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 クロアール王国は、華々しい歴史と伝統に彩られた、大陸最古の王国である。  だが、その栄華も今は昔。たび重なる蛮族の侵入や、次々と勃興した新興国家の侵略により、栄光ある王国は衰退した。  そして今、クロアール王国は、長きにわたる歴史の幕を閉じようとしている。  新興国のひとつで国境を接するゾロメチル公国が、電撃的に王国への侵攻を開始したのだ。  勝ち目のないその戦いのなか、最後まで奮戦したのが、王女付き近衛女騎士団だった。 『婚約者たるアシケーヌ王国の王子のもとへ、王女を逃がせ』  国王の命を受けた近衛女騎士団は、今まさに焼け落ちんとする王宮から、多大な犠牲を払いつつも王女を脱出させた。  しかし、足の遅い王女専用馬車を護りつつ進む一行は、峠を超えればアシケーヌ領というところで、追撃部隊に追いつかれた。 「グラーナ、ジル!」  そこで、黒髪を短く刈った女騎士が、ともに殿《しんがり》を務める同僚ふたりに声をかけた。  エレーヌ・マリオン。第二王女付き近衛女騎士団随一の剣技を誇り、戦いのなか団長と副団長が倒れてからは、団長代行を務めてきた若き女騎士である。 「おうよ!」  エレーヌの言葉に、紅い髪の大柄な同期の騎士が答える。 「はい、団長代行!」  エレーヌに憧れて入団し、彼女の髪型を真似た、年若い後輩騎士も答える。 「おまえたち、ここで命を捨てる覚悟はできているか!?」 「愚問だぜ、エレーヌ」 「もちろんです、団長代行」  迷いのないふたりの声を聞き、エレーヌは大音声で叫んだ。 「ここは我々3人で食い止める。残りの者は王女殿下をお護りし、アシケーヌへ向かえ!」  そして、もっとも信頼できるふたりともに愛馬の手綱を引き、エレーヌは踵を返してゾロメチルの追撃部隊と対峙した。  その数、ざっと100というところか。  対する味方は、たった3人。  とはいえ、ここは狭い山あいの道だ。  大人数が横に広がり、一気に抜くことは不可能。3人がひと塊となって戦えば、王女の馬車を逃す程度の時間は稼げる。  そう考えての決死の行動だったが、ゾロメチルの追撃部隊は、距離を詰めずに足を止めた。  エレーヌたちの気迫を恐れたか。少人数による予想外の行動に罠を疑ったか。  いずれにせよ、ここを死に場所と定めたエレーヌにとっては、願ったり叶ったり。  できるかぎりの時間を稼ぎ、王女一行をアシケーヌ領へ――。  だがそこで、魔法の詠唱が始まった。敵の追撃部隊には、騎馬の魔導士がいたのだ。  攻撃魔法で、王女の馬車を遠距離狙撃しようというのか。  魔法の心得がないエレーヌには、詠唱から魔法の種類を判断できない。だが、手をこまねいていることはできない。 「突撃ッ!」  声をかけるまでもなく、ふたりの仲間もエレーヌと同時に駆け始めていた。  強力な遠距離攻撃魔法を発動させるには、長い詠唱が必要。それが完了するまでに前衛の兵を蹴散らし、魔導士を――。  だが、間に合わなかった。  おまけにエレーヌは、敵の意図を読み違えていた。  敵部隊との距離を半分ほど詰めたところで、詠唱が完了する。  光の束となって放たれた魔法が、エレーヌたちを捉える。 「しまっ……!?」  しかしその魔法は、攻撃用のものではなかった。 「こ、これは……精神に作用する……」  精神系の魔法だと気づいた直後、エレーヌは愛馬に跨ったまま意識を失った。 「ぅ、ん……」  低くうめいて、エレーヌは目覚めた。 「んぅう(ここは)……?」  あの世というところなのか。 「んむぅう(私は)……」  敵の精神魔法を受け、意識を失ったあと討ち取られたのか。 「んん(いえ)……」  きっと違う。  節々が痛む。ここが死後の世界なら、痛みは感じないはず。 「んむ(でも)……」  剣や槍で傷を負わされたにしては、痛みが軽い。  まるで、不自然な体勢で厳重に拘束され、長時間身体を動かせずにいるせいで、関節が痛んでいるような――。  そこで、ハッとした。 