれ、口枷を嵌められた口でくぐもって喘ぐ。  来た。  ひと息にたどり着いた。  性の高み、オンナの悦びの到達点、恍惚の境地――絶頂。  そうしようとしていないのに、身体が跳ねる。  いや、跳ねたと思ったのは私のみ。きつく厳しく拘束された身体は、実際はブルブルと震えただけ。  とはいえ、それで悦びが減衰するわけではない。  マゾヒストの私には、むしろ厳重拘束下にあることを実感できて心地よい。 「んあッ、ぅグ(イク)ッ!」  くぐもって絶頂を宣言した私の頭を撫でて瞳を妖しく輝かせ、白枝が唇の端を吊り上げた。 「かわいくイケたね……それじゃもう少し、箱の中で愉しんでもらおっか」  そう言うと、白枝は再び箱の蓋を閉め、カチリとロックした。  絶頂直後でいっそう敏感になった肉を、ローターで責め続けられる私を閉じ込めて。 (了)

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