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県立戦隊 ピンクのピンチ  20XX年、世界征服を目論む悪の組織が、国立戦隊の活躍により滅ぼされた。  大それた目標のわりには、妙にやることが小さい組織だったが、ともあれこれで平和が訪れる。人々はそう思ったが、その考えは甘かった。  散り散りになった悪の組織の残党どもは地方に潜伏。  歩行者信号が青に変わる直前にフライングスタートしたり、燃えるゴミの日に弁当ガラを混ぜて出したり、排水溝が詰まりやすいよう落ち葉を集めて放置したり、交通標識が見えにくくなるよう庭木を生い茂らせたり。  法では裁けぬ小さな悪を成し、人々を困らせるようになった。  そんな零細悪の組織に対し、従来の司法や全国規模の国立戦隊は無力だった。  そもそも犯している罪が微罪なのだ。捕らえても前例に従って説諭のみで釈放されるか、せいぜい数日拘留される程度。やっていることが小さすぎて、国立戦隊に出動要請することもできない。  とはいえ、小さな悪事も積み重なると、人々の安穏な暮らしを圧迫する。  そうして零細悪の組織の脅威が地方にとって切迫したものになった頃、某県が大胆な行動に出た。  それは、県立戦隊の設立。  従来の治安組織では対応できない小さな悪を取り締まり、裁くことを目的として設立された県立戦隊は、一定の成果を上げた。  が――。 「これが、新しい任務ですか……」  その内容を聞かされた私、桃井早希(ももい さき)は、呆然とつぶやいた。  県民生活安全課実行係。通称、県立戦隊。  諸般の事情で大学受験を諦めたうえに就職活動にも失敗し、なんとかギリギリ県庁に潜り込ん臨時職員の私が、配属された部署である。  臨時職員にすぎない私は、仮にも『戦隊』と名がつく組織の隊員になれるような、特殊な訓練を受けているわけではない。  にもかかわらず、私が県立戦隊のメンバーに選ばれたのは、前任の実行係4号、通称県立戦隊ピンクが結婚退職したからである。  戦隊は、メンバーの半数が女性でなければならない。  県立戦隊設立時に定められたルールだ。社会的な要請、女性悪人逮捕時の配慮などなど、その理由は複数ある。  とはいえ、実行係全体で5人という少数精鋭だけに、女性メンバーが屈強な男性悪人に対峙しなければならない局面も出てくる。  そんなとき、私を助けてくれるのが、実行係に支給された変身スーツである。  見た目は極厚のぴっちり全身スーツ。衝撃吸収機能による防御力向上と、パワーアシスト機能による筋力増強性能を併せ持つ優れものだ。  さらに頭部に装備するフルフェイスマスクは、スーツ以上の防御力を誇るとともに、視聴覚を補強する機能も有している。  このスーツとマスクが、変身ブレスレットを着けた手を高く掲げ、「変身」と叫ぶだけで装備される。  特殊な訓練を受けていない私が、これまで県立戦隊の任務をこなすことができたのも、ひとえに変身スーツのおかげである。 「これは、あなたじゃなきゃ務まらない任務なのよ」  そんな私に、県庁勤めの公務員とは思えぬほど妖艶な雰囲気を漂わせる女性係長が、紅い唇を艶めかせて告げた。 「AKU学園……」  いかにも悪の組織が設立した学園ぽい名称だが、その創立は古く、もともとは、地元の伝統ある女子校。それが経営不振に陥り、巨大学校法人の傘下に入り、校名が変わったのが今年。  いっぷう変わった校名の由来はわからないが、学園の生徒が組織的に迷惑行為を繰り返すようになったのは、ここ最近のことである。 「その迷惑行為は、おそらく新しい学園関係者の指示で行われている。転校生として学園に潜入、その首謀者が誰なのかを探り、可能なら捕縛するのが今回の任務」  メンバー5人のうち3人は男性。もうひとりの女性メンバー、イエローは20歳台後半。つまり、私が適任ということだ。 「わかりました。さっそく任務に就きます!」  敬礼で係長に応え、私は貸与された制服を受け取って任務に向かった。 「うふふ……指定の子を向かわせましたわ。ええ、かまいません。あなたがたのしている悪事は、わたくしどもでは手に負えないレベルですもの。ことが大きくなって、こちらの手を離れてくれれば、当方としては御の字ですわ」  私が出ていったあと、係長が何者かに電話をかけていたとも知らず。 