【16話】破滅願望【エロライトノベル】 (Pixiv Fanbox)
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クライマックス回です。次回更新で第一部完となります。
プロローグはこちら https://www.pixiv.net/fanbox/creator/355065/post/418529
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破滅願望 原作:M月 イラスト:朝凪 制作:fatalpulse
16話 「ごほうび」
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――小気味よく弾けたような水音と共に、どこからともなく眼の前の床へと何かが飛散した。
メイド服を着込み冷たい床に正座した私は、無色透明なその液体を私は土下座するように頭を垂れて舐めとった。頭上からは、断続的に悩ましげな声が届く。
「あうッ、あふぅううううん……ッッ!! はぁッ、あふっ、ふぅ、くふぅうん、んぅぅううううんッ……!!」
床の液体をすべて舐めとった私が頭を上げると、目の前の大きなベッドの上で、バルガスと裸の三人の女性が絡み合っていた。
三人の女性は頭にヘッドドレスと制服のニーソックスは着けたままのため、裸とはいえ三人ともメイドだとわかる。
――より正確に言えば、一人のメイドにバルガスと他二人のメイドが群がっている。
バルガスに犯されている女性が、その他の3人全員から性感を責め立てられているのだ。
責め役の3人は、それぞれ毛色が異なる嗜虐的な笑みを浮かべて、愉しそうに、そして容赦なく女性を嬲っていた。
全員から集中的に性感攻撃をくらっている女性にとってはたまらないだろう。
屈曲位の姿勢でバルガスに貫かれながら、なんとも悩ましげに喘いでいる。声量こそあまり大きくはないが、時折交じる裏返った声色が彼女の感じざまを物語っていた。
たった今切ない喘ぎ声をあげている彼女はセラの部下だ。
それも、大臣など重要人物の籠絡に一役買ったメイドのうちの一人らしい。なんでもセラに仕込まれて男の扱いというものにとても熟達し、セラの命で大臣だけでなく次々と重要人物を骨抜きにした……とか、なんとか。
たしか、名前はステファといったはずだ。
それが、サディズムの塊のような男――バルガスの耳に入り、面白半分で呼び出されたというわけだ。
部屋に入り、セラをみつけてニッコリと微笑んだときの彼女は、全体的にゆったりとしつつも優雅な所作で、おしとやかな癒し系といった印象だった。同性の貴族の私から見ても、魅力的であることが伝わってくる。
男の人はこういう女性が好きなんだろうな、と思わされるほどに、優しい笑顔だった。
だが、直後に「よく来た。貴様の功績は聞き及んでいる。褒美に抱いてやろう」などと言われた彼女は――第一印象とは裏腹に、毅然とした様子で言い返した。
――結構です。冗談じゃありません。
わずかな微笑みを携えつつも、目は笑っていなかった。優しげな見た目とは裏腹の、強く確かな芯を感じた。
「……あはぅうぅううううんッッ……!!」
そんなメイドが、さきほどの振る舞いを忘れてしまったかのように、バルガスに組み敷かれて切なげに喘いでいた。
「ははは……随分と情けない声を出すようになったではないか。そら、これが気持ちいいんだろう?」
「くはぁぁああッ……!」
シーツを掴みながらのけ反って、ひときわ甲高い喘ぎ声をあげるメイド。
おそらく彼女は今、強い屈辱と凄まじい快感がないまぜになった背徳感に苛まれているのだろう。出会ったばかりの男に抱かれ、否応なく感じさせられているようであったが、べつだん彼女の意思が弱いというわけではない。
「そら、最初の威勢はどうした? ふははは」
「だ、黙りなさいッ! こんなっ、薬でッ……くぅぅぅうんッ!! この、卑怯者ぉっっ!!」
裏返った声で、強くバルガスを非難するメイド。そう、彼女は行為に及ぶ際に薬を盛られていた。今やバルガスの常套手段である。そのせいで、はじめは強い嫌悪と敵意をむき出しにしていた彼女は、次第に表情を緩ませていった。
(……まあ、そうなるわよね)