「ん、んむぅう(私は)……」  膝のところで脚を折りたたまれ、両腕は背中側でひとつに束ねられた状態で、身じろぎすらできないほど厳重に拘束されている。 「ぅむぅう(おまけに)……」  口中を異物に占拠され、まともに喋ることはできない。耳孔に栓をされたうえに耳全体をなにかに覆われて、音が聞こえてこない。目を開けても、見えるのは石造りの壁のみ。 「おはよう、エレーヌ・マリオン。あなただけ、睡眠魔法を解除してあげたわ」  不意に、耳の奥に直接届けられたような女の声が聞こえた。 「耳孔にねじ込んだ魔法耳栓経由で、私の声だけを聞かせているの」  その言葉のあいだに、声の主と思しき女が、エレーヌの正面に回り込んできた。 「ン(お)、ンむぅう(おまえは)ッ!?」  魔導士のローブをはだけ、ホルターネックのインナーを曝した女の顔に、エレーヌは見覚えがあった。  アニカ・コルネリ。クロアール王宮で、後宮付き宮廷魔導士を務めていた女である。 「んうんん(どうして)、んむぅう(おまえが)……」  ここにいるのか。エレーヌを捕らえ、拘束しているのか。  とはいえ、言葉にならない問いの答えを、エレーヌは自ら見出していた。  アニカはおそらく、王国を裏切っていた。  王宮に入り込む前からか、宮廷魔導士になったあとなのかはわからないが、侵攻前からゾロメチルに内通していたのだ。  そして裏切り者は、アニカのほかにも大勢いたのだろう。  だからこそ、要所要所を固めていたはずの守りの隙を突き、ゾロメチルは電撃的侵攻を成功させた。 「んぅう(おのれ)……」  憎しみを込めて、アニカを睨みつける。  しかし、戦場ならば敵を震え上がらせるほどの気迫が込められたエレーヌの視線を向けられても、アニカは余裕綽々の態度を崩さなかった。 「そんなみじめな姿で睨まれても、ちっとも怖くないわ」  そう言うと、アニカが唇の端を吊り上げて嗤った。 「ジベットという名の晒し刑具、知ってる?」  むろん知っている。大まかに人の形をした小さな檻だ。  それに罪人を閉じ込め、ほとんど動けない状態で、広場などに晒す。 「エレーヌを捕らえる拘束具は、ジベットを進化させた、究極の晒し拘束具なのよ」  告げながら、アニカが横に腕を伸ばした。  視界の端でなにかが動いた気がした直後、その身を捕らえる拘束具ごと、エレーヌの身体が回転した。  まず視界に入ったのは、目を閉じて眠る後輩騎士、ジルの顔。その顔の下半分は、鋼鉄製の口枷に覆われている。 (いえ、これは……)  ただの口枷ではない。それは首を捕らえ、胸の上部までを固めるネックコルセットと一体になっている。  その下には、露出させられた乳房。  ネックコルセットの下端とともに乳房を挟み込むように、胸郭下部から腰骨の上にかけて、鋼鉄製コルセット。  お腹のコルセットとネックコルセットは、乳房のあいだを通る棒状のパーツで連結されている。  さらにその下は乳房同様に陰部も露出させられたうえで、膝を折り畳んだ状態で固定するための鋼鉄帯が、太ももに2箇所ずつ。  それら鋼鉄の拘束具は、大陸共通文字の『U』を上下逆にしたようなフレームに同素材の棒で連結され、ジルの身体は完全に固定されていた。 「ンう(ジル)ッ!」  後輩騎士の惨状に思わず声をかけるが、睡眠魔法をかけられたままのジルは反応しなかった。  代わりに言葉を返したのは、アニカのほう。 「後輩ちゃんがかわいそうと思う? でもエレーヌ、あなたも同じ状態なのよ?」  言われなくても、身体感覚でわかっていた。  今まで気づかなかったのは、ネックコルセットで首を固定されていたせいで、下を見ることができなかったせいだ。 「みじめでしょう? ねえ、恥ずかしいでしょう?」  そのとおりだ。だが騎士たる者が、憎き裏切り者の前で弱い面を見せるわけにはいかない。  そう考えたエレーヌは、屈辱と羞恥にまみれながらも、瞳にいっそう力を込めてアニカを睨んだ。 「うふふ……自分がどんな状態かわからされてなお、そんな目ができるのね。さすがは団長代行さまといったところかしら」  だが、アニカの余裕綽々の態度は変わらない。  変わらないうえ、表情に妖しさが増したぶん、憎らしさは増している。 