「ふう……」  係長が方々に手を回して私を転校生として送り込んだ学園の校長室で、私は小さくため息をついた。  メンバー5人のうち3人は男性。もうひとりの女性メンバー、イエローは20歳台後半。私以外に、転校生として潜入できるメンバーはいない。 「とはいえ……」  私は19歳。潜入調査のためとはいえ、高校を卒業し、一度は脱いだはずの制服姿は恥ずかしい。  いや、年齢のこと以外にも、私には制服を着ることに抵抗がある。  私は高校時代、同級生の女の子の性奴隷にされていた。  管野朱音(かんの あかね)、県内有数の資産家の令嬢である。  彼女の邸宅で、私は淫らな性調教を受けていた。大学受験を諦めたのも、就職活動に失敗したのも、そのせいだ。  実のところ、私との関係を続けるために、朱音は自分の大学に私も進学させる手はずを整えていた。  それが嫌で、性奴隷の身分から抜け出したくて、私はその話を蹴った。  しかし、時すでに遅し。準備期間がまったくなく、私は大学受験にも就職活動にも失敗した。  そして人生をやり直すため、なんとか手に入れた県庁の臨時職員の地位を守るため、私は慣れない県立戦隊の職務を――。  そこで、校長室の扉が開いた。  座っていたソファーから立ち上がり、校長に挨拶するため振り返り、私は凍りついた。 「あ、あなたは……」  そこにいたのは、校長ではなかった。校長どころか、教師や職員でもなかった。 「お久しぶりね、県立戦隊ピンクの桃井さん……いえ、早希」  なんと、私の正体はバレていた。いや、それ以上に問題なのは、現われた人物だ。  特徴的な八重歯をのぞかせ、妖しくほほ笑むその女性《ひと》は――。 「あ、朱音さま……」  かつての女主人《ドミナ》の名を、私はその当時の呼び方でつぶやいた。 「ふふふ……あの頃と同じように、わたくしを呼ぶのね? それだけ調教が身に染みているということかしら?」 「そ、そんなこと……」 「ないと思う?」 「は、はい。けっして!」  否定するときでさえ『はい』と答えてしまった私を嘲るようにクスリと笑い、あらためて朱音が口を開いた。 「それより、わたくしに訊きたいことがあるんじゃない?」  そうだ。問題はなぜ、ここに朱音がいるのかということだ。  彼女は親が出資する大学に進学し、地元には残っていないはずなのに、なぜこのAKU学園に。 「それは、私が本部から派遣されたからよ。この地における本拠地たる学園を指揮する、悪の組織AKUの幹部としてね」 「なっ……!?」  いかにも悪の組織っぽい校名だと思っていたが、まさか本当に悪の組織の学園だったなんて。  朱音がその組織の幹部だったなんて。  驚きおののく私に向かって不敵に嗤い、朱音が右手を突き出した。 「うふふ……変身!」  直後、朱音はマーチングバンドの衣装にも似た、黒いスーツ姿に変身していた。 「なっ……そ、それは……!?」 「変身スーツが、県立戦隊だけのものだと思った?」  正直、そう思っていた。  変身スーツがもともとは軍事技術で、世界征服を目論む悪の組織も使っていたことは知っていた。  しかし、地方に散り散りになった悪の組織の残党どもには、もう変身スーツを用意する資金力はなかった。 「それは、零細悪の組織の話でしょう? わたくしたちAKUは違うわ」 「くッ……」  ともあれ朱音の変身スーツに対抗するには、私も変身しなくてはならない。  そう考えて、変身ブレスレットをはめた左手を高く掲げる。 「へんし……」  しかし、朱音のほうが速かった。  彼女が手にした指揮杖を振り上げた刹那、その先端から放たれた閃光に打たれ、私はその場に倒れてしまった。 「くっ……」  制服の上から縄目を打たれ、私はくるおしくうめいた。  両手を背中でコ形に組まされ、手首を縛られたうえで、制服のセーラー服ごしに胸の上下をきつく縛られている。  その胸縄には、閂《かんぬき》と呼ばれる抜け止めの縄目も施され、容易に緊縛から逃れることはできない。 「うふふ……その姿、昔を思い出すわね」  絶望的な緊縛姿を朱音に揶揄されて、視線を伏せてしまった。 「どう? 昔の関係に戻らない?」  そんな私に妖しくほほ笑み、朱音が誘う。 「県立戦隊のスーツの力を持ったまま、わたくしの奴隷に戻らない?」  