露出しきった滑らかな肌には、しっとりと脂汗が浮かんでいる。強制的に薬物を摂取させた状態で、肉棒を激しく抽送されているのだ。彼女はきっと、これまで経験のない強烈な性感を覚えさせられていることだろう。
「は、ふぅぅぅ……くふぅうぅぅッ……!」
彼女はやや焦点のあわない瞳で天井を見上げ、強く歯を食いしばっている。だが、絶え間なく全身を襲う快楽のせいで力が入りきらないのか、まるで怯えているかのように歯をガチガチと鳴らしてしまっていた。
とはいえ完全に快楽に飲み込まれないのは賞賛に値すると言っていい。
彼女が犯されはじめてから、優に二時間は経っているのだ。普通であれば、我を忘れて乱れていてもおかしくない。
私にとっては好ましいと言えるプライドの高さだった。
――だが、それでも。
所詮は力の伴わぬ凡人であり、そして女なのだ。彼女がどれだけプライド高かろうと――限界は、すぐに訪れる。
「ひっ、くひぃぃ……ッ!! はぅぅぅううッ!!」
……歯を食いしばって快感を堪らえようとしている彼女の様子を、くすくすと笑う二人の女性がいた。そのどちらも犯されている女性と同じように全裸に剥かれているのだが、その表情はまるで違う。
二人の女性は完全にバルガスの行為を受け入れており、いつまでも抵抗しようとするメイドをあざけ笑うかのような笑みを浮かべていた。
そのうち一人は、私もよく見慣れている、バルガスお気に入りの少女メイドである。私に盛るための薬の実験台になったあの少女だ。いまだにこうして呼ばれることがあるのは、飽き性のバルガスにしてはかなり珍しい。私とセラを除けば、一か月以上におよんで呼び出されているのは彼女だけだ。
だからこそとでも言うべきか、彼女はこういった状況に慣れきっている様子で、愉しげに、犯されているおしとやかなメイドを責めていた。
そして、そんな環境に慣れきった彼女と遜色ないほどに――もう一人のコレットというメイドは、ニマニマと楽しそうに口を歪めながら愉しそうにしている。彼女は一週間ほど前に初めて呼び出された新顔であり、そしてたった今犯されているおしとやかなメイドの相方、だそうだ。
だというのに、彼女は共にセラに忠誠を誓った仲間であるはずの同僚を追い詰めるかのように、
「――もう、頑固だなぁ。諦めて受け入れちゃえばいいのに。どうせ最後にはそうなるんだからさぁ、それだったら今素直になっちゃった方がお得だと思わない?」
なんのためらいもなく、どころか悪戯っ子のように微笑みながら、はやく堕ちてしまえと諭していた。
「くふぅ……っ、うくぅぅうううッ、だ、誰が……ッ!! くぅうううんッッ!!」
「えー、まだそんなこと言うの? もう、いつまでも意地をはる子には~……こうだ!」
女性は器用に手を滑り込ませて、赤く充血しながら露頭しているクリトリスをつまみ上げた。
「きゃうぅぅうううんッ!!」
ただでさえ媚薬で全身が敏感になっている状態で、バルガスに犯されていた彼女だ。おそらくはあの様子だと、すでに弱いところを探られ、執拗に亀頭の先で嬲られている、といったところだろう。
女体が歓喜の声をあげているであろうあの状況で、よくもまあ気丈な素振りを見せられるものだと感心こそするものの、剥き出しになっていた神経の塊を無遠慮に握られてはさすがの彼女も嬌声を堪えきれなかったようだ。
ビクンッと身体を反らせた彼女は、全く我慢なんてできていなかったことが丸わかりの声量で悦んでいた。
「あっは、いい声~♡」
愉しげに笑う彼女は、犯される女性のおっとりしながらも凛とした雰囲気を持つ女性とは正反対の、小悪魔的微笑を浮かべていた。 やや幼げな雰囲気を纏いながらも、全身からなんともいえない色香を放っている。第一印象としては――男を惑わす淫魔、というところだろうか。
そんな彼女も、やはり一週間前にはじめて呼び出された際には強く拒絶していた。
今犯されているおしとやかなメイドよりもよっぽど勝気な性格――悪く言えば生意気そう――に見えたのだが、蓋を開けてみれば、彼女はものの1時間足らずでバルガスのセックスにメロメロにされ、シーツをかきむしりながら悶え狂っていた。
それから一週間毎日つづけられた調教によって、いまでは彼女は従順な性奴隷と化したのだ。
それを思えば、喘ぎ声こそ我慢できなくなってしまっているものの、数時間もこうして堪らえようとしている彼女の芯の強さには驚かされる。けれど――いかに抵抗しようと、結局のところ辿る運命は同じように思えた。
