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序章.矯正収容所  20XX年、ますます凶暴・凶悪化する犯罪に対応するため、従来の刑務所と少年院を統合した矯正収容所が、実験的に設立された。  その収容対象は若年層。建前は犯罪を犯した若者を、いまだ悪に染まりきっていない年齢のうちに労働と教育により矯正、社会復帰を促すというもの。  しかし、その実態は――。 「被告人に、矯正収容所における矯正教育2年を申しわたす」  法服を身にまとった裁判長が、厳かに主文を告げた。 「ぅう……」  革手錠――腰に締める太いベルトに、手首を捕らえる革枷が取りつけられた拘束具――で後手に拘束され、革の首輪と鎖つきの足枷を嵌められ、革ベルトで椅子に縛りつけられた少女が、口中に押し込められた口枷の突起を噛みしめる。  少女の名は、木戸夏海《きど なつみ》。  幼い頃から実戦空手を学び、10代の若さで打撃技のみで総合格闘技の大会で優勝した経験のある女子校生である。  とはいえ、彼女の容姿に武骨な印象はない。  しなやかな筋肉を内包した、スラリと伸びた手足、引き締まった細い腰に、女性らしいラインを失っていないお尻と胸。  黒髪ショートの顔は、年齢相応の愛くるしい表情。  ただし今は、悔しさに歪んでいる。  裁判長の判決文朗読が終わったところで、裁判所の警備員が、夏海の首輪に長さ2メートルほどの金属棒をつないだ。 「抵抗しても無駄だぞ!」  夏海が暴れてもすぐ制圧できるよう、その棒の端をひとりがしっかり握ると、別の警備員が声をかけてベルトを解いた。  そのあいだも3人めの警備員が、隙なく電撃銃の銃口を夏海に向けている。  裁判所の警備員がこれほど夏海を厳重に拘束し、警戒するのは、彼女の強さとかけられた容疑ゆえである。  その容疑とは、暴行傷害と公務執行妨害。不良学生と学園内で乱闘を演じた末に、取り押さえようとした警備員にも抵抗。複数人を病院送りにした末に、駆けつけた警察官に電撃銃を撃ち込まれ、失神したところを逮捕された。  実のところ、その容疑は冤罪であった。  乱闘を演じたのは、不良学生に絡まれ、連れ去られようとしていた幼なじみの親友を助けるため。警備員に抵抗したのは、彼らが不良学生に味方し、夏海だけを取り押さえようとしたから。  そのことを、夏海も彼女の弁護士も主張した。助けようとした親友も証言してくれた。  しかし、聞き入れられなかった。  それは不良学生のリーダー格が、学園の理事長の娘で、一見真面目な生徒会長でもあるから。  それゆえ駆けつけた警備員は不良学生たちに味方し、学園側の通報を受けて駆けつけた警察官も、夏海だけを逮捕した。  地元大物議員の支援者でもある理事長の権勢を怖れ、夏海に有利な証言をする者は、親友以外には現われなかった。あまつさえ、不利な証言をする者が、次々と証言台に立った。  その結果、夏海は矯正収容所送りを申しわたされた。 「有罪判決は避けられそうもない。でも、きっと助けるから、今はおとなしく判決を受け入れて」  判決前、そう告げた女性弁護士の言葉を信じ、夏海は連行されていく。  法廷を出て、関係者以外立ち入り禁止の廊下へ。  両腕を後手に固定する革手錠の腰ベルトは、お腹側できつく締められている。その手枷部分は南京錠で施錠されているから、自力で外すことは絶対不可能。  足枷どうしをつなぐ鎖の長さは、30センチ足らず。足技を繰り出すことはもちろん、走ることもできない。それどころか、狭い歩幅でヨチヨチ歩きしかできない。  仮に足枷がなくても、屈強な警備員が握る首輪につながれた金属棒の長さは2メートル。