とはいえ、その誘いを受け入れることはできない。私は県立戦隊のピンク、県民生活安全課実行係4号として、人生をやり直すのだ。 (だから、今さら……!)  朱音の誘いには乗らない。乗ることはできない。  その意思を込め、あらためて彼女を睨むと、悪の組織AKUの若き女幹部は、唇の端を吊り上げて嗤った。 「ひっ……」  その笑みを見て短く悲鳴をあげたのは、彼女の瞳に嗜虐的な光が宿っていたから。口もとからのぞく八重歯が、獰猛な肉食獣の牙のように見えたから。  それが、あの頃と同じだったから。 「そう……じゃあ、あなたの肉に訊いてみようかしら?」  その表情のまま、朱音がセーラー服の上衣をたくし上げた。 「や、やめなさい!」  強気に拒絶できたのは、たった一度。 「や、やめて……」  私の言葉はすぐ懇願になり、その懇願もむなしく、たくし上げられた上衣を上側の胸縄に挟み込まれた。 「うふふ……ブラもめくっちゃおうね?」 「い、いや……それだけは……」 「どうして、そんなに嫌がるのかなぁ?」  その理由は、あっけなくブラもたくし上げられると、否応なくあきらかになった。 「これ、なぁに?」  そう言って朱音が触れた胸の頂きには、そこの豆を貫いて穿つ透明な樹脂。  ピアス穴が塞がらないよう保護するため、リテーナーとして着けている透明ピアスである。 「どうして、こんなものを着けてるの?」  もちろん、それはピアス穴が塞がらないようにするためだ。 「じゃあどうして、私が開けたピアス穴を守ろうとするの?」 「そ、それは……」  答えることができなかった。  性奴隷の身分から抜け出したいなら、その証たる乳首ピアスの穴なんか塞がったほうがいいのに、私はそうしてしまった。 「うふふ……口では拒んでいても、肉体はわたくしを求めているようね」  その理由をそう決めつけて、朱音が黒い金属環を取り出した。 「性奴隷のピアス……」  それは、かつて私が着けられていたのと同じものである。  朱音の性奴隷の証として、外すことを禁じられていたものである。 「これを、もう一度あなたに着けてあげる」  透明ピアスが外される。代わりに黒い金属環が嵌められる。 「うふふ……」  そして妖しく嗤った朱音が金属環を指で弾いた刹那。 「あっ、ふっ……」  ビリビリと痺れるような快感が乳房に広がり、私は甘い吐息を漏らした。 「うふふ……うふふ……」  そのことを感じ取ったのだろう。愉しそうに笑いながら、朱音が乳首ピアスを指で弾く。 「あぅ……あっうっ……」  そのたびに、私が小さく喘ぐ。 「ほんとうに気持ちよさそう」  そのさまを見て、朱音が耳もとでささやく。  乳首ピアスを弄られる気持ちよさは、それをされた者にしかわからない。  オンナのカラダのなかで一番感じやすいところのひとつを、貫き穿つ金属環で内側から刺激される快感を一度覚えてしまうと、もう忘れることはできない。  実のところ、私がピアス穴を温存した理由は、それだ。  奴隷の身分から脱しても乳首ピアスを弄る快感が忘れられず、でもふだんは刺激が強すぎて生活上困るから、目立たない透明ピアスを着けていたのだ。 「そんなにピアスの快感が好きなら、わたくしの奴隷に戻りなさい」  でも、それは嫌だ。 「そもそも、心のどこかで奴隷に戻りたくて、ピアス穴を守っていたんでしょう?」  違う。けっして、性奴隷に戻る道を温存したわけではない。 「うふふ……まだ素直になれないのね。いいわ、奴隷の快感、たっぷり時間をかけて思い出させてあげる」  乳首の快感に翻弄されながら途切れ途切れに答えると、朱音はそう言ってピアス弄りを続けた。  そうだ。朱音にはたっぷり時間がある。  ここはAKU学園。朱音は学園を運営するAKUの幹部。あらかじめ人払いをしておけば、余人が調教の邪魔をすることはない。  対して、私の任務はAKU学園への潜入調査。潜入中の隊員からしばらく連絡がないからといって、県立戦隊がすぐ動くことはない。 (せめて、変身することができれば……)  そうすることで、私は何人もの悪人、零細悪の組織の怪人や幹部を倒してきた。  今回も変身さえできれば、同じ変身スーツの力を持つ朱音にも対抗できる。この窮地から脱出できる。  しかし、ブレスレットに仕込まれた変身装置を起動するには、手を高く掲げて『変身』と叫ばなければならない。  