「あッ、はッ、はあぅんッ、はンッ、あはぁぁああんッ……!!♡」
パチュ、パチュ、パチュッと腰が打ち付けられる度に、身をよじらせながら感じ入ってしまっている。
これでバルガスが本気で責めはじめたら、あっという間に彼女は深い絶頂地獄に落とされるだろう。そのとき、彼女を襲う多幸感と深すぎる絶頂感に、はたして耐えることができるか――それは、賭けにもならないくらいにわかりきった問題だった。
「ねえ、バルガスさまぁ。次は私だからね?」
「あ、ずるいです! お二人ともずっと抱いてもらってるんですから、たまには私にご奉仕させてください!」
甘えたような笑みを浮かべてバルガスに抱きつき、媚びを売る二人のメイド。
「クク……順番に抱いてやるから、大人しくしていろ。とりあえずは、この女をイかせてからだな」
そんなバルガスの発言を聞いて、側に控えていた二人のメイドの目の色が変わった。
「ふーん……そういうことなら、バルガス様だけだと大変だと思いますし~♡、私も手伝いますね?」
「あ、私も私も♪」
「あっ、やめ♡……あはぅぅッ!?」
キャッキャと愉しげに、二人のメイドが抱かれているメイドの両側からピタリと密着して、悪戯をしはじめる。
全裸の女性3人が絡み合うその様は、いやらしいの一言に尽きた。雰囲気こそ朗らかなものの、悪戯をされている真ん中の女性は――色気たっぷりに、本気で感じてしまっていた。
足を上げて折りたたまれるような体制で犯されているメイドを、横から器用に愛撫していく二人のメイド。言うまでもなく、さっさとイカせて自分の番を早く回す目論見だろう。
「あ、だめ、はぁぁあああんッ……♡!」
メイドは拒否しようとする素振りを見せながらも、さすがに限界が訪れたのか、快楽に呑まれ、はじめて口許を緩ませた。蕩けた瞳と、半開きになった口許――おそらくは無自覚だろう。どれだけ自分がだらしない顔で微笑んでしまっているのかわかっていない。あの様子では、イってしまうのも時間の問題だった。
「ああぁぁ、イクぅぅぅ♡……イク――――ッ♡!!」
あれから何時間経っただろうか。彼女の口から数回目何十回目の絶頂が告げられていた。
ビクビクと身体を震わしながら、酔いしれた表情で笑みを浮かべるメイド。彼女ももう、堕ちただろう。
時間が経てば冷静にこそなっても、一度覚えた身体の疼きはもう抑えられない。私が、そしてここにいる全員の女もそうだったのだから間違いない。
「ふん……随分と濡らしたな。この淫乱が」
ペニスを引き抜いたバルガスが、今度は指を三本差し入れた。間髪入れずに、メイドの膣内が淫らな水音をたててかき混ぜられている。その無遠慮な愛撫に、メイドはたまらず叫び出した。
「ああああ――――――ッ!♡」
絶頂の直後に刺激されるのは、また格別の悦びだろう。苦痛すら覚えるほどの鋭い快感……少し前までは、私も当たり前のように堪能していた女の悦び。その強すぎる刺激に耐えきれなかったメイドは、体のどこに水分が残っていたのか、ビュッビューッと潮を吹き出していた。その勢いはかなりのもので、ベッドから離れて正座していた私たち――私と、セラの目の前にまで到達していた。
(あぁ……身体が、熱いぃ……ッ)
全身が火照って仕方がない。無意識に内股をモゾモゾとこすり合わせ、それによって得られた微弱すぎる快楽を貪欲にむさぼり、堪能する。
ここ一週間ほど、常に極度の興奮と欲求不満に襲われっぱなしの私ではあったが――しかし、この日は何かが違っていた。
欲求不満なことは間違いない。仮にこの場で抱いてもらえるのであれば、そのことに対する悦びだけでまた失禁してしまいそうな気さえする。
ただ――
「れろ、じゅる……ずずずっ」
私も、セラも、飛んできた淫らな飛沫を犬のような格好で丁寧に舐めとっていた。もちろん、そう命令されたからだ。
頭上からは時折、私たちを明らかに馬鹿にした少女たちの嘲笑が聞こえてくる。
「――くす、くす♡」
「ふふふ……♡」
私がどうしようもないマゾヒストであることは誤魔化しようのない事実だけれど、しかし、同性に馬鹿にされて悦ぶ趣味は持ち合わせていなかった。私はあくまで男性に虐げられたいだけであり、同じ女性に見下されたところでなにも興奮しない。
(ただの平民で、しかもロクな能力もない無能の下女のくせに。私を馬鹿にするなんて――!)