足技が届く前に棒をつかんで引き倒され、制圧されてしまうだろう。  あるいは、電撃銃を撃ち込まれるのが先か。  いっさいの抵抗を封じられ、革の端が頬に食い込むほどきつく締め込まれた口枷に言葉さえ奪われたまま、夏海は引き立てられていく。  よほどの凶悪犯以外には施されない厳重な拘束と警備体制に、すれ違う人が目を剥く。立番の警備員は身構え、事務官などは恐れおののき通路の端に寄る。制服姿の女子校生が厳戒態勢で引かれていく光景に、好奇の視線を向ける者もいる。  それでも夏海が顔を上げ、胸を張って進むのは、間違ったことはしていないという自負があるから。   その自負を胸に、厳重拘束引き回しの屈辱と羞恥に耐えながら、裁判所の裏口へ。  そこで、見慣れない制服姿の女性が3人、夏海を待っていた。 「第1女子矯正収容所、第8看守班長の三原です」  そう名乗った女性が、手にしていた書類を裁判所の事務官に見せる。 「確認しました。それでは、囚人をひきわたします」  事務官の言葉で、自分はすでに容疑者ではなく囚人なのだと思い知らされたところで、男性警備員に勝るとも劣らない堂々たる体躯の女性が、首輪の棒を握った。  そして拘束具を外されることなく、戸外に連れ出されると、窓まで真っ黒なワゴン車が停められていた。  いかつい制服姿の女性――女看守のひとりがワゴン車のバックドアを開けると、そこには犬のケージを頑丈にしたような小さな檻。 「入れ」  そう命じられても、檻はとうてい人を閉じ込めるためのものとは思えないほど狭い。  そのため、檻を前にためらっていると、首輪の棒を握る女看守が、丸太のような腕に力を込めた。 「うッ、ぐ……!?」  首を絞められる苦しさにうめいたところで、力任せに上半身を檻の中に突っ込まれた。 「うグぅう……」  首輪の棒で上半身を押さえつけられたまま、苦しさで抵抗できずにいると、別の女看守に両足を抱えられて折り畳まれた。  そしてそのまま、脚も檻の中に放り込まれる。 「うッ!?」  正座したまま上半身を前に倒したような姿勢で小さな檻に押し込まれ、苦痛にうめく。  もはや必要ないということだろう。荷台に上がった女看守が、首輪につながれていた金属棒を外した。  同時に、後方に突き出したお尻に、硬いものが触れる。 「檻の扉が閉まらん、もう少し前へ行け」  とはいえ、檻の天井はきわめて低く、今の体勢から上半身を起こすこともできない。自力ではその場から、1センチたりとも動けない。 「うすのろめ、自分では動けないのか」  すると女看守が、夏海の尻を力任せに押した。  その際スカートがめくれる気配を感じたが、気にする余裕はなかった。  下着しか覆うものがなくなった尻を晒されても、羞恥と屈辱に身悶えることすら許されなかった。 「んぅう……」  力任せに押され、頭が突き当たりの鉄格子に触れたところで、尻の向こうで扉が閉じられる。  カチャリと金属音のあと、施錠よしと確認の声。  それからワゴン車のバックドアを閉じられて、夏海の身柄は第1女子矯正収容所に引きわたされた。  そこが矯正教育のための収容所とは名ばかりの、過酷きわまりない調教施設なのだと知らされないまま。  小さな檻への乱暴な押し込めなど、これから受ける残酷な仕打ちの序章にすぎないのだと気づけないまま。  2時間ほど走った頃だろうか。  人ひとりギリギリ入っていられる程度の小さな檻に、脚を折りたたんで拘束の身を押し込まれたまま揺られ続け、身体の節々が痛み始めた頃、ワゴン車が停まった。  しかし夏海が、すぐに厳重拘束と小さな檻の閉じ込めから開放されることはなかった。  バックドアが開かれ、大柄な看守がふたりがかりで夏海の小さな檻を荷台から引きずり出す。  