そして今、私は厳しく縛られている。ブレスレットを着けた手を高く掲げるなんて、夢のまた夢だ。  そんな私を、朱音が嵩にかかって責める。  乳首を貫くピアスを指で持ち、軽くひねる。 「あっ、ふぁあ……」  それで甘い吐息を漏らさせて、ピアスに貫かれた乳首をつまむ。 「はひっ、はふぁ……」  肉の内と外から乳首を刺激され、ビリビリと痺れるような快感が大きくなる。 「はふぁ、ふぁ、ふぁあ……」  吐息の甘みは消えない。それどころか、艶まで混じってきた。  そのことを自覚しても、もう抑えることはできない。  同じだ。あの頃と同じだ。こうして快感に酔わされて、私は朱音の奴隷に堕とされた。  朱音が再びの奴隷堕ちを誘わなくなったのは、そのことがわかっているからだろう。彼女は私が再び堕ちると確信している。 (で、でも……)  今の私は 県民生活安全課実行係4号、県立戦隊ピンクだ。  あの頃と同じように、堕とされるわけにはいかない。  しかし、その意思を込めて朱音を睨んでいられたのは、ほんの短いあいだだった。 「はふぁああ……」  ピアスに貫かれた乳首を指で押され、蕩けた声をあげてしまった。 「はひゃあん……」  押されていた乳首をピンと弾かれ、強く保とうとした意思があっさり快感の奔流に押し流された。  もう止まらない。止められない。  朱音の指技に蕩けさせられ、性の高みに追い上げられ、私は――。  しかし、そこにたどり着くことはできなかった。  恍惚の世界をかいま見せられたところで、朱音の指は止まってしまった。 「はふぁ……なんれ?」  一瞬、不満の声をあげて後悔。 「うふふ……イキたかった?」  薄く嗤って言われ、反骨心がよみがえる。  いや、反骨心が復活したのは、わずかに性感が冷めたからだ。 (い、イキたくなんか……)  ない。  自分にそう言い聞かせたところで、乳首と乳首ピアスへの責めが再開された。  この時点で、私は朱音の思惑に気づいていた。 『奴隷の快感、たっぷり時間をかけて思い出させてあげる』  その言葉とは裏腹、朱音は私を感じさせようと、感じさせてイカせようとしているわけではない。  彼女は私に、絶頂を懇願させようとしているのだ。そうすることで、かつて快感に屈したことを思い出させようとしているのだ。  そして、もう一度快感に屈してしまえば、私は奴隷堕ちをも受け入れてしまう。  とはいえ、そうと気づいて自制しようとしても、精神と肉体は別。  乳首と乳首ピアスを弄られるうちに、私の肉はあっけなく高められてしまう。  高められ、押し上げられ、はるかなる性の高みへと――。  しかし、このたびもたどり着けなかった。  あと少しでそこに届くと思われた瞬間、朱音の指は乳首から離れてしまった。 「うふふ……イキたければ、そう言ってね」  そして私に誘いの言葉をかけ、愛撫を再開。  その責めを繰り返され、私の精神力は徐々に削られていく。 (で、でも……)  私は県立戦隊ピンクだ。 (だ、だから……)  屈してはいけない。屈するわけにはいかない。  そう考えて、何度めかの絶頂寸止め地獄に耐えたところで、朱音がふうとため息をついた。 「ずいぶん強くなったわね。以前の早希なら、とっくに堕ちていたのに」  そしてそう言うと、私を縛《いまし》める縄を解き始めた。 「さあ、変身してごらんなさい」  私の縄を解き終えると、朱音はニヤリと嗤って告げた。 「ど、どういうこと……?」 「深い意味はないわ。あなたの変身スーツ姿を見たくなっただけ」  そう言う朱音の真意はわからないが、千載一遇のチャンスには違いない。 「ならば!」  床を蹴り、朱音と距離を取って、乳首ピアスの胸を露出したまま変身ブレスレットを着けた手を高く掲げる。 「変身!」  刹那、ブレスレットがまばゆい光を放った。  その光が、私の身体にまとわりつく。まとわりついて、ピンク色の膜となって肌に貼りつく。 「ウッ!」  その膜が乳首責めの火照りを宿した柔肌をキュッと締めつけ、短くうめいたところで、私は県民生活安全課実行係4号。通称、県立戦隊ピンクに変身していた。 「県民生活安全課実行係権限により、県条例に基づきあなたを捕縛します!」  しかし私が悪人に対峙するときの決まり文句を告げ、戦闘態勢で身構えても、朱音は怯む気配も見せなかった。 