数日前の私であれば、そんな風に憤っていたはずだ。たまたま相手をされているからといって、優越感を隠しきれていないその声色が気に入らない。
――そんな憤りを覚える、はずだった。
「れろ、れろぉ……ッ」
だが、なぜかさほど気に入らなかった。
不快感は確かにある。けれど、それ以上に、私の子宮で燻りつづけている官能の炎が、妙に心地よくて、その他の雑音はどうでもよいとすら感じはじめていた。
あの女たちだって、いい気になれるのは今の内だけだ。
バルガスがもっとも執着しているのは、この私なのだから。
他の女なんて例外なく全員塵芥に等しい。バルガスにしてみれば、ただ抱けるから抱いているだけ、なのである。
付き合いの短い彼女たちには、それがわからない。
私がこうして堕ちる以前の関係――そう、バルガスが父と私を憎み、そして私がバルガスを忌んでいたのは、すべてこのときのためだ。積み重ねが違う。これまでの関係があったからこそ、私はバルガスに犯され隷従することに極上の快楽を覚えてしまうし、バルガスは私を犯し隷属させることにこれ以上ない快感を覚えているに違いないのだ。
それを想うことで、幾分かは悔しさを紛らわすことができた。
そう、忘れてはいけない――私は数ヶ月前までこの男をゴミのように見下し、嫌っていたことを。
「はー……♡ はー……♡ れろぉ……♡」
そんな私が、この男に犯され、恥も外聞も投げ捨ててヨガり狂わされている姿を思い出す。
それだけで身体は反応し、肉棒を欲するかのように無意識下で尻を振って媚びてしまう。横目でセラの方をちらりと見てみれば、あちらも私と大差のない有様だった。
思考は淫らな妄想で染まっているというのに、相も変わらずお預けをされているというのに、極度の興奮状態にあることは間違いないのに、あのおかしくなりそうな狂おしさだけが消えていた。
――いつまでも床を舐めながら大きな尻をゆらゆらと振り続ける惨めな私とセラの姿を見てか、頭上から注がれる嘲笑がより強いものへと変化した。
「ねえ、バルガス様……さすがにお二人が可哀想です。少しだけでも、お情けを施してあげては如何ですか?」
「フン……あの雌豚どもには必要ない。いいお灸だろうよ」
「あはっ。酷いですねぇ。お二人がカワイソ~♡」
「そういえばぁ、今更ですけどあのお二人はなんであんなことをしているんですか? なにか失態でも?」
「なに、いつまでたっても雌奴隷としての自覚がないようだったからな。主従ともに仕置き中というわけだ」
「ふぅ~ん……やっぱり、お貴族様ですから、私たちとは違ってプライドがお高いんですねぇ? でもぉ、このザマでどこにプライドなんてあるのかなぁって気はしますけど。あははっ♪」
本来であれば対等に口を利くことなど許されないはずのメイドたちであったが、私たちの扱いを見て調子に乗っているのだろう。
セラに忠誠を誓ったはずのコレットは、自分の女主人を見下して辱めるサドの性根と、そのセラを豚扱いするバルガスへおもねるマゾの恍惚で脳が沸騰しそうなほど興奮が見て取れる。
何よりこの場の主人たるバルガスにとって、全ての女は自らにかしずく雌豚メイドとして平等に下賎で愚かで低能なペットである以上、その態度を咎める事もない。バルガスの大きな胸板や肩にしなだれて媚びながら、主人と一緒にこちらを見下して愉しそうに嗤っている。
「ククク、貴族……か。そういえばこの乳のデカイ方の雌豚も、元はそのような分不相応な肩書きを持っていたな。久しく忘れていたが」
あからさまに私を馬鹿にしたその態度に、二人のメイドからも笑いが起きる。
「おい、豚。貴様の名前を言ってみろ」
――ドクン、と心臓が鳴った。
「リ、リア……リア・アズライトですッ……」
「貴様の表向きの立場を言え」
「あぁぁ……わたし、き、貴族の、アズライト家の長女で……王城魔術師の一員、ですッ……!!」
「貴様は今、何をしている」
「あ、ああ……じ、侍女の、粗相を、始末してますッ……」
「なにを格好付けている。豚にそんな言い方が許されるとでも思っているのか?」
「も、申し訳ありません……。 わ、私は今、メイドの皆様方の…お、おしっこを、舐め取って、主人であるバルガス様のお部屋の床を綺麗にしています……ッ!」
条件反射的に、綺麗に潮が舐め取られ自分のよだれしか残っていない床に額をこすりつけバルガスとメイドに土下座をしながら謝罪する。
「ぷっ……!」
それを聞いていたメイドのどちらかが、失笑をこぼした。あまりの羞恥に、カァッと顔に火がついたように熱くなる。しかし同時に沸き上がったのは、怒りではなく興奮だった。
「ほらほら、右のほう私のおしっこが残ってますよ?♡ ちゃんと残さず舐め取りなさい貴族さま♪」
(私は、なにをしているの……ッ!!)