するとそこは、壁も床も天井もコンクリート打ちっ放しの、ビルの地下室のような場所だった。  いや、車が地下に降りたような気配はなかった。まったく飾りけのない雰囲気が地下室のような印象を与えるだけで、ここは建物の1階部分だ。  漠然と考えていると、小さな檻ごと台車に載せられた。  そして、人気《ひとけ》のない通路を運ばれる。  コンクリートの床は、一見滑らか。しかし、微妙な凸凹はある。  台車の小さいタイヤは、その凸凹をすべて拾う。  拾って、夏海を閉じ込める小さな檻にそのまま伝える。  檻が揺れ、そのたび鉄格子に身体がぶつかる。 「ぐ、ぅう……」  不快な振動に夏海がうめくのは、身体が痛むせいだけではない。  厳重拘束と小さな檻への閉じ込め、その状態での護送による苦痛以上に切迫した事態が、彼女の身を襲っていた。  それは、尿意。  朝、留置場の独房から出され、裁判所まで連行。しばしの待機のあと法廷に引きずり出され、判決を受けて即矯正収容所まで護送。  そのあいだ、1度もトイレに行っていない。夏海の膀胱は、すでに満タン状態になっていた。  その排泄器官を、台車の振動が襲う。  ガタン、と大きく揺れるたび。 「うッ!」  口枷の突起を噛みしめて、襲いくる尿意に耐える。  身体の痛みも以前より強くなっているはずなのに、もう気に留めていられない。スカートがめくれて下着が丸見えになっていることなど、もはや些事にすぎない。  台車が小さな段差を乗り越えた。  歩いていれば、つまずきもしない程度の段差。しかし今の夏海には、拷問にも等しい責め苦。 「んグッ!」  烈しい振動に、漏れかけた。  必死に引き締めるが、もう限界は近い。  ガタン、と再び強く揺れた。 「うグ……ッ!?」  一瞬、ほんの少しだけ、漏れてしまった。 「んぅン……」  口枷の突起をギリギリと噛みしめて、必死にそこの筋肉を引き締めて耐える。  溢れた涎がきつく締められた口枷の革の縁からぶしゅうと噴き出すが、気にする余裕はない。  顎を濡らして垂れた涎が小さな檻の床に水溜りを作るが、本格的に小水を漏らしてしまうよりはましだ。  とはいえ、破滅の刻《とき》は、もう近い。  あと1回強く揺れたら、そこで決壊してしまうかもしれない。  そこまで追い詰められたところで、ようやく台車が止まった。 『入所前処置室』  そう書かれた札が取りつけられた、頑丈そうな鉄製の扉の前で。 1.屈辱の入所前処置  鉄の扉が開けられ、台車ごと中に運び入れられると、そこは通路と同じくコンクリート打ちっ放しの部屋だった。  ただし、床は緑色の防水防汚れの塗装が施されている。そのうえで微妙に勾配がつけられ、低いと思われる側に、蓋つきの排水溝が設えられていた。  とはいえ、部屋のようすなど気にしていられないほど切羽詰まった事情が、今の夏海にはあった。 「トイレに行かせて」  もし口が自由なら、そう叫んでいただろう。  しかし彼女の口は、厳重な口枷で塞がれていた。  夏海の切迫した状態を、女看守たちは知っているのか。 (たぶん……おそらく……)  知っている。  たしか三原といったか、台車に載せられた小さな檻の中でうずくまる夏海を見下ろし、意味深な笑みを浮かべる看守班長は特に。  そこで、モーターが唸る音。続いて、頭の上でガチャガチャと金属音。  女看守のひとりが天井に設えられていた電動ホイスト(小型のクレーン)と小さな檻を鎖でつないでいたのだが、檻の中でうずくまる夏海にはそれは見えない。  彼女がなにをされたか気づいたのは、再びモーター音が聞こえた直後、ホイストが巻き上げられ、檻が床から離れたときだった。  ガクンと揺れた直後、フワリと浮いた檻が、ワイヤーの捩れで回転し始めた。  