「すてきよ、早希。強くて凛としていて……あらためてそんなあなたを支配したいと思うようになったわ」 「ふ、ふざけないで!」  そのことで頭に血が昇り、朱音に向かって床を蹴る。  思えばこのとき、出口に向かって駆け出せばよかった。  朱音はすでに悪の組織AKUの幹部であると白状しているのだ。いったん脱出し、その事実を持ち帰り、体制を立て直すべきだった。  しかし、私はそうすることができなかった。しようとも思えなかった。  朱音の言葉で頭に血が昇っていたから、それ以上に、県立戦隊の変身スーツの力を信じていたから、私は――。 「うふふ……ふざけてなんかいないわよぉ」  殴りかかろうとした腕を、朱音につかまれた。 「ほんとうに、すてきだと思ってるんだから」  その腕を背中にねじり上げられ、うつ伏せでソファに押し倒された。  スーツに強化された怪力で押さえつけられ、身体がクッションにめり込む。  動けない。抵抗できない。圧倒的な力の差。 「変身スーツは、もともと軍事技術。県立戦隊のものも含め、民生用スーツはあえて性能を落として供給されている。でもAKUのスーツは、軍用と同等の性能を持っているのよ」 「そ、そんなこと……」  にわかには信じられない。 「でも、信じるしかないでしょう?」  そのとおりだ。現に今、私は朱音に圧倒されている。 「それに、特別なのはスーツだけじゃないのよ?」  私を片手でソファーに押しつけたまま、朱音がもう一方の手に持った指揮杖を、マスクのスモークバイザーの前にかざした。  そして――。 「うふふ……」  朱音が愉しそうに笑った刹那、指揮杖から放たれた閃光が、変身スーツのマスクを破壊した。 『深い意味はないわ。あなたの変身スーツ姿を見たくなっただけ』  私に変身を促したときの、朱音の言葉。  その言葉に反し、変身させることには意味があった。  変身させたうえで力の差を見せつけ、どうあがいても逆らえないのだと言うことを、私に思い知らせる。 『ずいぶん強くなったわね。以前の早希なら、とっくに堕ちていたのに』  朱音が感じたように、それは県立戦隊の務めのなかで強くなった私の心を折るための策だったのだ。  その策が功を奏し、私は心を折られた。 (朱音には、かなわない……)  心を折られ、そう思い知らされて、私は身体の力を抜いた。  そんな私を完全に屈服させるため、朱音はさらなる責め苦を用意していた。 「例の拘束具を校長室に!」  私を引きずり起こし、そう叫んだ朱音の声に応え、制服姿の女子生徒が4人がかりで鋼鉄の塊を運んできた。  いずれも運動部員だろうか。女子としては大柄でしっかりした体格の4人が、机の上にそれを置いた。  ゴト。と重い音。  ギシリ。と木製の机が軋む。 「早希の……県立戦隊ピンク専用の拘束ベストよ」  言われて見ると、それはまさにベストのような形だった。  おそらく乳房の位置だろう。異様なのは、胸の部分が丸くくり抜かれていること。 「総重量は約100キロ。これを着せられたら、民生用スーツのあなたは、立っているのがやっとになるでしょうね」  その拘束用鋼鉄ベストを、朱音が軽々と持ち上げる。  そして片手で持ったまま、もう一方の手で背中側の蝶番を支点に前側を開く。 「腕を通しなさい」  そう命じられて、心を折られた私は、ふつうにベストと同じように鋼鉄ベストを着つけられていく。  両腕をベストに通すと、肩にずっしりと重みがかかった。 「ウッ!?」  うめいて全身に力を込め、必死に踏ん張る。  それだけの重さを、朱音は片手で軽々と持っていたのだ。彼我の力の差をあらためて思い知らされながら。閉じられたベストをボルトナットで留められる。  頑丈そうな工具を使い、ギギギと鋼鉄が軋むほど、きつく締めこまれる。 「うふふ……これだけ固く締めておけば、わたくし以外には外せないでしょう」  そう言ってさらに私の心を折りながら、ベスト側面に設えられていた革ベルトで、朱音は私の腕を縛った。  そのベルトも、ベルトを留めるための金具も、人を拘束するためのものとは思えないほど頑丈そうなシロモノ。  そのことでも私の心を折りながら、両腕を縛り、手首に鋼鉄の枷を嵌められる。 (もう、逃げられない……)  人に施すものとは思えないほど厳重に、私は拘束されてしまった。  