土下座のような格好をしながら、床に噴いてこぼれた侍女の愛液と尿を舌で舐め取り、
その姿を、かつて大嫌いだったはずの無能な男と、歯牙にもかけなかった馬鹿な女どもに見下され、嗤われている。
この状況自体は私の望んだものでは決してない。私の望みは、とにかくバルガスに犯されたい。ただひたすらに、それだけだったはず。
バルガスに命令されて気持ちよくなるのはメス豚として、女として当然だし仕方がない。でも、自分と同じマゾのメス豚メイドにすら笑われ、命令されるたびに子宮が疼いてしまうこの状況。おかしくなってしまいそうだった。
矜持も、自尊心も、すべて投げ捨てて――這いつくばって哀願する、人にも劣る、豚以下の、雌畜生。自分の舌で鏡のように磨かれた床に映る自分の顔は、嬉しそうに頬を緩ませ、うっとりと恍惚と淫蕩に満ちている。
床の中で恥ずかしくも可愛らしい雌豚の表情を浮かべた自分自身と額を合わせ、舌を合わせ、唇を合わせる。
ゾクゾクと、鳥肌が立つような心地よい感覚とともに、バルガスとメイド達に笑ってもらおうと、わざとらしく音を立てて床を舐めながら滑稽にお尻を大きく振って媚びるたびに、子宮がとろ火で炙られているかのように熱く、切なく疼いた。
「ふふふふッ……もう、笑わせないでくださいよ、バルガス様ぁ。いい加減、ご褒美とかあげないんですか?」
「フン、気が向いたらな。貴様ら馬鹿な女どもは甘くするとすぐ付け上がる。これくらいで丁度いいくらいだろう」
「あはは、酷ぉい。……それにしても凄いなぁ、あのセラ様があんな情けない姿をさせられて、しかも言いなりになってるなんて、正直まだ信じられない。……まあ、こんなもの味わっちゃったら、仕方ないと思うけどぉ」
慣れた手つきで、いやらしく亀頭の先をクルンクルンと悪戯するかのように刺激するメイド。
「ククク……次は貴様の番だなメス豚。股を広げろ」
「あはっ♡ やった♡」
「あ、ずるい! 私が先ですっ!♡」
姦しい声を聞きながら、床を舐めおわった私とセラは頭をあげて、再び待機状態に戻る。
「知らな~い。って、あ、い、いきなりッ……♡ あ♡ だ、だめ、あ、あうぅううう――――ッ!!♡」
「……ッ」
興奮に息を弾ませながら、ただただ目の前の情事を眺めていた。
――気がつけば、空が明るみはじめていた。
いまだ人は寝静まり、静寂が包む時間帯である。――夕餉を済ませた時間から、ほぼぶっ通しで、メイドたちは抱かれ続けていたということである。
はじめこそ私たちを嗤う余裕のあった彼女たちだが、今や見る影もなかった。
はしたなく股を広げた格好のまま、全身を誰のものともわからぬ淫らな液体で汚し、半ば気絶するかのようにグッタリとベッドに横たわり、肩で息をしている。
「はへぇぇ……んぉ、おお……♡」
「ひぃ……ひぃ……はひぃぃぃ……♡」
皆、立ち上がるどころか声を発する気力もないようだ。誰もが卑猥な音色で呼吸をしており、まさに死屍累々といった有様だった。
そして驚くべきことに――未だに、ステファに対する折檻は続けられていた。
「あへぇッ♡ んお゛ッ♡ イグッ♡ あお゛ぉッ……♡」
ベッドの縁に腰掛けていたバルガスに抱きつくような格好で揺さぶられている彼女の声はもはや獣じみており、まともな意識が保てているかはかなり怪しい。というよりも、何度かは気絶しているはずだ。だが、そんなことはお構いなしにバルガスに突き上げられイカされ続けているせいで、眠ることすら許されないようだった。
「クククク……どうだ、男に屈服する気分は。心地良いだろう? いいか、貴様は、この俺の雌奴隷だ。俺の物だ。イク度に感謝しろ。わかったか?」
「かひッ、は、はヒッ……!!♡ に、二度とさ…逆らいませんっ♡、だっ…だから、も、もう、ゆるひへぇぇぇ……ッ♡ ごしゅじんさまっ♡ おねが、やしゅまへてぇぇぇ……ッ!!♡イグッ!!♡ イックぅ♡!」
彼女は従属を誓った後もここ数時間ずっと似たようなことを言われ続け、そして全身を痙攣させながら、似たようなことを何度も哀願しつづけていた。
……これなのだ。この男の凄まじさは。
性豪といってなんら過言ではない、常識外れな精力。
3人の女を相手にして、その全員を絶頂に狂わせ気絶まで追い込むほどに、しつこくて激しいセックス――。
それを、媚薬漬けで全身発情させられた状態で味わって、まともでいられる女など存在するはずがない。
現に、長い間反抗し続けていた彼女の心はすっかり折れ、今では涙を流しながら許しを乞うていた。もう彼女もバルガス無しでは生きていけないだろう。私達のように…
「……あ、あの、バルガス様……」
そのとき、これまでずっと隣で静かにバルガスの命令を遂行していたセラが、はじめて発言をした。
「……なんだ」
セラは、微かに身体を震わしつつ額を地につけた。
「……どうか、お願い致します……お情けを……どうか、お情けを……」
「セ、セラ?」
さすがのセラも、限界がきてしまったのだろう。普段の様子からは考えられないほどに余裕を失った様子で、目の前の主人に泣いて哀願している。
「……ほう。具体的になにをしてほしい?」
喜々としてメイドを責めていたバルガスが、途端に平坦な声に戻り、私とセラを冷たく睥睨(へいげい)した。
――まずい。
バルガスは間違いなく不機嫌になっている。たとえ内容が懇願であったとしても、バルガスの機嫌を逆撫でする危険性は非常に高い……そう焦る私だったが、しかし。
「い、いえ……バルガス様に何かをしていただく必要はありません……その、どうか、バルガス様のお足を、な、舐めさせては頂けないでしょうかッ……」
「……ッ」
それを制止しようとした私は、セラの申し出を聞いて思わず固まってしまった。
(なっ、なにそれっ……わ、私もやりたいぃっ!♡)
私たちに与えられた命令はおねだりじゃなくてお掃除だ。だから、何を言っても怒られるに決まってる。怒らせたら、またどんなふうにお仕置きをされるか分からない。私は身をもってその苦しさを知っている。だから、ここはバルガスに先んじて私がセラを叱らないといけない。
それなのに、私はついセラの申し出のあまりの魅力に息をのんでしまったのだった。
本当はセックスしてほしいに決まってる。でも、セックスではなく足を舐めさせてほしいという控えめなおねだりが、逆に私を欲張らせた。
(あ、足を舐めて掃除する事だったら……も、もしかして、許してもらえるんじゃ……?)