回転しながら、高度を増していく。  そして、夏海の顔の高さが三原班長の胸の高さ程度に達したところでホイストの巻き上げが止まる。  そのときである。 「ククク……」  薄く嗤った三原班長が、手にした乗馬鞭を見せつけた。  いや、これはただの乗馬鞭ではない。握りの部分に、スイッチが設えられたこの鞭は――。 「電気鞭よ」  それを夏海の肩に押しつけ、口を開いた三原班長の指が、スイッチを押し込んだ。  刹那、強い衝撃。 「んグぅううッ!?」  目を剥いてくぐもった悲鳴をあげた直後、ついに破滅の刻が訪れた。  膀胱から溢れ、尿道口から放出された小水が、下着を濡らす。  その薄い布1枚でせき止められるわけもなく、一瞬で染み出した薄黄色の液体が小さな檻の床に水溜りを作る。 「んむう(見るな)ッ!」  とっさにあげた声は、言葉にならなかった。 「んむうう(見ないで)ッ!」  それは、懇願しても同じこと。  堰を切って溢れ出した液体を止める術《すべ》もなく。 「んぅう、んむうぅ(いやぁ、見ないでぇ)……」  ふるふると弱々しく首を振りながら、屈辱の放尿を続ける。  回転が止まった檻の床から、小水が溢れて部屋の床に落ちる。 「みっともないなあ!」 「粗暴犯の極悪人は、下《しも》の躾けもできていないのか!?」  屈辱の放尿に打ちひしがれる夏海を、女看守ふたりが容赦なく侮辱する。  もう、その言葉に言い返すこともできない。  いや、言い返そうと思うことすらできない。 「うっ、ぅうぅ……」  夏海にできたのは、初めての公然放尿にの屈辱と羞恥に、くるおしくうめくことのみ。  とはいえ、彼女の加えられる責め苦が、これで終わったわけではなかった。 「溜まっているのは、小水のほうだけかしら?」  両手に医療用の薄いゴム手袋を嵌めながら、三原班長が唇の端を吊り上げた。 「もしかして、大きいほうも溜め込んでいるんじゃない?」  そう言うと瞳を妖しく輝かせ、次なる責め具を見せつけた。 「エネマシリンジ……平たく言うと、浣腸器よ」 「うぇ(えっ)……?」  浣腸。その言葉に、一瞬耳を疑う。 「んぅう(そんな)……」  女看守のひとりが用意した金属製ボウルの液体を、巨大な注射器のようなエネマシリンジで吸い上げる動作に、おののいてつぶやく。  浣腸という処置がなにをもたらすのか、誰でも知っている。  それは、小水の排泄以上に、女の子として秘しておきたい行為。自分以外の人間には、絶対知られたくない生理現象。 「ククク……」  浣腸器を手にした三原班長が、口の端を歪めて嗤った。  彼女に目配せされた女看守が、ホイストで吊り上げた小さな檻を回転させる。  深春の尻が三原班長の正面に向いたところで、檻の回転が止められた。  小水でびしょびしょに濡れた下着が、乱暴にずり下げられる。 「んぅう(いやあ)ッ!」  思わずあげた悲鳴は無視され、小さな檻の中で後ろに突き出した尻の窄まりに、浣腸器の先端をあてがわれた。 「んぁう(やめて)ッ!」  厳重拘束の身を折り畳まれて小さな檻に閉じ込められ、無力な状態に貶められた夏海の懇願が聞き入れられるはずもなく、それが窄まりをこじ開ける。 「んう(ひい)ッ!?」  あらかじめ潤滑剤が塗られていたのか。それとも、浣腸専用に挿入しやすい形になっているのか。  あっけなく侵入を許した直後、お腹の中に液体が注入される感覚。 「んむぅむむ(いやあああ)ッ!」  前後不覚に叫んでも、三原班長の手は止まらない。  必死で括約筋を引き締めても、浣腸器の先端を食い締めるだけで、注入を拒むことはできない。 「このエネマシリンジの容量は250cc。