とはいえ、私のために用意されていた拘束具は、これで終わりではない。  鋼鉄の拘束ベストにつながれた鎖を朱音に握られた私の前に、鋼鉄の足枷を手に女子生徒がしゃがみこむ。  枷の部分の厚みは2センチほどか。船の錨に使われるような極太の鎖でつながれた足枷をひとりで着けることはできず、ふたりがかりで足も拘束された。  そうして私の拘束を完成させ、朱音が声高らかに宣言した。 「動画配信の準備を! 県立戦隊ピンクの敗北を全世界に知らしめるため、桃井早希を堕としてわたくしの奴隷とするため、公開調教を執り行います!」 「ふふふ……ふふふ……」  妖しく嗤う朱音に引き立てられながら、きおつけの姿勢で直立不動の女子生徒のあいだを引き回される。  ジャラジャラ……。  拘束ベストと足枷が重すぎて、すり足で歩くたび、鎖が地面をこする。 「くぅ、うぅ……」  全校生徒の前に屈辱の姿を晒す悔しさ恥ずかしさ。  4人がかりでないと運べない鋼鉄の拘束ベストを着せられ、ひとりでは着けることすらできない足枷を嵌められて、校内を引き回される苦痛。  配信された動画で知り、駆けつけたのか。校門の前には、県立戦隊のメンバーがいた。  私を助けるために駆けつけたレッド、ブルー、イエロー、グリーンの4人が、警官隊に阻まれて踏み込めずにいた。  なぜ、警官隊がAKUの味方をするのか。  それは、ここが学園の敷地だからである。  県立戦隊には潜入調査が認められている。潜入調査で得た証拠を元に、逮捕する権限も持っている。  しかし自身が攻撃されての自衛目的以外、組織だって実力行使するには令状が必要だ。  令状を請求するための証拠は私しか持っていないし、他の隊員が直接攻撃を受けているわけではない。  おまけに、今の私の身分は学園の生徒。生徒に対する学園関係者の懲罰が非人道的なものであっても、それなりの手続きを踏まなければ、公的機関が手を出すことはできない。  そして正式の手続きには、相応の時間がかかる。そのあいだ、私は――。  実のところ、その手続きが行われることはない。  県民生活安全課実行係。通称、県立戦隊の係長が裏で朱音とつながっているように、AKUの魔の手はさまざまな公的機関に伸びていたのだ。  とはいえ、私はそのことを知らない。  知らないまま、校門のすぐ前まで引き立てられていく。  そうしているうちに、騒ぎを聞きつけた報道各社が集まってきた。もちろんそのなかにもAKUの息がかかったものがいる。  世界征服を目論む悪の組織が瓦解して数年。全国各地に散った零細悪の組織に擬態して、AKUは社会に根を張ってきた。  その成果が実を結び、今まさにAKUは表舞台に踊り出そうとしている。  一部で話題となった県民戦隊のピンクの公開調教は、全世界にそのことを知らしめるための狼煙でもあるのだ。  そうと知らない私の、鋼鉄拘束ベストから飛び出した乳房に、指揮杖が押し当てられた 「うふふ……」  そして朱音が唇の端を吊り上げた刹那、指揮杖が閃光を放つ。  その閃光に、スーツが紙のように引き裂かれる。 「くぁあああッ!?」  衝撃的な快感に襲われ、膝が砕けそうになり必死で踏ん張ると、乳房を包んでいたスーツの生地は消え去っていた。  鋼鉄拘束ベストの開口からは、隠すものを失った私の乳房。その先端には、性奴隷の乳首ピアス。  そのさまを目の当たりにした戦隊メンバー4人が愕然とするなか、朱音がピアスに私のIDカードをぶら下げ、耳元で囁いた。 「この状態で責め苛まれても、早希は堕ちずに強くあれるかしらね?」 (了)

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たろかわ

100キロの鋼鉄拘束ベスト、すご。

masamibdsm

強化するスーツを着ていないと、立ち上がることすらできないでしょう。

Anonymous

乳首ピアスをめぐる描写、心理的駆け引きが興味深い作品ですね。変身ヒーローのマスクのままで、その乳房を露出した絵も拝見させていただきたかったところです。

masamibdsm

ありがとうございます。 今回は絵のラフ→小説→絵の仕上げという流れで作業したのでこの形になりましたが、次描くとしたらマスクが完全な状態のも描いてみます。