「ねえ、エレーヌ?」  妖しく輝く目を細め、アニカが訊ねた。 「ここが、どこかわかる?」  とはいえ、喋れないエレーヌの答えは期待していなかったのだろう。  アニカはエレーヌを捕らえて身じろぎすら許さない晒し拘束具を、軽く手で押して元の向きに戻しながら口を開いた。 「ここはね、クロアール王宮の奥深く。女ではあっても騎士のあなたたちが立ち入ったことのない、後宮の地下牢よ」 (後宮の……地下牢?)  そのふたつのワードは、エレーヌにとってちぐはぐと思える組み合わせだった。  後宮とは、王妃を筆頭に、側室や彼女たち高貴な女性を世話する女官が集う場所だ。権謀術数渦巻く表の王宮や、武が支配する騎士の世界、また日々悪人と対峙する治安部隊と違い、戦いや犯罪とは無縁の場所のはず。  なのにどうして、後宮に専用の地下牢があるのか。  その疑念を表情から読み取ったのか、アニカが薄く嗤ったままま言葉を続けた。 「男の世界で起こることは、女の世界にも存在する……騎士のエレーヌなら、わかるでしょう?」  言われてみれば、たしかにそうだ。男の騎士のあいだで起こるいさかいや対立は、女騎士団のなかにもあった。  だがなぜ、後宮の地下牢に囚われているのか。そもそもここは、ほんとうに後宮の地下牢なのか。エレーヌたちが追撃部隊と対峙したのは、王宮から遠く離れた地、アシケーヌ国境に近い場所だったのに。  最初からそれを語ると決めていたのだろう。このたびもアニカは、エレーヌの疑問に答えるかのように話し続けた。 「あなたたちが揃ってあそこで立ち止まってくれたのは、私にとって僥倖だったわ。目当ての3人を死なせず、大怪我を負わせず捕えるか、そこが問題だったのだから」 (私たちが……だと? 目的は王女殿下ではなかったのか?)  意外すぎる言葉だったが、言われてみれば納得できるところはある。  突撃を始めてから、魔導士――おそらくアニカ――が、途中で詠唱を切り替えた気配はない。魔法について詳しくないエレーヌだが、その程度のことはわかる。  つまりあの魔法は、始めからエレーヌたちを狙ったものだったのだ。 「私が使ったのは、対象を強制的に眠りに陥らせる睡眠魔法。狙った獲物を傷つけず無力化できるけれど、有効射程は極めて短い。その範囲に自ら飛び込んでくれたことも、幸運だったわ。それで捕らえたあなたたちを、眠らせたまま運んできたの」 「う(ク)ッ……」  言われて、後悔に口中の異物を噛みしめる。  だがわからないのは、なぜエレーヌたちを狙ったのかということだ。  その疑問の答えも、アニカは一方的に語った。 「王女付き近衛女騎士団が、巷で偶像《アイドル》的人気を集めていたことは知ってる?」  知っていた。密かに描かれた女騎士の肖像画が、印刷されて流通しているとも聞いたことがあった。 「そのなかでもエレーヌ・マリオン、グラーナ・ナベル、ジル・ベルアルドは、人気ベスト3だったのよ」  その話は信じられなかった。美貌なら団長が、華やかさという点なら副団長が、騎士団のなかでもずば抜けていた。ほかにもエレーヌの目から見て、自分たちより美しい女騎士は大勢いた。 「単なる美しさや華やかさという点では、女騎士より貴族の令嬢や妃のほうが上。女騎士団を偶像的に愛でる者たちにとって、大切なのはそこではないわ。彼ら彼女らがあなたたちに求めているのは、騎士としての崇高な精神がにじみ出たような、凛々しい美しさよ」  それが具体的にどういうものなのか、エレーヌにはわからない。  だが続く言葉で、アニカの、ひいてはゾロメチルの目的は明白になった。 「王女付き近衛女騎士のなかでも、騎士らしい容姿で人気のあなたたちの、憐れでみじめに堕ちきった姿を王宮前広場に晒す……そのことで、ゾロメチルへの反抗心をクロアールの民から削ぐことができる。そのためわざわざ、後宮の地下牢まで輸送してきたのよ」 (ならば……!)  アニカの狙いがあきらかになったところで、エレーヌはあらためて決意した。 (ことここに至っては、みじめで恥ずかしい拘束姿で晒されることは止められない。だが……!)  覚悟をして、心を決めた。 (たとえこの身は虜囚と成り果てるとも、心までは屈しない。肉体は憐れでみじめな境遇となろうとも、精神は凛々しくあり続ける!)  その強い意志を込め、いっそうきつくアニカを睨みつけるが――。 「うふふ……ほんとうに、いい目をするのね。その目が絶望に染まり、やがて淫らに堕ちるときが愉しみだわ」  アニカは意に介さず、妖しく嗤って告げた。  アニカが呪文を詠唱すると、長時間同じ姿勢で拘束されたことによる節々の痛みが、嘘のように消えた。  治癒魔法か。いや違う。 「一時的に痛覚を遮断する魔法をかけたわ」  それはもちろん、エレーヌを楽にしてやるのが目的ではないのだろう。  あらかじめ痛覚を遮断しなければいけないような処置を、これから行なうということだ。  とはいえ、どのような悲惨な処置も、エレーヌは怖れたりしない。そもそも痛覚を遮断されなくても、どんな痛みにも耐える覚悟はある。  そしてそれは、ひとりエレーヌにかぎったことではない。近衛女騎士団の騎士ならば、皆等しく強い精神力を持っている。  もちろんそのことは、近衛女騎士団と近いところにいた元後宮付き宮廷魔導士のアニカも知っている。  だから痛覚遮断の魔法をかけたのは、痛みを感じさせないこと自体が目的ではなかった。  その真意をおくびにも出さず、アニカが晒し拘束具から露出させられたエレーヌの胸に手を伸ばした。  そして、上下を鋼鉄の拘束具で締めつけられ、絞り出された乳房の先端に触れる。 「痛みは感じないけれど、触覚自体は残っているでしょう?」  そう言いながら、エレーヌの乳首を軽くつまむ。 「魔法で遮断したのは痛覚神経だけだから、ほかの感覚は残っているのよ」  つまんだ乳首を、ゆっくりとこねる。 「んむむ(やめろ)……!」  その手つきのいやらしさに、思わずあげた声は、もちろん言葉にならなかった。 「んむぅんぅんん(なんのつもりだ)……?」  手を使って払いのけることはおろか、身をよじって逃れることもできなかった。  狼藉を拒む術《すべ》のないエレーヌの乳首を、アニカがいやらしく弄る。  何者にも触れさせたことのない、エレーヌ自身もじっくりとさすったことのない場所に、憎き敵の玩弄を受ける。  その行為がどんな意味を持つのか、騎士として性的なこといっさいを遠ざけて生きてきたエレーヌにもわかっていた。  覚悟を持っていたにもかかわらず、思わず声をあげてしまったのはそのためだ。 「うふふ……」  乳首を弄りながら、アニカが目を細めた。 「そんなに嫌がるということは、これが淫らな行為だとわかっているのね?」 「……ッ!?」 「もしかして、もう性的な昂ぶりを覚え始めてる?」 「んぅんんむむ(そんなことは)……」  ない。そうはっきり断言できる。  だが、声は言葉にならない。意思を伝えることはできない。 「まったく……騎士にあるまじき、いやらしい肉体の持ち主ね」  その言葉を、物理的理由で否定することもできない。 「でも残念。今はあなたを気持ちよくさせてあげるのが、目的じゃないの」  そこで、アニカの指が乳首から離れた。 「愛撫により乳首を屹立させ、作業しやすくしたかったのよ」  そう言って、アニカが両手に持った器具をエレーヌに見せつけた。  小指の3分の1ほどの太さの、先端を鋭利に削りあげた針と、それが余裕を持って入る程度の筒。 「ピアッシング用のニードルと、そのレシーバーよ」  ピアッシング。肉体に穴を開け、そこにアクセサリーのピアスを着けること。  通常は、耳たぶに着けことが多い。だがエレーヌの耳は、口枷ネックコルセットと一体のカバーに覆われている。 「ふふふ……どこにピアスを着けるか、もうわかっているでしょう?」  言われて、ネックコルセットの奥でエレーヌの喉が動く。  その直後、左の乳首を左右から挟み込むように、ニードルとレシーバーがあてがわれた。 「始めるわよ」  アニカの言葉のあと、乳首にプツリとなにかが刺さる感触。  だが、痛覚を遮断する魔法のおかげで痛みはない。  痛みはないが、乳首の肉の中に、鋭いニードルが侵入してくる感触はある。  