注入量そのものは少ないけれど、初めての浣腸だし、お腹が苦しくなりやすい体勢だから、今は1本で許してあげるわ」  三原班長はそう言うが、夏海にとっては、250ccという量は充分多かった。 「今から抜くから、しっかり引き締めておきなさい」  言われなくてもそうするつもりだ。肛門から排泄物を漏らすさまを見られたい女の子なんて、いるわけがない。  実のところ、夏海がそう考えたことは、三原班長の思う壺だった。  注入直後に漏らしてしまえば、排出されるのは浣腸液のみ。排泄物本体は、お腹に残ったままになる。  とはいえ、夏海はそのことを知らない。もし知っていても、液体を漏らすだけで充分恥ずかしい。  そう思って必死に肛門を引き締めていると、浣腸液が効能を発揮し始めた。  腸のぜん動運動が始まる。  お腹がグルルと鳴り、猛烈な排泄欲求に襲われる。 「う、んんぅ……」  低くうめいてそれにも耐えていると、三原班長の声。 「ふふ……せいぜい頑張りなさい」  言われなくてもわかっている。  耐えることでより凄絶な排泄が待っているとも知らず、夏海は肛門を引き締める。  引き締めて、凄絶な排泄欲求に耐える。  1分、2分、口枷の突起をギリギリと噛み締めて排泄をこらえる。  とはいえ、後手で厳重に拘束され、正座の状態から胸が太ももにつくほど上半身を屈めた体勢では、肛門に力を入れにくい。  どんどん高まる腸内の圧力に、わずかに液体を漏らしてしまった。 「どうした、なにか漏れているぞ?」  あざとくそれを見つけた女看守が、いじわるく告げる。 「ぅう(くッ)……」  わずかに漏らしたことを自覚していた夏海が、あらためて気持ちと肛門を引き締める。  さらに1分。額に脂汗を浮かべ、口枷の縁から涎を溢れさせながら必死で耐える。  とはいえ、排泄を促すよう作られた薬品に、慈悲はなかった。  すでに約束された決壊の刻は、じき訪れた。  肛門から、わずかに液体が漏れた。  直後、それが呼び水となったかのように、下品な炸裂音が部屋じゅうに響きわたった。 「んぅううう(いやあああ)ッ!」  くぐもって叫ぶ夏海の声。  それでも、破滅の炸裂音はかき消されない。  やがてその音が聞こえなくなっても、夏海の排泄は終わらない。  いや、排泄という点では、これからが本番だった。  炸裂音とともに排泄されたのは、おもに注入された浣腸液だったのだ。 「んうんうんぅう(いやいやいやぁ)……」  見られながらの排泄を拒んでも、腸のぜん動運動は止まらない。  そのせいで、柔らかくなった排泄物が、肛門から次々と押し出されてくる。 「んぅう、んぅんむうぅ(いやぁ、もうやめてぇ)……」  くぐもったうめき声で懇願するが、今はもう誰もなにもしていない。  大量の排泄物は、夏海のお腹から押し出されているものなのだ。  立ち込めるふくいくたる匂いも、彼女がお腹から押し出したものからたち昇っているのだ。  放尿で打ちひしがれた直後の、浣腸による公然強制排泄。  肉体のみならず、それは夏海の精神に多大なる苦痛をもたらしていた。 「ぁううぅうぅ……」  低くうめきながら、夏海は啼く。  最強レベルの格闘女子としての誇りも忘れ、弱々しく哭く。 「いっぱい排泄《で》たわね?」  そんな夏海の顔を鉄格子ごしに覗き込み、三原班長が声をかけた。 「わかった? これが、ここでのおまえの扱い」  感情がこもらない声で、事実を事実として教え諭すような口調で。 「大小かかわらず、排泄は私が決めたときに行なう。いえ、排泄のみならず、食餌も、水分補給も、呼吸ですら、私の許可なく行ってはならない」 (それは……)  おかしい。  打ちひしがれつつも、夏海は疑問を抱いた。 (だって……)  この国は、法治国家だ。