もちろん、これでもバルガスの機嫌を損ねるだけに終わる可能性は十分にあった。でも、「もしかしたら」というちょっとした可能性をちらつかされるだけで、私はもう抗えなくなってしまった。
これは――これは、賭けだった。
セラを制しておとなしくバルガスがその気になるまで我慢をしつづける道か、それとも必死にバルガスの慈悲を乞う道か――。
もはや迷うことはなかった。
私もまた、セラと同じく泣きたくなるくらい辛い気持ちだったのだから。
「わっ、私からもお願いしますっ……! どうかっ、どうか舐めさせてくださいっ……!」
セラと同じく土下座し床に額をこすりつける私。
これ以上焦らされるくらいなら、たとえ性器を弄ってはもらえなくとも、せめてバルガスのたくましい肉体の一部に触れたかった。
そして、わずかな沈黙が流れた。やっぱり駄目だったかと、私は後悔の念に駆られかけた。
しかし――。
「ほう……。たしかに、それならこのメイドの折檻の邪魔はされないな」
何時間も責められ通して、もうボロボロになっているメイドは、その言葉を聞いて「ひッ……!」と声を漏らした。
きっと、彼女は内心期待していたのだろう。バルガスの気が私たちに向けば、彼女はようやくこの拷問じみたセックスから解放されるのだから。
「よし、卑しい雌豚どもに情けをくれてやろう。たしかに、貴様らは俺の命にじっと従っていたからな。罰は大事だが、きちんと言うことを聞いた豚には褒美もやらんといけないな」
グッと、土下座した私とセラの頭をバルガスが踏みつけた。そうして、そのまま無遠慮に頭を蹴飛ばすようにして私たちは床にひっくり返されると、今度は顔がバルガスの大きな足で踏みつけられた。
ゾクゾクゾクッ――と、背筋が興奮で痺れあがった。
「ほら、舐めろ。オナニーもしていいぞ?」
「お、オナニーの許可までっ……!?」
「あっ、ありがとうございますっ、バルガス様ぁっ……!!」
私たちは心底嬉しそうな歓声をあげ、悦びのあまり涙をぽろぽろとこぼした。さんざん焦らされたあとのご褒美は、こんなにも心に染み入るものなのか。
「お前は対面座位でまた犯してやる。しっかり抱きついていろ、マゾメイドめ」
「や、いやああぁぁッ……!! もっ、もうゆりゅひへえぇぇッ……!!♡」
そうしてベッドの上では再び激しい交尾が始まり、私たちは床に寝そべってバルガスの足を舐め始めた。
顔面を容赦も遠慮もなく踏みつけられて、鼻先には風呂も入らず一晩汗だくでセックスをしていた足のにおいが漂う。それを舐めるとなると、舌には気持ち悪い汗の味がピリピリと痺れながら広がった。
それなのに、私とセラはニヘラニヘラと蕩けきった笑顔で舌をめちゃくちゃに動かし、もっともっとと足のにおいと味を貪っている。
乳首はキュンキュンとしながら勃起し、クリトリスははち切れそうなくらいビンビンに充血している。おまんこには次から次へと夥(おびただ)しい愛液が漏れだしてきて、まるでダムが決壊したかのようだった。
「れろッ、れろちゃぶベチョりゅれロッ!♡ んぷれりゅちゅバッ、べろねろぇろちゅバぷぢゅぱッ!♡」
「べろえろレロレロちゅぱレロぺちょれろぉッ!♡ んふーッ、れろちゅぱッ、れろれろんぇろろぉ、れろんッ!♡」
(あぁーーーーッ、きっ、気持ちいいッ!!♡ 気持ちいい気持ちいい気持ちいいいいいぃッ!!♡)
二人そろって、下品にがに股に脚を開いている。ぱっかり開いた膣には指が二本、暴れるように抜き差しされている。
私はさらに勃起したクリトリスを別の手でつまみ、クリクリとしては指の腹で潰してみる。セラはもう一方の手をおっぱいに回し、今にも乳首が悲鳴を上げそうなくらいに強く引っ張っている。
膣口からはトロトロと止めどなく雌汁が漏れだして、床に水たまりを作っていく。ときどき気持ちよくなって腰を浮かした隙に、それはお尻の下に進入してくる。そうして初めて、お漏らしと同じくらいの汁が溢れていることに、ようやく私は気がついた。
(あ、あぁ……♡ せっかく何時間も舐めて綺麗にしてたのに……私のエッチな汁で、また床がべちゃべちゃになっちゃったぁッ……♡ またあとで舐めないとっ……♡)
くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ――――!