ことここに至り、エレーヌはアニカが痛覚を遮断する魔法を使った理由を察した。  もちろん、人道的な配慮などではない。激痛で暴れさせないためでもない。  そもそも人道的な配慮をするような人間は、捕らえた捕虜の乳首にピアスを着けたりしない。身じろぎすらできないほど厳重に拘束されていては、激痛で暴れることもできない。  ネックコルセットにより顔をわずかに上向けた体勢で首を固定され、自分の身体を見ることができないエレーヌに、アニカは乳首にピアスを着けられる過程を実感させようとしているのだ。  その策が功を奏し、エレーヌはニードルが乳首内部を進む、異様な感触に襲われる。  口中の異物を噛みしめながら、そのおぞましさに耐えていると、やがてニードルの先端がプツリとなにかを突き破った。  肉の内側から皮膚を穿ち、ニードルがついに乳首を貫通したのだ。  そこでいったん手を止め、アニカが呪文を詠唱した。  「治癒魔法よ。ふつうなら皮膚が再生され、ピアスホールが安定するまで負荷をかけない軽いピアスを着けていなくてはならない。でもニードルを貫通させたまま治癒すれば……」  たちどころにピアスホールの皮膚が再生し、はじめから残酷なピアスが着けられるというわけだ。  そのことをエレーヌにわからせてから、アニカがニードルを抜く。  代わりに装着するピアスを手に取る。 (こ、これは……)  装飾品のピアスではなかった。鎖どうしを連結するための、シャックル金具だった。  その実用品の金具のU字の部分に、アニカが金属製のプレートをぶら下げる。  ぶら下げたプレートに書かれた大陸共通言語の文字が、エレーヌに見せつけられる。 『エレーヌ・マリオン 元は騎士だった性奴隷』  文字を読んで愕然とするエレーヌの乳首に、みじめなプレートつきシャックル金具が取りつけられた。  そしてアニカが手を離すと、昨日まで何人《なんぴと》たりとも触れたことのなかった清らかな乳首に、ずしりと重みがかかる。  だが、痛くはない。痛覚を遮断する魔法の効果ではなく、ピアッシングの傷が治癒されているせいで、痛みを感じない。  ただ、敏感な乳首の肉を無骨な実用品の金属が穿ち貫き、そこに重みがかかっている実感はある。その実感が、乳首にシャックル金具を着けられ、そこにみじめな文字が書かれたプレートをぶら下げられたことを、エレーヌに忘れさせない。  右の乳首にもニードルとレシーバーを押し当てられても。乳首の肉をニードルが貫く異様でおぞましい感触を再び味あわされても。  金属製プレートに書かれた文字列が頭から離れない。  やがて、右の乳首もニードルが貫通した。その傷も、魔法で治療された。  それから、左の乳首のときと同じように、シャックル金具を見せつけられる 「こちらになにも吊らないのでは、バランスが悪いわよねえ」  そう言って右乳首用の金具に、プレートとほぼ同じ重さの分銅を吊られて、エレーヌの胸への処置は完了した。 「ンぅ(くぅ)……」  猛烈なシャックルピアスの存在感、吊られたプレートの重みに、くるおしくうめく。  それは、金属板が持つ物理的な質量だけではない。 『エレーヌ・マリオン 元は騎士だった性奴隷』  エレーヌにとっては、そこに書かれた文字が持つ、精神的な重みのほうが大きい。  もちろん、性奴隷の身分に落ちた覚えはない。落とされた記憶もない。  だが、文字の力は侮れない。  乳首のシャックルピアスに金属製プレートを吊られた厳重拘束姿で王宮前広場に晒されたら、なにも知らない者は、エレーヌが性奴隷に落とされたと思うだろう。  エレーヌは、それを否定する術《すべ》を奪われているのだから。 (ほんとうに、私は……)  この身は虜囚となろうとも、心まで屈せずにいられるのだろうか。  肉体は憐れでみじめな境遇となろうとも、精神は凛々しくあり続けられるだろうか。  騎士として護るべき王国民に、性奴隷に落ちたと思われてまで。  そして、心が折れかけたエレーヌへの残酷な処置は、これで終わりではなかった。

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