囚人とはいえ、そのような扱いを法が許すわけがない。 (いえ、そもそも……)  自分は無実なのだ。  ほんとうは、矯正収容所送りにされるいわれなどないのだ。  たしかに不良学生と乱闘を演じたが、それは拐われそうになった親友を助けるため。警備員とも格闘したが、それは不良どもに味方し、自分だけを取り押さえようとしたから。 (だから、私は……悪いことはしていない!)  わずかに蘇った気概を胸に、三原班長をじっと見る。  応えて、看守班長も夏海を見返す。 「ふっ……」  数秒の睨み合いのあと、三原班長が薄く嗤った。 「おもしろいわ。入所前処置の責め苦のあと、そんな目ができる囚人は初めてよ。矯正教育……いえ、調教のしがいがありそうね」  そして電気鞭を夏海の肩に押し当て、スイッチを押し込み。 「んムぅんうううッ!」  衝撃的な電撃で悲鳴をあげさせてから、控えていたふたりの女看守に命じた。 「身体を洗ってやりなさい、できるだけ手荒にね」 「ンぅんむむッ!」  ふたりがかりで、ホースの水を浴びせられる。  ホイストで吊られた小さな檻を、クルクルと回転させられながら。  尻、檻の床、排泄物で汚れているところはもちろん、身体の側面や頭、ときには上方から背中にも。  剥き出しの尻に水をかけられるとき、数センチ下方の、女の子の場所にも水流が当たる。 「ンうッ!?」  それで身体がビクンと跳ねるが、厳重拘束の身を折りたたまれて小さな檻に閉じ込められていては、その場から動けない。  側面を洗われるときは、制服と下着ごしに乳房にも水がかけられる。  もう、全身びしょ濡れだ。白い夏生地の制服からは、肌と下着が透けている。  頭に浴びせられた水は、顔にも当たる。角度を変えて、顔に直接かけられることも。  顔に水をかけられているあいだ、息をすることはできない。呼吸を止め、じっと耐えるしかない。  その時間、短いときは数秒。長くても、せいぜい数十秒。心肺機能がきわめて高い夏海にとっては、楽に耐えられる時間だ。  ただし、1度や2度であれば。  だが、そうではなかった。夏海は繰り返し顔に水を浴びせられた。  あるときは数秒、あるときは数十秒。単独なら余裕で耐えられる時間であっても、繰り返されるうち苦しくなる。  そのうえ、夏海は口枷で口を塞がれ、口呼吸ができない。 「んンんん……」  顔に水をかけられているあいだ、息を止めて耐え。 「んうッ、ん、ん……」  水流が離れてから、鼻孔を広げて呼吸する。  しかし、鼻呼吸だけでは、すぐ回復しない。  息苦しさが回復しないまま、また顔に水をかけられ、呼吸を止められてしまう。  苦しい、苦しい。  あまりの苦しさに顔を背けても、ホースの水は追いかけてくる。  ようやく水流が顔から離れ。 「んふッ、ぅ、ん……」  必死で鼻呼吸していると、逆方向からもうひとりの看守が顔に水をかけた。 「んぶッ!?」  不意打ちの水流に、一瞬鼻から水を吸い込んでしまう。 「ンぉ、んぅ、ご……!?」  それで咽せてしまっても、口は塞がれている。  体内に入ってしまった水を鼻から吐き出し、一緒に鼻水も噴き出してしまう。  そして、その醜態を悔いたり恥じたりする暇《いとま》すら、夏海には与えられなかった。 「んご、ぉ、ぉ……」  咽せている途中でも、顔に水をかけられる。  その水流で鼻水は洗い流されるが、苦しさは増すばかり。  ふたりがかりの凄絶な水責めが、終わる気配はない。  苦しい、苦しい。息が苦しい。  ときおりホースの噴き出し口を絞り、圧を強めて身体に当てられる水流が痛い。  それが女の子の場所に当たると、小さな檻の中で身体を跳ねさせ、ガシャンと鉄格子にぶつけてしまう。 「ンぅんんんッ!」  