自慰に耽る二人の汁音と、バルガスとメイドのセックスの汁音が、部屋をひどく淫靡に彩る。それが鼓膜を震わせると、私やセラはよりいっそう本能的な興奮を増し、オナニーの快感と相まって酩酊しているようになる。
ひどく息が荒くなり、足を舐める舌も狂ったように蠢(うごめ)く。足の裏、指の股、指の一本一本に至るまで、汚そうなところはより重点的に舌を這わせていく。
もう、バルガスの両足は唾液でベトベトになっていた。その唾液を拭うように顔を踏みにじられると、私たちは嬉しそうに嬌声をあげた。
「うまいか、雌豚ども」
バルガスの低い声がする。ここからだと顔は見えない。
「ひゃ、ひゃいいぃッ♡ おいひいれふッ、んぷれるレロちゅばぱぁッ!♡」
「おいひしゅぎて、い、イキしょうれひゅッ♡ んぷちゅぷぱッ、れろねろぢゅぱぷレロぷぱちゅれろッ!♡」
「ふんっ、顔を踏まれながらイクとはどうしようもない豚どもだな。だが、貴様らのような卑しい雌どもにはこれがお似合いだ。チンポなんぞはもったいないわ。汗と垢で汚れた足くらいがちょうどいい」
「ひょの通りれしゅッ、ぺろれろぢゅるるぱッ♡ ごひゅ人しゃまのモノならっ、何れも嬉ひぃれすぅッ♡」
「チンポじゃなくれもッ、んぷちゅぷレロレロッ、気持ひよくなれまひゅッ♡ わらひはッ、バルガスしゃまの雌豚ッ、れひゅからあぁッ♡」
これはもう、一種の恋愛感情のようなものじゃないか。
あばたもえくぼのように、私たちはもはやバルガスのすべてを愛しく思っている。対等な恋人どうしとしてではなく、主人と肉便器の間柄ではあるけれど、これはある種の絆の問題だった。
徹底的に心身を捧げつくした淫らな雌と、徹底的にそれを蔑んでいたぶってくれる力強い雄と――。
バルガスのペニスが好きだ。私をヒィヒィと鳴かせて死にそうになるくらい気持ちよくしてくれるペニスが好きだ。でも、私が好きなのはそれだけじゃない。
私はバルガスのごつごつした手が好きだ、汚れた足が好きだ、たくましい胸板が好きだ、太い二の腕が好きだ、割れた腹筋が好きだ。女を鳴かせる舌が好きだ、痰と一緒に吐かれる唾が好きだ、勢いよく噴射される精液が好きだ。バルガスの暴力が好きだ、バルガスの罵声が好きだ、バルガスの侮蔑が好きだ、バルガスのお仕置きが好きだ、バルガスのご褒美が好きだ。
すべてが――すべてが、私にとっての幸せなんだ。
どんなに酷いことをされようと、どんなに苦しい目にあわされようと、それでも私は幸福になる。性器を弄られる快感がなくても、足を舐めさせられると幸せで、殴られると幸せで、あごで使われると幸せで、見下されると幸せだ。
たとえ、バルガスの排泄物を愛せと言われても、私にはそれが可能だった。愛して愛して愛し抜き、必要ならば口にすることも厭わない。汗だろうと垢だろうと小便だろうと大便だろうと、便器はそれが嬉しくてたまらない。
だって、私は雌だから――。
だって、バルガスは雄だから――。
たったそれだけのこと、それ以外の何ものでもない、それだけのこと。
雌豚はご主人様が大好きで、大好きなご主人様の命令なら、どんなことをしていたって――イクんだ。
「おい、イッてみろ雌豚ども」
「「ひゃいいいぃぃッ!!♡」」
バルガスがそうつぶやいた瞬間、私はクリトリスをちぎれそうなくらい引っ張り、セラは乳首をこれでもかと押し潰した。そして、バルガスによって開発された膣内の弱いスポットを刺激して――。
「イクっ、イクイクイクっ、豚イクッ、イグぅッ――――!!♡」
「イキましゅッ、イクッ、んんんーッ、いッ、イキ、まひゅうううぅううぅぅッ――――!!♡」
私たちは、同時に潮吹きをしながら絶頂した。
まるで噴水のように、私たちの股間からは卑猥な汁が勢いよくビュービューとアーチを描いて噴きだし床だけでなく壁までも汚した。
「よし、偉いぞ。このメイドを犯し終わったら、そろそろ俺も寝るとしよう。おい、雌豚ども」
「ひゃ、ひゃひぃ……♡ はぁ、はぁ、はぁ……♡」
「な……なんれひゅかぁ、バルガス、しゃまぁ……♡ くふーッ、ふーッ、ふーッ……♡」
イッたにも関わらず、私たちはなおオナニーを続けながら返事をした。
バルガスに「偉いぞ」と褒められたことが嬉しくて仕方なく、それを思ってまたオナニーをしたい気持ちが抑えられなかった。
「俺が寝るとき、貴様らも俺の横で寝ていろ。貴様たちなら、護衛としても肉布団としても最適だからな。その柔肌で俺を包みこみながら、肉布団として働け」