目を剥いて叫んだ顔にも、水をかけられてしまう。  それで咽せかえってしまい、さらに苦しさが増す。 「んぶ、ン、んふ……」  必死で呼吸しながら、ふと三原班長の言葉を思い出す。 『身体を洗ってやりなさい』  三原班長はそう言ったが、これはただの洗浄などではない。 『できるだけ手荒にね』  ただの手荒さでもない。 『矯正教育……いえ、調教のしがいがありそうね』  違う、矯正教育ではないのはもちろんだが、調教などでもない。これは、ただ痛めつけているだけの水責め拷問だ。  耐えがたい苦痛のなか、そう考えた夏海はまだ知らなかった。  なぜ、三原班長が『調教』という言葉を使ったのか。  ほんとうの調教とは、飴と鞭を駆使して行なうものだということを。  今は『鞭』の恐ろしさを身体に教え込まれているのだということを。  なにもかも知らないまま、息も絶え絶えの状態になったところで、ようやく凄絶な水責めが終わる。 「下ろして檻から出してやりなさい」  そして三原班長がそう命じ、床に下ろされた小さな檻から引きずり出されたところで、夏海は初めての『飴』を与えられることになった。  檻から引きずり出されても、夏海は立ち上がることができなかった。  最強クラスの女子格闘家であっても、素顔はまだ女子校生。初めて人前で放尿させられ、監視の元で浣腸され、排泄させられ、精神はもうズタボロだ。  加えて男子と比べても卓越しているはずの体力も、長時間にわたる厳重拘束と小さな檻の閉じ込め、さらには凄絶な水責めでゴリゴリに削られてしまった。  全身びしょ濡れで革手錠に鎖つき足枷と首輪をつけたまま、尻を剥き出して床にへたり込んでいると、三原班長が歩み寄ってきた。  そして夏海の背後にしゃがみ込むと、自らの制服が濡れるのも構わず、後ろから拘束の身を抱きしめた。 「んぅんむう(なにをする)!?」 「そんなに怖がらないで」  その声には、先ほどまでの厳しさはなかった。 「今、口枷を外してあげるわ」  それどころか、どことなく柔らかさすら感じた。 「じっとしていてね」  そう言うと、片手で夏海の肩を抱いたまま、もう一方の手で後頭部で留められた口枷のベルトを外す。 「んふぅ……」  久しぶりに口周りと頬への締めつけが緩み、鼻から安堵の吐息を漏らす。 「あぅう……」  口に押し込められていた突起が、ゆっくりと抜き取られる。 「ぁうッ!?」  口中に溜まっていた水混じりの涎が、ゴポリと溢れた。 「ぅあ……うッ!?」  抜き取られた突起から唇へツーッと糸を引いた涎を吸い上げようとしてうまくいかず、顎と胸をさらに濡らしてしまう。 「長時間口を拘束されていたんだもの、しばらく口がうまく動かないのは仕方ないわ」  そう言うと、三原班長は制服のポケットからハンカチを取り出し、口の周りと顎を拭いてくれた。  そう、『拭かれた』ではなく『拭いてくれた』。  夏海はなぜか、そのときそう思ってしまった。  その理由はわからない。いやそれ以前に、夏海は思ってしまったことに気づいていない。  ともあれ、夏海の口の痺れが回復するのを待って、三原班長が意外な言葉を口にした。 「ところで、馬の毛色はなにが好き?」 「えっ……?」 「茶色い栗毛、それより濃い鹿毛、ほぼ黒の青毛、白に近い芦毛……」  なぜかそこで、子どもの頃に読んだ絵本を思い出した。 「白……」  反射的に、絵本に登場していた馬の毛色を答えていた。 「そう……」  その言葉に、三原班長がうなずく。 「あなたたち、芦毛の囚人装備を用意してきなさい」  それからそう命じると、ふたりの看守は意味ありげな表情でうなずき、部屋を出ていった。 「つらかったでしょう?」  ふたりの看守が出ていったあと、三原班長の口調は、さらに柔らかくなった。 「もう、わかっているかもしれないけれど……」  それは、ここがただの矯正教育のための収容所などではないということ。  ますます凶暴・凶悪化する犯罪に対応するため、いまだ悪に染まりきっていない年齢の若年犯罪者を矯正し、社会復帰を促す。  その目的に、偽りはない。  ただし、その内部で行なわれることは、ただの矯正教育や労働ではない。 「矯正教育の実態は、奴隷調教。労働とは、奴隷の強制労働のこと」 「そ、そんな……」 「それも、ただの奴隷調教じゃない。強制労働も、人の奴隷に課されるものじゃない」 「それは、どういう……?」 「収容者が受けるのは、家畜奴隷調教……特にここ第1女子矯正収容所で行なわれるのは、女の子を牝馬に堕とす調教よ。そして馬奴隷《ポニーガール》に課す強制労働も、もちろん馬としての労働……この施設の実態は、矯正収容所ではなく、いわば矯正牧場なの」  漠然と考えていたことが当たっていたと告げられ、実態は考えた以上に残酷な施設なのだと教えられ、愕然とする。 「そんな……許せない」  愕然としたあと、怒りがこみ上げてくる。  とはいえその怒りは、三原班長に向けられたものではなかった。  それは三原班長が、この制度と施設に疑問を抱いていると感じたから。 (だからこそ……)  ふたりの看守がいなくなったあと、彼女は態度を和らげた。  そしてふたりがいたら話せないことを、矯正収容所の真実を、自分に語った。 (味方とは言えないまでも、三原班長は完全な敵ではない……)  そう思い込み、心を開いた夏海の耳元で、三原班長がささやく。 「でも、あなたの収容期間は2年。そのあいだ自分を押し殺して耐えきれば、晴れて釈放される。でも反抗的な態度を続けていると、刑期が延長されるかもしれない。逆にあなたを担当する私が模範的な収容者だと判断すれば、収容期間が短縮されることもある。だから……」  それ以上は、言われなくてもわかった。  三原班長に従い、矯正教育という名の馬奴隷調教を甘んじて受けていれば、長くて2年、うまくすればもっと早く解放される。  夏海はそう理解した。いや、理解させられた。  そう、彼女は三原班長に、調略されていた。  矯正収容所送りの判決を受けた若い女性は、ふたつの種類に分けられる。  ひとつは、恐れおののき、震えあがっている者。もうひとつは、反抗心を露わにする者。  夏海は、後者だった。  それゆえ、その反抗心を奪うために入所前処置と称し、若い女性にとってもっとも屈辱的で恥ずかしい処置――失禁による放尿と、浣腸による排泄を強要した。  たいていは、これで心が折れる。女としてもっとも秘しておきたい行為を強制された娘は、反抗心を失い従順になる。  しかし、夏海は違った。  放尿と浣腸排泄のあと、過酷な水責めまで課せられても、夏海の目は力を失っていなかった。  そこで三原班長は、夏海を籠絡する道を選んだ。  精神力がきわめて強い夏海の怒りの矛先を、自分ではなく矯正収容所そのものに向けさせる。  そのうえで、自分は施設の在りように疑問を抱いていると思わせることで、親近感に近い感情を持たせる。  あえて凄絶な責めという『鞭』を与えたあとだけに、それだけで充分『飴』になる。  最強クラスの女子格闘家であっても、強い精神力を持ってはいても、夏海は未熟な女子校生なのだ。  その策が功を奏し、夏海は背中から自分を抱きしめる三原班長に短く、小さな声で答えた。 「わかりました、あなたに従います」  そのとき、三原班長が唇の端を吊り上げ、妖しく嗤ったことに気づかずに。

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