「にっ、肉……布団……♡」
「す、素敵……♡」
恍惚とした私たちの心を、誰が知るというだろう。
この喜びは他の誰も知ることのできない、私とセラだけの聖域だ。バルガスの本気の執心というものを勝ち取った、栄光の雌豚だけの名誉だ。このためだけに、私たちは優れた美貌と、いやらしい身体と、男をムラムラさせる性格と、豚としてのマゾヒズムを持って生まれてきたのだ。
「それまでは、もうしばらく足を舐めてオナニーしていろ。いくらでもイっていいぞ、卑しい淫乱の雌豚どもめ」
はるかな高みから嘲笑するバルガスにそう告げられた私たちは、また一気に指の動きを激しくした。一時の間もおかず、すぐさまバルガスへの忠誠とともにアクメをキメてしまいたかった。無様に潮を吹き続けるおもちゃを鑑賞してほしかった。
そして、また子宮から響いてくる絶頂の予兆――。
私たちは、世にも幸福な断末魔をあげながら、一目散にアクメへと駆けていった――――。
二匹の雌豚は、互いの幸せを称えあうように目をあわせていた。
左右からバルガスの鍛えあげられた肉体に寄り添って、ドキドキと静かな鼓動を響かせながら。
幼い頃から寝食をともにしてきた私たちは、こうして目をあわせるだけでお互いの思いを理解しあえた。でも、それは長年を一緒に生活してきたからというだけではない。私たちが、ともに馬鹿らしいほどのマゾで、色情狂の雌豚だからだ。
ふふ……と、小さな笑みを私は浮かべた。
セラは目尻を安らかに緩ませて、それに応えた。
私たちをより一層幸福にしているのは、バルガスがたてる大きないびきだった。
仮にも騎士団長を務める猛者であり、政治的な敵も多い男だ。そのバルガスが、こうしてわずかな緊張感も残さず、すっかり夢の世界に浸りきっている。
これは、つまりは私たちへの信頼だった。たとえ寝込みを襲われようと、私たちがそばに仕えている限り、一切の不安はないという思いの表れだった。
このたくましい肉体を、私たちは二つの方法で癒すのだ。
一つは、私たちの魔術の力で。もう一つは、私たちの柔らかな肉の力で。
今は、安らかにこんこんと眠ってほしかった。その寝顔を見る幸せのためならば、私たちは命さえ犠牲にできそうだった。
また、たくましい胸板越しにチラリと目があった――。
私は小さく頷く。セラも、目をゆっくり閉じて頷いた。
セラは自分を罠にはめてバルガスの奴隷となるよう仕向けてくれた私に、無言の感謝を伝えていた。それと同時に、強い意志の燃えているのを瞳に読みとった。
この意志の炎は、そして私の瞳にも燃え滾っているものだった。
この男を、バルガスを――「王」にしよう。
この私たちのご主人様は知性に乏しく、戦えば私たちには及ばず、魔術を操る能力もなく、弁舌も立たず、人徳もなく、猪突猛進な性格なだけに狡猾で緻密な政治的手腕を駆使することもできない。
それでも、この人は「王」の器だった。この世で最も偉大で、最も優れた「男」だった。
なぜならただ一つ、バルガスだけが手にしているものがある――それは、私とセラだった。そして、私たちには知性も魔力も政治力も、何もかもが備わっていた。
王に多くのものはいらない。
王には、ただ配下を、奴隷を手にする器だけがあればそれでよいのだった。
私たちには知性も魔力も何もかもがあるけれど、王の器はどこにもなかった。私たちは、王の器によって折檻されれば快楽欲しさに泣きむせび、王の器によって慈悲を与えられれば快楽と幸福に歓喜する、下々の存在だった。王と雌豚――それが、私たちだった。
だから、私はすべてを捧げよう。王の器のために、このたわわに実った身体も、魔力も、財産も、何もかもを捧げよう。
この御方を、私たちの力で王にするんだ――!
そうして、国中の富と権力と女をバルガスのものにさせよう。
私たちは――そのバルガスの足で、ぐりぐりと顔を踏みつけられていればそれでよかった。
ああ、なんていう幸せだろう――。
私とセラは、見果てぬ夢にうっとりとして顔を見合わせた。
そして、思う。
この偉大なる王のための計画には、ある巨大な障害が残っている。バルガスが王となる途上に立ちはだかる最大の難敵――それは、私の両親だった。
父――ユピテル・アズライト。
母――セレス・アズライト。
私を生み、私を育て、私を愛した最愛の親――私は今、その親たちを葬らねばならなかった。